10.2.一度帰還
無事にテレッド街を治める人間がディバノに決定し、これから本格的に統治をしていくことになった。
何はともあれテレッド街を綺麗に片付けなければならない。
戦死した人間を丁寧に埋葬すると共に、燃えてしまった家屋の撤去は修理、再建を行っていく為の段取りを整えていく。
これは兵士や冒険者より、テレッド街に住む住民たちが積極的に取り掛かってくれた。
だが戦場になりやすいテレッド街を恐れてレスト領に移住してしまう人間もちらほらいるようだ。
こればかりは仕方がないだろう。
確かにここは最前線になりやすい。
ディバノは教会に頼んで戦死した兵士と埋葬するとともに、戦ったダネイル兵も埋葬させた。
戦いの中で命を落とした人間は国のために戦い散っていったのだ。
彼らの戦いぶりは凄まじかったし、それを称えてやりたいという気持ちがあった。
しかしこれには賛否両論の意見が兵士の中で飛び交った。
実際に戦い仲間を失った者たちの憎しみを、ディバノが理解できるわけがなかったのだ。
敵など獣の餌にしておけばいい、という意見もあれば新領主の意見は正しい、と擁護する者もいた。
どちらかといえば賛成意見の方が多かったが『死者をこれ以上傷めつけることは冒涜だ』とガノフ騎士団長が一喝したことで意見は一つにまとまった。
そんな調子でテレッド街の復興作業が行われている最中、ディバノは弟であるコルトをトールと共に開拓村へと行かせることにした。
これがコルトを連れてきた理由なのだ。
アオから水魔法の扱い方を学び、村を維持できるようにしてもらう。
少し時間がかかってしまうかもしれないが、これが成功すればアオが自由に村から動けるようになる。
それと同時に水源を繋げるためにテレッド街で水路の工事を開始。
まだアオに話を付けてはいないが『断られることは絶対にないはずだ』とディバノが言うので作業が始まったのだ。
テレッド街にも大きな水路を引かなければならないので、復興と共に着工する。
「見事な采配だな」
「それでも足りないものは沢山ありますから、まだまだこれからでしょうけどね。城壁も作らないといけませんし」
「では期待しておこう」
刃天とチャリーも、一度開拓村へと戻ることになった。
ここに居てもいいのだが一応仕事は終わったし、二人はディバノではなくアオの下についているので合流したかったのだ。
しばらく開けていた開拓村の様子も気になる、ということもあるが。
「んで? 鷹匠はどうする」
「しばらくしたら一人で戻る。その時獣人はここに置いていくつもりだ」
「いいのか?」
「来るやもしれぬ獣人を迎え入れるのは獣人しかおらん。此度ばかりは噂が嘘になってはならぬからな。しかしこいつらに普通の生活は無理だ。しばらくは若領主の護衛にでも回してやろう」
「ハッ。まぁいい案だ。じゃあしっかりやれよ」
「任せよ」
ギルドの前で準備をしていた馬車に乗り込む。
全員が乗ったことを確認したトールは手綱を操って馬を走らせた。
それを見送った衣笠とロウガン。
ガラガラという音が次第に遠くなる中、ロウガンが口を開いた。
「本当に俺たちはここに居て大丈夫なのか」
「あの犬っころ二匹はどうしている」
「暴れてひとしきり満足したのだろう。騎士共のお陰もあって今は戦果を高らかに語って楽しんでいる」
「お調子者だったか。まぁ反抗の意思がないのならばそれで良い」
そこで衣笠はこちらをギロリと睨んだ。
「間違っても問題は起こすなよ? さもなくば策は水の泡だ。これから来るであろう獣人にも強く周知しておけ」
「……分かっている」
鋭く言い放った衣笠に、ロウガンは若干身震いする。
彼がこれだけ強く言うことは珍しい。
それだけ重要なことだと理解できたので、彼の言葉を肝に銘じた。
言いたい事だけを言って踵を返した衣笠は、そのままギルドの中に戻ってしまう。
取り残されたロウガンは感謝すると共に恐怖する。
やはり彼にだけは敵に回してはいけない。
「……この俺が身震いするとはな」
恐ろしい人間がいたものだ、と改めて思う。
それからロウガンは獣人たちが問題を起こさないように今一度この作戦を共有することにした。
存在が周知された今、これからの立ち回りは非常に重要になってくる。
獣人再興への道を大きく踏み出したことを身に染みて感じたロウガンは、ギルドに背を向けて歩いていった。




