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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第九章 奪われつつある街
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9.27.Side-ロウガン-進軍阻止


 馬鹿な話だった。

 いや、無茶な話だ、とこの場にいる誰もが思ったことだろう。


 ロウガン率いる獣人部隊十名は、この兵力だけで二千からなる兵力を足止めしてくれと頼まれていた。

 これは衣笠の命令である以前に、あのアオと呼ばれている子供の策でもある。


 アオはチャリーから駐屯基地の話を聞いた時からこの作戦を考えていたらしい。

 それを衣笠に伝えて話し合い、この作戦が決定した。

 やはり獣人を使いつぶす気なのか……と少し絶望の色も仲間の中には伝わったことだろう。


「衣笠め……」

「やめろ。奴の言うことは正しい」

「だけどよぉ……!」


 今もなお反抗的な犬の獣人が愚痴をこぼす。

 だがそれをロウガンはすぐに諫めた。


 話を聞いた時は流石に耳を疑ったが、これが成功すれば大きな名声を手に入れられることは確約されていた。

 何かしらで“獣人が活躍”しなければ名は広がらないし、これがなければ他の獣人たちの耳に届くはずがないのだ。

 そう考えるとこの戦場は整えられた絶好の舞台ということでもあった。


 住人という兵力で二千の大軍を退けとなれば、人間からの評価も大きく変わる。

 この戦いは自分たちの名誉と繁栄の為であり、人間からの認識を変える大切な戦いでもあった。


 それは分かっている。

 分かってはいるのだが流石に無茶ぶり過ぎないか、というのがロウガンの本音だ。

 士気を下げるわけにはいかないので仲間の前でこんなことを口にする事はないが、胸の内では愚痴をこぼし続けていた。


 ただ衣笠は、この作戦は必ず成功するという。

 どこからそんな自信が出て来るのかさっぱり分からない。

 だが、やらないわけにもいかなかった。


 ロウガンは装備を再確認する。

 久しぶりに装着した武器は少し重いように感じられた。

 やはり昔よりは力が衰えているようで、走る速度も遅くなった気がする。

 こんな衰えた体で戦えるだろうかと不安になるが、恰好だけはやる気で満ち溢れた風に振舞った。


「ロウガンさん。来ましたよ」

「早いな……」


 耳を澄ませていた獣人の一人が敵の接近を知らせてくれた。

 まだ距離があるので一人に偵察を任せることにし、今暫く待機することにする。

 作戦は偵察が帰ってきてから行うことにした。


 そうしていると、甲高い笛の音が鳴り響く。

 後ろを振り向いてみると大きな歓声のあとに悲鳴や怒号、更には火の手まで上がり始めた。

 何事だ、と思って意識をそちらに向けていると、偵察が帰ってくる。

 この機動力の高さが獣人の強みの一つでもあった。


「どうだった」

「ロウガンさん! これ勝てます!」

「なんだと?」

「敵は街道に沿って細長い列になっているんです! 陣形もなにも組んでいません!」

「そういうことかぁ……」


 府に落ちた、というのはこういうときに使うのだろう。

 衣笠が口にしたことをようやく理解した。

 彼は力の優位ではなく、状況の優位を考慮して勝てる戦いであると言い放ったのだ。


「何列だ」

「三列です!」

「いけるな」


 ロウガンが合図すると獣人たちが一斉に獣の姿になった。

 それから一気に森を駆け抜けていき、進軍している兵士の最前線の真横に出る。


 こちらの数は少ないので戦うならば奇襲しかない。

 長年森の中で過ごして来た彼らにとって、身を隠しながら移動するのは大した労力にならなかった。


 ロウガンが手を上げた。

 待機せよ、という合図であり獣人はこれを見て息を潜める。

 突撃のタイミングを見計らい、馬に乗っている指揮官クラスをまずは標的にした。

 ターゲットを発見したところで、進軍している兵士に狙いを定めて突撃する。


 バッと手を下ろした瞬間からの獣人たちの動きは速かった。

 全員が一気に動き出して一点突破を試みる。

 その際掛け声などは一切なく、最低限の足音で急接近した。


「……ん?」


 耳の良い兵士が音に気付き、街道の横に見える森を見た。

 大きな魔物がこちらに接近していることにようやく気づいたが、声を上げる間際で獣人は飛び出して人間を殺した。


「ゴォルルルウウッ!」

「なっ!?」

「お、おわああ!?」


 完全な奇襲が突き刺さり、三列の陣形は簡単に崩れ去った。

 後方にいた兵士たちは大きな獣が最前列の陣形に覆い被さるように襲いかかった姿を見ていただろう。

 そこに大きな動揺が走る。


 獣人は唸り声と咆哮を繰り返しながらバッサバッサと敵兵士を殺し続けた。

 ロウガンが真っ先に隊長格を仕留めたお陰で同様は更に広がり、部隊は大混乱に陥っている。


 進軍は完全に停止したが、助けだそうとして前に進ませようとする隊長もいた。

 だが、兵士たちは動けなかった。

 それはなぜか。


「……テレッド街を襲ってるのって……もしかして、魔物……?」

「おいまて、あれ獣人だぞ……?」

「は!? む、無理だろ! 勝てるわけがねぇ!」


 一人がそう叫んで逃げ始めると、多くの兵士たちがそれに続いて敗走し始めた。

 指揮官はなんとか止めようとするが押さえきることができず、遂に獣人によって首を掻かれてしまう。


 後衛にまでその話が伝わり、テレッド街には獣人が攻めてきているという勘違いが広まった。

 前情報なしで勝てるはずがない、と彼らも一斉に逃走し始める。


 ロウガンたち十名の獣人は隊長格を二名とその他数十名を倒しただけで、二千の兵士を追い返すことに成功した。

 敗走していく兵士を見た獣人たちは、呆気のなさに呆けているほどである。

 勝った気が全くしなかったのだ。


 ここまで簡単に敗走していくとは思っていなかった。

 この結果によって自分たちの力を過信したわけではないが……ロウガンは悔やむ。


「もっと早くに……出会っていたかったな。衣笠……」

「ロウガンさん!」

「そうだな。次の仕事だ。テレッド街から逃げる敵を殲滅するぞ!」

『おう!』


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