表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第十章 侵攻開始
163/167

11.6.決意を叩きつける


 動揺が広がりつつある玉座の間を、アオ、刃天、地伝は突き進む。

 踏みなれない豪勢なカーペットに眉をひそめつつ立ち止まると、アオは軽く一例をした。

 他二人はなにもせずただ玉座に座る男を睨み付ける。


 これが不敬に当たるかどうかは関係ない。

 もしそうだったとしても敵国の人間に頭を下げる必要がどこにあるのか。

 三人の態度を見た執事らしき人物が何か言おうと息を吸ったが、刃天が『ねめつけ』で黙らせる。


「……ッ!?」

「よせ。死んでしまうぞ」

「ああ? よわっちぃな……」

「幾百人の命を絶った人間の気圧を常人が受けられるとは思わぬことだ」

「それもそうだな」


 刃天が殺気を納めると、気に当てられた執事は喉に手を当てながら大きく深呼吸をして膝から崩れ落ちた。

 落ち着くまでは喋ることすら難しいだろう。

 過呼吸気味になっているため、使用人の一人が案じて背をさする。


 玉座に座る男は一粒だけ汗を垂らした。

 隣にいる男もそうだ。

 平気そうな顔をしているが、そう努めるのに必死で恐怖をなんとか押さえ込んでいる。


 だが持ち前のカリスマ性でゆっくりと息を吐いて威厳を保った。

 声を震わせることなく、男は口を開く。


「久しいな。エルテナ」

「お久しぶりです。ダネイア国王陛下。レガリィーさん。それと……」


 アオは視線を横にずらす。

 そのまま睨み付けたのはアオの最終的な復讐目標である男だった。


「ヴェラルド・マドローラ」

「……ッ」


 この男がそうなのか、と刃天と地伝は視線をそちらへ向ける。

 小太りのいかにも贅沢をしていそうな人間だ。

 小さな髭がそれをさらに強調させている。

 

 怪力男、なにもしていないのに一人の男を過呼吸にする男に見られたヴェラルドは二歩さがった。

 恐ろしさのあまり腰に携えていた剣を握ったが、それは使用人に止められる。

 使用人はヴェラルドを落ち着かせたあと、こちらに振り向いて軽く会釈した。

 無礼を働きかけたことに対する謝礼なのだろう。


(おお? あの召し使い、よい勘を持っているな……)

「貴様も気づいたか?」

「まぁな」


 小声でそう話しあう。

 あの召し使いは刃天が小指を動かした瞬間にヴェラルドを止めた。

 抜刀しようものなら剣でも折ってやろうと思ったが……あの召し使いの方を気に止めた方がよさそうだ。


 すると、ダネイアが口を開く。


「客人の前だぞ。よせ」

「……ハッ……」

「ダネイア国王陛下。本題に入って宜しいでしょうか」

「そうだな」

「私が呼ばれた理由はなんでしょう。招待の旨だけが記されており他にはなにもありませんでしたが」

「では単刀直入に言おう」


 ダネイアは一つ息を吐く。

 重々しく開けられた口からは耳を疑う言葉が飛び出した。


「ダネイルに戻ってこい」


 刃天が鯉口を切った。

 それと同時に先程の使用人が剣の柄を握る。

 反応速度は非常に早く、やはり手練れであるとわかったが……アオがそれを阻止した。


「……いいのか」

「僕にやらせて」

「いいだろう」


 苛立たしげに柄頭を叩いて納刀する。

 腕を組んで無防備となると、使用人も柄から手を離して戻っていった。


「ダネイア国王陛下。戻れ、とは?」

「ここが君の古巣だ。帰るべき場所だ。そして、あの一件については……全て調べあげた。バード!」

「承知」


 先程の使用人が動いた。

 目にも止まらぬ素早さで移動した彼は一瞬でヴェラルドを拘束する。


「なっ! こ、これは!? ダネイア国王陛下! どういうことですか!」

「貴様の愚行は全てこのバードが調べあげた。水源に毒を流し、ウィスカーネ家を陥れたな。領民をも騙し全てを敵に回させた。この罪、死んで償えるものではないと知れ」


 そのやり取りを三人は呆れながら眺めていた。

 何を今更、遅すぎる、というのが本音だ。

 もうアオの心は決まっており揺らぐこともない。


 アオはため息を吐いた後、首を横に振った。

 その仕草にダネイアは目を細める。

 これではアオの心を動かすことができなかったと悟ったらしく、すぐに口を開いた。


「……本当にすまなかった。私はこの男の言葉を鵜吞みにし、間違った判断を下した。真犯人を捕らえただけで償えるようなことではないのは重々承知している。我が一生を使って君に償おう。望むものを、爵位を、我が力が及ぶ範囲であれば何でも授ける。だから、戻って来てはくれぬか。ダネイルに」

