表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第五章 疑念の答え
60/167

5.11.目的


 捕まえた四人の水売りを一箇所にまとめ、作戦が成功したことを村民たちは喜んだ。

 これが大きな一歩となるだろう。

 だがそれと同時に、大きな壁に何度もぶつかることになるかもしれない。

 その覚悟を持って彼らは事を成したのだ。

 ここからは、泣き言は許されなくなるだろう。


 刃天は戦った三人を褒めることもなく、唯一意識のある若い男の前にしゃがみ込んだ。

 今の段階で話を聞けるのは彼だけだ。

 さて、これで地伝からの頼みごとを一つ解決できそうだ。


「それにしても、チャリー。よい働きだったな」

「馬車の中の二人を気絶させたことですか? それともリーダーを捕まえた事ですかね? どっちも私の魔法があれば簡単ですよ」

「さすがは冥途の忍びというだけはある」

「まぁ戦闘メイドではありますけども」


 この不吉すぎる言葉だけはなんとかならんものか、と思いながら本題に入る。

 カタカタと震えている若い男に声をかけた。


「よし。お前らの目的はなんだ」

「ぼっ……僕は知らないっ……! 水売りとして……来た、だけだからっ……!」

「どこから来た」

「ベレッド領です……」


 この言葉を待っていた。

 地伝から頼まれていた邪な者共の発見に至る可能性がある情報源だ。

 こいつら四人はまだ生かす価値がある。


 さて、話の続きだ。

 ベレッド領から来たならば、ここで集めた情報はそこに持って帰るはず。

 ではそれをどうするつもりなのか。


 だが残念ながらこの男は多くを知らないらしい。

 震える様子から隠し事をしている訳ではなさそうだし、ここは他三人を起こした方がいいだろう。


 待機していたアオに水を作ってもらう。

 それをまずは馬車にいた二人にかけて強制的に目を覚まさせた。

 現状をなかなか理解できなかったらしいが、縛られている事と、多くの者が武器を持っていることに気づいて諦めたらしい。


 今はアオの制御によって水魔法は使えなくなっている。

 打つ手なし、と判断して大人しくなった。


「さて、お前は何を知っている? ベレッドとヴィンセン領は何を企んでいる」

「……戦争だ。それだけしか俺は知らんぞ……」

「戦ねぇ?」


 敵対している国同士、こうした準備も整えているのが常だろう。

 なので普通に見れば不思議なことはない。

 だが刃天は違った。


「神の下知ではあるまいな」

「!?」


 男は目を見開き、きゅっと口を継ぐんで身を引いた。

 さて、この表情はどちらからきているのか。

 図星を突かれた事による驚愕か、はたまた信仰の厚い神の下知だと言われて何てことを言うのだという驚愕か。


 こちらとしては図星であれば話が早いところだ。

 刃天は睨みを利かせてさらに迫る。


「顔に出たな?」

「なっ何故……! 何故だ! 何故お前のような異人がお触れを知っているのだ!」


 興奮気味に自白した男に刃天は笑う。

 どうやら図星であったらしい。


「ほぉ、やはり下知であったか。こりゃあ収穫だ。おおーい地伝。もうあとはお前の領分だ。任せるぜぇ~」


 朝焼けがかる空に向かって、この会話を聞いているはずの地伝に言葉を届けた。

 神が人間に何か指示を与えたのだ。

 地伝であればそれを調べられるかもしれない。


 ああ、一つだけ分からないことがあった。

 刃天は再び男に顔と短剣を向ける。


「下知があったのはいつだぁ?」

「……つい、最近だ……!」

「二十日ほど前だろう?」

「……! そ、そうだ……」


 やはり刃天がここに飛ばされてから下知は下されたらしい。

 これだけ分かればあとは地伝が何とかしてくれるはずだ。

 もし情報が足りないようであれば、また夢の中にでも出てくることだろう。


 だが……実際には未だに地伝から頼まれたことを全て回収したわけではない。

 この水売りが邪な輩というわけではないし、商人ではあるが商い人の荷馬車とは違う。

 しかしこの水売りの存在と行動は、地伝が求める情報の一端として重宝されるものだった。

 今はこれぐらいでいいだろう。


 ではもう少し何か聞けないか……?

