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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第十章 侵攻開始
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10.20.逆襲


 ベレッド領とヴィンセン領は比較的近い場所に位置している。

 馬車で二日ほどの距離だが馬だけで向かったので一日程度で到着することができた。


 やはりベレッド領は傍から見ると豊かな領土だ。

 人々の往来も多いし建造物も多いのだが……チャリーとリタンは以前来た時と様子が違うとすぐに看破した。


「……なんか変ですね」

「なんだろう……?」

「……家の中に誰も居ねぇ」

「「え?」」


 刃天は周囲を見渡す。

 確かに街道を歩いている人間は沢山いるのだが、どういったわけか店や家の中にはほとんどと言っていいほど人がいなかった。

 遠くの方まで気配を探ってみるが……刃天が探れる範囲にはいない様だ。


「で、どっちに向かう?」

「どっちとは?」

「あ? 教会か、領主の所かどっちかしかねぇだろうが」

「出端から諸悪の根源を叩きに行くつもりですか……」


 刃天としてはそちらの方が手っ取り早くていい、と思っていた。

 そうすれば後々のことも楽になるはずだ。


 だが勝手に殺してしまうと領民たちが解放されたという実感を得ないまま終わってしまいかねない。

 彼らにも何かしら仕事を振ってから突撃した方が現実的だし、領民にとっても良いのではないかという話にまとまった。

 刃天としてはつまらなかったがここは譲歩する。


 と、いうことなのでまずは領主であるベンディノに会いに行くことになった。

 領主の館はリタンが知っていたので、彼に道案内を頼んだ。


 無駄に大きな通りなどを幾度か曲がりながら進んでいけば、目的地へと辿り着く。

 随分豪勢な館で、とにかく広い。

 庭から広く、それを全て囲っている鉄柵もなかなか大きかった。


 大きければよいものではないと思うが、と思いながら刃天はその鉄柵の門をくぐる。

 使用人が出て来てその対応を二人に任せつつ案内に従って行けば、ようやくベンディノがいるであろう部屋に到着した。

 ここに来るだけで何故こんなにも時間を費やさねばならないのか。

 やはりジルードを真っ先に斬りに行くべきだった、と後悔しながら部屋の中へと入る。


「失礼します」

「んお!? おお! おお、おお! ようやく来たか待ちくたびれたぞ~!」

「……」


 思っていた通りの対応に、三人は若干引いていた。

 ベンディノは大変良く目立つ真っ赤な服に身を包んでいる。

 髪は長く後ろで一つに束ねており、ちゃらちゃらした様な雰囲気を常に醸し出していた。


 なにせ動きがうっとうしい。

 言葉を発するごとに大きな動作を行うので、それがまた苛立ちを助長させた。


 ベンディノはすぐ近づいてきて三人の手を取って強く握手をする。

 パッと手を離したかと思えばすぐに言葉を放った。

 だが、この時は今までの雰囲気を完全に殺し、全くの別人を装ったように思えた。

 それほど、真剣さが伝わってきたのだ。


「こっちの準備はもう整ってる。現在のベレッド領の内情を説明したらどんな者たちでもこっちに寝返ったよ。まぁジルードには知られてるって思っていいだろうけどね。あとは一発どでかい鐘の音を鳴らせば作戦開始だよ」

「「……」」


 あまりの代わり様にチャリーとチタンは口を閉じて目を瞠る。

 刃天だけはすぐに返事をした。


「戦力は」

「貴族が持つ九割の私兵。合図があればすぐに戦闘……っていうか制圧作戦が開始される。目標は教会と繋がってる貴族や商人の捕縛。あとは……ジルードの捕縛、もしくは殺害」

「反抗する勢力は幾らだ」

「俺の言葉を信じなかった者たちが数名。どれも教会から甘い汁を吸い続けてきた豪商や貴族だ。容赦情けなど必要ない」

「手際がいいな」

「昔同じことをあいつらにやられたからなぁ! 甘い匂いに誘われた虫共が! 今まで甘い蜜を吸い続けた分、この作戦が終了した後にでも徴収してやるから覚悟してろってんだ!」