「……そういうことでしたか。そうですね……」


 わざとらしく考える仕草をした後、アオは顔を上げた。

 回答を待つ者はダネイア国王陛下だけではなく、その場にいた全員が固唾を飲んで見守っている。

 大きく息を吸って吐き出したのは、アオの決意だった。


「そんなもん! いるかぁ!!」

『『!?』』

「「!? フッ、ハッハッハッハッハッハッハッハ!!」」


 玉座の間に響き渡ったアオの言葉に、ダネイルの関係者は目を丸くして驚いていた。

 そして付き添いで側に居た二人はこの回答に爆笑する。


 大人に、最高権力を有す国王に、面と向かってそんな事を言うとはさすがに予想していなかったのだ。

 あの地伝ですら大きな声を上げて笑っている。

 玉座の間には今、二人の笑い声しか響いていなかった。


 だが、これを良く思わない者は大勢いた。

 ダネイア国王陛下はもちろんの事、側に居たレガリィーも眉をきつくして睨みつけてくる。

 近くに居た兵士、貴族たちですら敵意を向け始めた。

 明らかに危機的状況になりつつあるが、それでも刃天と地伝は笑いとこらえきれなかった。


「なぁっはははは! こりゃあ傑作だ! ええぞええぞ! はっはっはっはっは」

「クククク……! 齢十そこらの童が……! クックフ……このような場でそのような言葉を叩きつけるとは……。くはははは……!」

「笑わないでよ」

「いやぁすまんすまん。だが……」


 指摘されてようやく笑いを押さえ込んだ二人。

 周囲から飛んでくる強い殺気や敵意を感じ取っていた刃天は、栂松御神の鯉口を斬った。

 それと同時に、アオを褒める。


「よく言ったぁ!!」

「それには同感だ」


 二人は同時に抜刀した。

 地伝の刀が炎を吹きだしたが、柄頭を叩いて叱り、炎を無理やり引っ込ませる。


 久しい伽藍洞(がらんどう)な構えを取った刃天は、片手に栂松御神を握り、乱暴に足を広げて腰を下げて前のめりになる。

 地伝は相変わらず見事な姿勢を保っており、片手に地獄の日本刀、もう片方の手は鞘を軽く握っていた。

 アオが国王陛下の要求を拒否したことと、二人が戦闘態勢に入った事で交渉は完全に決裂したのは、誰の目から見ても明らかだ。


「それが……答えか……! エルテナ!」

「家族を! 使用人たち皆を! 慕ってくれてた領民を! 僕から奪ったダネイルに戻る訳ないだろ!」

「はっはっはっはまっことその通りだ! お前、こいつと出会ってから己のことしか考えてなかっただろぉ……? どうすれば国土を守れるか。どうすればアオを引き込めるか。だからアオの身を案じすらしなかった。アオの家族が陥れられたって知ってたんなら……もっと違う台詞が吐かれてもいいはずだがなぁ?」

「貴様……!」

「城を……ふむ、この世では領土か。画策していた策を見事に返されたテレッド。瞬きの間に落とされたベレッド、ヴィンセン。その要は水の子だ。刃天、アオ。この先なにが起こるかは分かるな?」

「勿論」

「分かってなきゃ刀は抜かねぇよ」


 その刹那、ダネイアが片手を振り上げた。

 バッと前に振り下ろした瞬間、周囲に居た兵士たち全員が剣を抜いて迫って来る。


「逃げるぞ!」

「はい!」

「こりゃ面白くなりそうだ!」


 三人が踵を返そうとした瞬間、地伝の前に刃が迫る。

 それを地獄の日本刀で阻止した地伝はバードという使用人の顔面を片手で掴む。


「んぐ!?」

「やはり貴様が先に飛び出したか。厄介故先に潰すぞ。六割だ」


 ベギョチョッ。

 軽く顔面を握りつぶした後、そのまま振りかぶって壁に放り投げる。

 その力は六割ということもあって凄まじく、周囲に爆風を発生させた。

 目にもとまらぬ速度で投げ飛ばされたバードは、大理石の壁に直撃して真っ赤な花火のように飛び散ってしまう。

 一気に広がった血生臭さと鉄臭さに、側に居た多くの者が悲鳴を上げて逃げていった。


「加減しろってんだよ!!」

「五割だった」

「早く行くよ!!」


 三人は玉座の間を飛び出し、逃走しはじめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