 今調べられるのはヴィンセン領と邪な輩くらいか。

 ゼングラ領の話は聞けそうにないので、この辺りをつついてみる。


「ヴィンセンにこの計画を画策している者がいるな。名は?」

「ヴィンセン領にそんなやつはいない……」


 男がそう言った瞬間、刃天はナイフを握って若い男に投げつけた。

 それは足に突き刺さり、悲痛な声が響く。


「ぐあああ!」

「なにを……!?」

「ああん? なにもこうもねぇだろ。お前の口を開けなくなるのは惜しいのでな。代わりだ代わり」


 新たに魔法袋から取り出した短剣を手の中で弄び、再び構える。

 今度は若い男に向けて。


 なにも知らない仲間を、この男は見捨てることができるのか。

 見物だな、と思いつつ刃天は再び問いを投げる。


「下知があったならばそれを受け取った者がいる。名は?」

「……! そ、そういうことか……」

「思い当たる節があるようだな」

「うぬ……」

「悩むなよ」


 そう言いながら刃天は笑顔で若い男にナイフを突き立てた。

 信じられない物を見るような眼で男は焦りを覚える。

 因みに村民もドン引きしているが、刃天の知ったことではない。


「名は?」

「……じ、ジルード様だ……。神の声を受け取ったのは彼が管理する教会の信徒だが……」

「きょーかい? しんと?」


 初めて聞く単語に首を傾げた。

 刃天はアオとチャリーの方を見て説明を求める。

 一瞬沈黙が続いたが、気を取り直してチャリーが答えてくれた。


「きょ、協会は……し、信仰対象を崇める石像を守る建造物のことです。信徒は崇拝者のことですね……」

「神社と神職みたいなものか」

「は、はぁ……」


 自分なりに解釈したところで、再び男に向きなおった。

 ジルードという人物は教会を管理していると男は言っていたので、教会の中でも上の立場にいるだろうと予想できる。

 あと地伝の為に聞ける事は何かないだろうか。


「戦の大義は何だ」

「大儀……? 敵国であるテレンペス王国に何を躊躇する必要がある」

「神が下知を下した以上、この戦には神の事情があるはずだ。それはなんだ」

「は……はぁ……?」


 彼は本気で訳が分からない、と言った様子で首を振った。

 この辺りの事情は何も知らないようだ。

 さすがに神も人間にすべてを話すほど馬鹿ではなかったらしい。


 これ以上地伝に有益な情報は聞けそうもないな、と感じたのでさっさと次の問いを投げることにした。

 次はこの村の存続のために必要な話をしなければ。


「お前はベレッドから来た人間だよな? ではここで得た話は誰に通す」

「領主だ……。だが俺たちは、その部下に話を通す……」

「まぁ妥当だな。戦の準備はどこまで進んでいる」

「……ゼングラ領を立て直すまでは延期とされたが、功を急いた領主からの要求で俺たちはここに来た……」


 どうやらアオの予測は当たっていたらしい。

 国としての意向は延期ではあったが、今回はベレッドの領主による暴走と考えるのが妥当だろうか。

 ヴィンセン領も一枚噛んでいるかもしれないが……そこは考えても分からないので後にする。


 なんにせよ攻め込む意思があるならば準備自体は調っている可能性があった。

 やはり少しでも早く設備を整えなければならない。


「兵力は?」

「お、俺はそこまで知らない! 本当だ!」

「であればもう用はない。ラグム、ローエン、リッド」


 呼ばれた三人は刃天に近づく。

 何を指示されるのだろう、と待っていると……刃天は捕えた四人の水売りを指さす。


「殺せ」

「「え」」

「はい」


 ローエンだけは即答し、刃天によって痛めつけられていた若い男に向かって持っていた剣を突き刺した。

 声にならない悲鳴を最後に、彼は沈黙する。


 村民は黙ってそれを見ていたが、恐怖の色が幾つか見えた。

 チャリーも目を瞠って驚いていたがアオは平静を保っている。

 この必要性を理解している者は即座に行動ができ、静かに傍観することができているのだ。


 だが、理解していない者はいる。

 ラグムとリッドはローエンに迫った。


「な、なんで殺す必要があったんだ!? 捕えておけばいいだろ!?」

「そうだぞ……ローエン……」

「無理だよ。俺たちの村にそんな余裕はないし設備もない。でも逃げられる可能性がある以上こうしないといけない。俺たちは、時間を稼ぐために口封じをしなきゃいけないんだ」


 もし、逃げられてしまったら?

 彼らは真っ先にこの事を伝えにベレッド領へと戻るだろう。

 伝えられたら最後、確認作業もしないままこちらに兵を送り込んでくるはずだ。


 そうなってしまえば防衛の準備を整えられる時間は大幅に減ってしまう。

 だが情報を流出させなければ相手は自力で調査しなければならないし、しばらくの間は帰ってこないことに疑問を抱かない。

 旅には問題がつきものだから、数日間くらいは余裕があるだろう。

 相手が水売りが帰ってこないことにようやく疑問を抱いて再調査をするならば、準備にかける時間は更に長くなる。


 これを成すためには、やはり口封じが最も効果的だ。

 ローエンの言う通り、これは時間を稼ぐ方法なのである。


「そうだね」


 アオはローエンの言葉に頷き、近づいて来た。


「僕たちには時間が必要。ローエンの判断は何も間違ってないよ」

「シュイ」


 アオは大きな水を作り出し、それで一人の男を包み込んだ。

 溺死させるつもりだと誰もが理解しそれを見届ける。


「……僕も、慣れないと。守るために」


 呟くような小さな言葉だったが、それはラグムとリッドにしっかり届いた。

 二人は覚悟を決めたようで、残っている二人の男の息の根を止める。


 その様子を見ていた村民たちは誰もが口をつぐんだ。

 しかしこの先これが日常となる。

 この道を選んだのはこの場に居る全員なのだ。

 覚悟無しにこの場に居る者はいない、と今は信じるしかないが。


「よくやった」


 アオの頭を撫でながら、刃天は四人を褒める。

 此処を乗り越えたのであれば……この四人はもう大丈夫だろう。

 ラグムとリッドには少しばかり疲労の色が見えたが、こればかりは慣れるしかない。


 さて、水売りはまた必ず訪れる。

 まだ猶予があるはずだ。

 それまでに……迫りくる兵士を跳ねのける程に強固な村にしなければならない。


「さぁ、仕事だ」


 村民に向けてそう言い放った後、刃天は空を見る。


(あとは任せたぞ地伝)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