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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第五章 疑念の答え
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5.8.腹が減っては何とやら


 しばらく村を離れて狩りを行ってきた刃天は、三匹の鹿と奇妙な獣を一匹仕留めて戻って来た。

 とはいえ村の中まで持って入ると騒がれて面倒になりかねないので、少し離れた場所で処理をするつもりだ。

 魔法袋から成果を取り出して地面に並べていく。


 以前ゴブリンとやらから頂戴した武器などが役に立ったので鹿は簡単に仕留められたのだが、この奇妙な獣は刀を使わなければならなかった。

 矢を二発当てたのにも拘らずこちらに猛進してきたのだ。

 猪の姿をしているわけではないのに、よくもまぁここまで勇敢に襲い掛かって来るものだと感心する。


 この奇妙な獣の姿は熊に近い。

 顔は熊で耳が長く、でっぷりと肥えた腹に四本の足とかぎ爪、更に先端が刃になっている尾が特徴的だ。

 銀色で森の中ではとても目立つのだが石などに潜まれると見えにくいという特性を持っている。

 気配を辿ってみると岩の隙間をもそもそと動いていたのでなんとか見つけられた。

 意外と擬態が得意な熊であるらしい。


 それにしても急所に矢を二本も当てたはずなのにどうして死ななかったのか不思議だった。

 村に持って帰って並べ終えた後、刃天は真っ先に熊モドキの解体に取り掛かる。

 四つ足だし特徴的なのは耳と尾だけなので熊を解体する時と同じ段取りでできそうだ。


 だがまず調べるのは頭部。

 目玉から脳に貫通しているはずなのに死ななかった理由が知りたい。

 骨があるだろう、と思って皮から剥いでいこうと思ったのだが、ナイフは骨を貫通したようにブスリと奥に刺さってしまった。


「おおん?」


 骨というより、軟骨に近い感覚だ。

 ぐっと力を入れてみると頭部は柔らかい軟骨で覆われているらしく、骨格は目や顎、口を形作るものしかない。

 つまり頭部に脳みそがないのだ。


「こりゃ死なねぇわけだ。んじゃ心臓は……?」


 もう一本の矢が刺さっている心臓にナイフを入れる。

 切り進めていくと真っ赤な心臓が見えるはずだったが、最初に現れたのは板のようになっている骨だった。

 矢はその骨を貫通することができなかったらしい。


「はっ。こりゃ刺さらねぇわけだ」


 謎は解けた。

 次からはもう少し効率のいい狩りができるだろう、と本格的な解体に取り掛かる。

 皮を剥ぎ取ったところでアオを呼び、獲物全ての血抜きを任せた。

 それから部位を切り分けていく。


 アオを呼びに行ったことで村民たちも集まって解体を手伝ってくれた。

 どうやら最低限の知識はあるらしい。

 刃天が指示をしなくとも、道具さえ貸し与えておけば己で鹿の解体を進めてくれた。

 久しぶりの肉だ、と誰もが嬉しそうにしている。


「うっし。まぁこんなところか」

「刃天凄いね~。魔物まで仕留めるなんて」

「苦戦はせなんだぞ。少々暴れ回ったが」

「ロックブレードベア……。そんな簡単に仕留められる獲物じゃないはずなんだけど……」

「あん? なんか言ったかチャリー」

「なんでもないですぅ」


 彼女の反応に首を傾げたが、特に問題はなさそうなので腕を組んで村を見渡した。

 来た時に周囲を覆っていた湿気は随分マシになっており、良い風が通るようになっている。

 更にアオが地下水脈を見つけたらしく、それを地表まで持ち上げて中規模の池を作っていた。

 水質も問題ないらしく、これらは飲料水にも使用できるそうだ。

 とりあえずこれでこの村の水問題は解決できたらしい。


 食料に関してだがこの村は二年間存続してきた実績がある。

 この期間をどうしていたのかというと、冬までに水売りから追加で食料を貰ったり、キノコや肉などを乾燥させたものが主流だったようだ。


 この地には海がない。

 だが元からある水源には生物は多く存在していたらしく、そこと繋げることができればこちらにも生き物が流れて来るとの事。

 以前アオが獲った魚は、ダネイルの国に唯一流れていた大きな川に繋がっているようだ。

