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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第五章 疑念の答え
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5.7.真正面から


 水売りをどうするか……。

 これが本題である。

 相手は水魔法の使い手だと聞いたが、こちらにはアオがいるので大した問題にはならない。

 真正面からぶつかり合う分には勝機は確実なものだと言えるだろう。


 だが問題は次だ。

 再び訪れる水売りを取っ捕まえて尋問することは簡単だ。

 どうせ魔法とやらに頼っているのであれば接近戦は子供と同程度の実力しか有していないだろう。


 しかし組織を侮ってはならない。

 派遣した水売りが帰ってこなかった場合、何かがあったのだと勘ぐるに決まっている。

 そこからどこで消息を絶ったのか調べるためにまた複数名こちらに派遣されるはずだ。

 更に言えば、遠隔で連絡を取り合う術もある。

 ドリーとの戦闘後に接近してきていた者共は連絡を受けてこちらに向かってきていたのだ。

 前例がある以上、下手に動くことはできない。


「順を追って整理するべきか。水売りを殺すとどうなる」

「帰ってこない水売りを案じて調査隊が来るでしょうね。これを防げるか否かで村の存続は変わるかと」

「相手は敵国のダネイルだし……大きく露見されれば戦争の火種になるかもしれない。相手は二年間の準備期間があったんだから手際は良いはずだよ」

「ふむ、この場から逃げるとどうなる」

「実のところ最も良い手段だと私は思います。ただあの人たちはもうこの村から出ようとは考えないでしょうね」


 道理だ、と頷く。

 村民たちは長い間旅をしてきてようやく根を下ろすことができたのだ。

 この場所をそう簡単に手放すことはしないだろう。


 ともなれば、迎え撃つことを方針として設定した。

 さてはて、この村には大きな問題が一つ残っている。


「極刑を下されぬためには、何をすればいい」

「テレンペス王国に害を成さず、ダネイル王国に打撃を与える事です。どんな形でも構いませんが、とにかくこの村がテレンペスの為にダネイルに立ち向かったという実績が必要ですね。そうでなければ……。情報提供という裏切りをカバーできないかと」


 刃天は顎を撫でて一つ息をつく。

 裏切り行為を逆手に取って信頼関係を築き、逆に攻勢に転じるという形が好ましい。

 水売りからすれば何の力もない村民だと思われている事だろう。

 やろうと思えば、今からでも実行は可能だし二年間取引を続けてきたので相手は確実な情報提供者としてある種の信頼を置いているはずだ。


 相手の隙を突くことは容易。

 では具体的のどのような事を成せばよいのか。


「水魔法使いをおびき寄せて殺し続けるのは手柄として薄いか」

「薄いと思うよ。せめて土地を潤せる力を持ってる人くらいじゃないと。あと時間がかかる」

「では元凶の領主を潰すか」

「手柄としては一級品ですけどこの人数でどうするんですか……」

「アオって津波起こせるんじゃなかったか?」

「そ、それは大量の水があるからできるわけで……。作り出すのは無理だよ……」

「ふむ。ならば……」


 水売りを殺したところで意味はない。

 今の状況で攻勢には出られない。

 ともなればやれることは限られてくるのだが……刃天は一つ策を思いついていた。


 だがこれは時間がかかる。

 とはいえ水売りがいつ来るかもわからなければ、水売りの仲間が調査隊を組むのにも時間を要するはずだ。

 つまり、こちらにも準備期間はある。


「水売り及びダネイルからの攻撃すべてを跳ねのければどうだ」

「……もう一回聞きますけど、この人数でどう実現させるんですか……」

「つまりテレンペスに己らの価値を見出させればよいわけだ。違うか?」

「ま、まぁそれはそうですが……」


 堕ちぬ村。

 すべての攻撃を耐えられるだけの防御面、そして死なない兵を生み出せば村の価値は大きく変わる。

 テレンペスの最前線を守り続ける村があるとなれば、城主も少なからず興味を持つはずだ。


 とはいえ茨の道であることは間違いない。

 村民は二十三人。

 刃天たちを合わせて二十六人と一匹。

 まともに戦える者たちを数えてみれば半数も満たないだろう。

 兵士を育てるにしても一朝一夕で刃天のようになれるわけでもないし、防衛設備もそう簡単には作れない。


 だが、十人いればいい方だと刃天は考える。

 昔もそうだったのだから、この世でも同じことだ。

 彼らには少々キツイ思いをしてもらう必要があるが……これで村を守ることができるのだから本望だろう。

 刃天は村民たちを見ながら不敵に笑った。


「盤石な基盤を整える。それだけで今は充分だ」

「食糧問題とか人員補充とか、隣街への侵攻とかいろいろ考えなきゃですけど……。まぁ今はそれでいいかぁ……」

「刃天。できるんだよね?」


 アオが期待するようなまなざしでそう問うてきた。

 いい問を投げるようになった。

 刃天は不敵に笑ったまま、一つ頷く。


「応」

「じゃあ任せるね!」

「おうよ。はぁ~あ、だがあの鷹匠がいりゃあちったぁマシになるんだがなぁ~!」


 懐かしい顔を思いだして愚痴る。

 なんでも知っていたあの鷹匠であればもっとましな策を思い付くだろう。

 しかし無い物ねだりをしても仕方がない。


 アオの期待に応えるため、まずは兵の育成をしなければ。

 細かいことはあとでいい。

 直近の課題から着手し、まずは力を蓄える。


「よぉし……。いや、まずは腹ごしらえか。アオ。肉はあるか?」

「ちょっと心許ないかも」

「んじゃ先に狩りだな。アオはこの村の整備を頼む」

「わかった」


 ぱぱっと役割を決め、刃天は森の奥へと進む。

 さて……ここからだ、と少し楽しげにしながら気配を辿って獲物を探しはじめたのだった。


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