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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第十章 侵攻開始
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10.1.名声


 沈静化したテレッド街だったが、それでも戦火の傷跡というのは深く残っていた。

 建造物の多くは半焼し、略奪によって多くの被害が出てしまったのだ。

 財産を奪われた者がいるのはもちろん、住む家すらなくなったという者たちも少なくなかった。


 調べた結果、テレッド街の損害は四割。

 テレッド街兵士は二千の内半分が戦死し、八百弱が負傷している。

 増援として送られてきたレスト領兵士たちも三部隊の壊滅と、それを抜いた全体の四割に及ぶ死傷者……。

 これだけの被害と損害が出ているのでテレッド街を立て直すのには相当な時間を要する。


 更に臨時有の戦闘員として使える冒険者たちも、仲良くしていた兵士がダネイル兵だったりして裏切りに遭い、こちらも被害が相当出ていた。

 さらに問題なのはギルドマスターがダネイル側の人間に寝返っていたという点だ。

 これによって冒険者をまとめられる人間がすぐには見つかっていなかった。


 ギルドの維持は職員たちで回せるのだが……。

 まとめ役がいないというのはやはり問題だ。

 早急に決定しなければならなかったのだが……候補に挙がっていた人物も先の戦闘で命を落としているなどして、後継者を見つけることがなかなかできていないらしい。


 そんな報告を聞いたディバノは、冒険者ギルドで臨時に作った会議室の椅子に座ったまま息を吐いた。

 もっとうまく対応できたのかもしれないが、長い時間を使って準備を整えてきたダネイル兵だ。

 こういった状況になることも考慮していたのだろう。

 その結果がこの被害報告書の数だ。


「流石ダネイル国王の側近だね……。レガリィーだっけ?」

「政治も戦時の作戦もあの人が多くを任されていました。戦時で言えばレガリィーの作戦で失敗した事例は少ないですね」

「元ダネイル王国の人が言うんだから、そうなんだろうね……」


 淡々と答えたチャリーも、あまり敵に回したくない人間だと最後に零した。

 レガリィーとリテッド男爵がやり取りをしていたのだから、この作戦はレガリィーのものだろうと予想することができる。

 時間を稼ぎ、各個撃破している間に二千の増援を送り込んで押し返すつもりだったのだろう。

 もし増援がいなかったとしても、刃天たちが注意を引いていなかったらダネイル兵はレスト領兵士の増援の接近をいち早く確認できていたはずだ。


 兵士が先にレスト領兵士の増援を確認し、略奪を開始したとすれば……。

 被害の数はこれだけではなかっただろう。

 ここは兵士の注意を引いてくれていた刃天、衣笠、チャリーに感謝である。


 だが、ここまでの報告は騎士団が集めた戦闘における被害状況だ。

 部屋に入って来たトールが持ってきた書類が、テレッド街の機能停止による交易や補給などの報告書である。


「多いね……?」

「私も驚きました。このテレッド街は交易都市のような場所でしたので、冒険者などは魔物退治ではなく護送の依頼を多く担っていたようです。つまり、戦闘経験はそこまでありません。更に水資源は交易に頼りっきり。ここで生産できるものは多く、主に剣や衣服などではありますが、それも材料がなければ作れません」

「材料も交易に頼ってたんだ」

「そういうことになります。ある程度生産している場所もありましたが……。急な都市の拡大で生産地が追いやられていますね。ですがそれも特に問題はなかったようです。今までは」