 強く拳を握りしめて決意を新たにするベンディノ。


「……あ、そう」


 興味なさそうに返答した刃天は、パッと踵を返す。

 準備が整っているのであればこんなところでうだうだしている必要はない。


「はやく鐘を鳴らせ」

「……え? もうやるのか?」

「そのために来たんだが?」

「おお、そりゃそうだ! まぁ幾らか足りないものはあるかもしれないが……なによりダネイルに反旗を翻すなんて面白そうじゃあないか! では参ろう!」


 ベンディノがバッと決めポーズを取った瞬間、彼の背後にある窓の景色が大きく変わった。

 ドーン……という爆発音がしたと思ったら、カタカタと小刻みに部屋が揺れたのだ。

 そして遠くの家屋が崩れていく。


「……これが、合図か?」

「んなわけあるかい! あーんにゃろう先手打ちやがったな!」

「刃天さん、リタンさん。これは早く行った方がいいかもしれません」

「そうだね。相手は金だけは今沢山持ってる状態なんだ。何かを調達するなんて容易いし、人も雇うのは……容易い」

「ったく。こんな所に来るべきではなかったか」


 窓を開けて身を乗り出し、金を鳴らすように使用人に叫び散らしている領主を白い眼で見ながら舌を打つ。

 早く主犯格を仕留めなければ被害がどんどん大きくなるだろう。

 さすがに追い詰めすぎたか、と思ったが起こってしまったことだ。

 さっさと収拾を付けなければならない。


 刃天とチャリーが動き出そうとした時、リタンが杖を掲げた。


「お二人さん、ちょっと待って」

「なんだ」

「君たち二人だったら目的地にすぐ飛ばすことができる。一瞬で景色が変わるから気を付けて」

「ほお? チャリーの魔法か」

「それとはちょっと違うんですけどね。お願いします!」

「はいよっ!」


 カンッと杖で床を叩きつけると、魔法が発動する。

 一瞬で景色が切り替わった。

 チャリーは慣れているので大丈夫だったが、刃天は初めてのことで若干足をもつれさせる。


「んぐ……!? チャリー、お前よくこれを使う気になれるな!」

「何事も慣れですよ。さて、教会の前ですが……」

「ではさっさと攻略しよう」


 鐘の音がベレッド領中に鳴りはじめた。

 準備していた者たちが一斉に飛び出し、それぞれに割り振られた制圧場所へと向かっていく。


 これだけ早い時間で根回しをできたのは、ベンディノの人望もそうだがやはり長年計画していた事だったということが大きいのだろう。

 教会の勢力が伸びていくごとに作戦に変更を加え続けてきた。

 一度負けたと言っていたが、それが良い経験になって今に活かせている。


 あんな振る舞いをする男だが、実力と根性はあるな、と刃天は胸の内で褒めておく。

 絶対に本人の前では言ってやらないが。


 鯉口を切り、栂松御神を抜刀する。

 チャリーも短剣を両手に持って構えを取るが、刃天が笑っていることに気が付いた。


「……え、どうしたんですか?」

「いやなに、久しぶりだと思ってな」

「何がです?」

「この栂松御神(つがまつごしん)。名の意味は分かるか?」

「いやさっぱりですけど」


 日ノ本で名付けられた武器の意味など、チャリーが分かるはずがなかった。

 そりゃそうか、と小さく笑った刃天は簡単に説明する。


「こいつは神社の御神木、栂松(つがまつ)を守るために打たれた日本刀だ。だから栂松御神。だがこの栂松には別の名がある」

「その別の名ってのは?」

「トガ。栂松(とがまつ)栂松(つがまつ)咎人(とがにん)を磔にする際に使われていた松なのだ」

「……はは、言いたいことが分かってきましたよ。その武器は咎人を斬ってこそ、その名に相応しい……と?」

「ハッ。まぁそういうこった」


 栂松という御神木を守るためにこの刀が抜かれるのであれば、それは咎人を斬る為だ。

 今回は状況こそ違えど、今まで美味しい思いをしてきた人間を斬る……。

 彼も咎人であることには間違いない。

 この刀が吸うべき血であることは確かであった。


 ふとそんなことに気付いた刃天は笑みを浮かべながら進んでいく。

 チャリーもその後に続いた。


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