 まぁこれは時間がかかることだし他にも方法はある。

 今考えるべきことではない。


 村民が解体している姿を見ながら、刃天はチャリーとアオに問う。


「俺が狩りに行っている間何かあったか?」

「うん。まずは村人全員が僕たちの指示を聞いてくれることを約束してくれた。地下水を持ち上げたらすぐだったよ」

「村の代表者はラグムという青年です。刃天さんが蹴り飛ばした気骨のある子ですよ」

「ハッ。まだまだ青いケツの若造だろ」

「刃天も若い方だよ」


 それはそうかもしれない。

 だが今己のことは別にいいのだ。


「他には」

「果樹園を少し見せてもらったかな。果樹が幾つかあってそれを維持してるみたい。湿気が多くて管理が大変だったみたいだけど、もう大丈夫」

「これがこの村の特産と言ってもいいですね。ドライフルーツとか作ってたみたいです」

「ほーん」


 知らない単語は無視しておく。

 だが果実と言っているし、食料であることは間違いないだろう。

 食の幅が広がるのは良いことだ。


 しかし村だけで消費する分しか確保していないので、これを使って取引はできない。

 果樹園を作って量産させるべきなのだが、やはりこれも年単位で時間がかかる。

 手っ取り早いのは生えている木を持って帰ってくることだが……そうそう都合よくは生えていないだろう。

 とはいえ将来性を鑑みて幾つかの苗木は育ててあるらしい。

 これが育って熟れる様になれば少量でも取引に使用できる。


「となれば肥しが必要か。おおーい! そこの鹿を解体してるお前! 臓物は取っとけよぉー!」

「わ、分かりましたぁ!」


 指示を出しておき、臓物を一箇所に集めさせておく。

 肉の解体が終わった後にでも村民に苗木の傍へこれらを埋めさせよう。


「畑は無理か」

「少し村を離れれば平地があるし、僕が作った池からも水を供給できるよ。ただ、種がないんだって」

「作るだけ作っておいても良かろう」

「そんな労働力ないですよ。木を切って切り株全部掘り起こして、そこから硬い地面を耕すんですよ? 切った木も何かに使わないといけないですし、その作業を更にさせるなら担当者決めないとですし。……あと道具がないです」

「問題しかねぇな!!!!」

「刃天さん戦うことしか知らないですよね」

「まぁな?」

「あっさり肯定しないでください……」


 事実そうなのだから仕方がない。

 やりたいことはあるが、それができるかどうかは別の話だ。

 この辺りのことは刃天の得てとしている事ではないので二人に投げておいた方がよさそうだった。


 すると、アオが刃天に声をかける。


「刃天はこれからどうするの?」

「己をどうさせたい?」


 アオの問いに、逆に問うてみた。

 城主は家臣が何ができるかを把握しているべきだ。

 できる事を提示するのは一番最初だけでいい。


 今まで長い間共に過ごしてきたのだ。

 この村民たちを合わせたとしても、最も理解しているのは己のことの筈である。


 刃天はアオが少しばかり思案すると考えていたのだが、そんな考えとは裏腹に間髪入れずに指示を出した。


「じゃあ村人を戦えるように鍛え上げて欲しい。最初に待ち受けているのは水売りだし、彼らに勝つことがこの村の第一歩だからまず勝たないと。戦えない人は村の維持に回す予定。でも人手は足りないから現状維持で精いっぱいかな」

「ではそうしよう。だがその前に……」


 刃天は解体された肉の前に立つ。

 新鮮な状態で食ってやるのが一番美味いのだ。


「腹が減っては戦は出来ぬ。さぁ、まずは飯だ! アオ! 火を起こせ!」

「ま、それもそうか。はいはい~。チャリー、行こう!」

「了解しました」


 その日は大いに盛り上がった。

 新鮮な水、肉とこんな贅沢は久しぶりだと村民は大変喜んでいたように思う。

 今日くらいは羽目を外してもいいだろう。


(明日からは忙しくなるだろうしな)


 さて、水売りが来る日は未だに分からない。

 だが近づいて来れば気配で察知できるはずなので、ここは問題ないだろう。

 その前に、どれだけ仕上げられるか。


 時間との勝負である。


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