「ダネイルからの物資はこれから無くなると思っていい。水資源は絶対に来なくなる……。でもこれは大丈夫だよね」

「アオ様に水源を繋げてもらうように打診しましょう。作業員はこちらから捻出出来ます」

「うん」


 この中で最も早く解決しなければならない問題は、水資源だ。

 アオや刃天が開拓していた村は常に水資源に困っていたし、テレッド街もその問題は抱えていた。

 だがダネイルから送られてくる水で充分に賄えていたらしい。

 レスト領からも送っていなかった訳ではないが……商売をする人間の多くは水資源を持ち運んで買い取ってもらっていたのだろう。


 他にも水魔法使いを多く配置するなどといった対策も取っていた。

 そういった冒険者もいたので、彼らには水資源の補給をし続けてもらっていたようだ。


「ううん……。やっぱりあの村が無くなってたのは大きいね……」

「冬の間は気付かれず放置されていたようでしたからね。あちらも開拓を進めますか?」

「今は余裕があるけど、早く対処しないと食糧事情が牙を剥いてくるはず。その分の余裕はある?」

「今ここに居るのは兵士ばかりです。こればかりはレスト領から開拓できる人間を連れてくる方が良いかと。水にはもう困りませんから余裕を持って遅れると思いますよ」

「そうだね」


 廃村の復興。

 これが成功すると、多くのことが二つの村とテレッド街で担えるようになる。

 これを説明しようとしたところで、トールが口を開く。


「名前がないのは不便ですね」

「そういえば……確かに。あの廃村はテノ村だったっけ?」

「そうですね。しかし開拓していた村は把握していない場所だったので名前がないです。チャリーさん。なにか名前とか……」

「いや、考えたことないですね。聞いたこともないです」


 それを聞いていた刃天も宙を見て思い出してみるが、確かに名前に関しては一切言及してこなかった気がする。

 なくても特に困らなかったというのが本音だ。

 だがあることに越したことはない。

 これから他の街と交流するのならば必要なものだ。


 しかしどう名前を付けたものか。

 ディバノたちが名前を付けられる権利を持っているとは考えていない。

 なので自然に刃天とチャリーに視線が向くのだが……。


「い、いやぁ~……。私もそこに居た人間って訳ではないので……」

「俺もそうなるな」

「じゃあ保留だね~。便宜上開拓村ってことにしておくね」

「戻ったらラグム辺りにでも決めさせるか」


 コホン、と咳払いをしたディバノはようやく説明を始める。


「開拓村で水資源と木材の調達。復興したテノ村で食糧事情の解決。テレッド街で加工品などの生産、売買ってのが大まかな理想になるかな?」

「テノ村は破壊され、放置されていたとはいえ元々農村です。開拓もそこまで苦戦することはないでしょうし、木材の調達が開拓村でできるならば復興速度も早くなるかと」

「やることいっぱいだぁ……」


 ぺしゃっと机に突っ伏したディバノ。

 その気持ちは痛いほどよく分かる、とその場にいた全員が頷いた。


 だが悪い事ばかりではない。

 刃天が窓から外を見やると、獣人たちが騎士団たちと談笑をしている。

 彼らがいなければ増援が到着していたということをディバノたちが丁寧に説明し、味方であることを周知させると騎士団は積極的に交流を図った。

 好奇心もあるだろうが、彼らがテレッド街を守り、ひいてはレスト領兵士を守ったことには変わりがないのだ。

 その事を理解していた彼らはまずお礼を言うために接触した。


 そこからはいろいろな話をし始めた。

 獣人たちは人間の生活基準やルールを知らないので、その辺りの話を聞いた。

 騎士団たちは強さの秘訣や二千の兵士を撃退した話をせがんだり、同じ様に何かルールがないのか聞いたりしている様だ。


 衣笠もそこに巻き込まれているが、面白いので放置している。


 これで獣人の名声は上がっただろう。

 テレンペス側ではたった十人の獣人が二千の兵士を退けたと伝わるし、ダネイル側では獣人がテレッド街を攻め落としたと伝わるはずだ。

 どちらの国からも獣人が何かしら活躍したという話が広まり、結果的に他の獣人が集まってくる可能性が増える。

 ダネイル側からしてみれば、獣人という強大な戦力がテレンペス側に居るとして、そう易々と攻撃を仕掛けては来なくなるだろう。


 今のところ順調だ。

 まだやることは多いが、ひとまず安心していいだろう。


「さて、次の一手を打つために……。アオをこっちに連れてこねぇとな」


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