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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第九章 奪われつつある街
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9.26.笛の音の合図


 取り決められていた合図だったのだろう。

 この笛が鳴った瞬間のテレッド街は異質さに包まれた。

 まず最初に何が発生したかというと……。

 略奪だった。


 住民の悲鳴が遠くから聞こえ、少しすれば火の手まで上がり始めたのだ。

 そして至る所から敵兵と思わしき人間がわらわらと出て来る。

 それもただの兵士ではない。

 隠していた兵士の証をここで多くの者が身に付け始める。

 最後に旗を引っ張り出してきた兵士が居たのだが、高らかに掲げられたそれにはダネイル王国の旗が結び付けられていた。


「全軍!! 攻撃だァ!!」


 一箇所で大声が轟くと、それに呼応するかのように歓声がテレッド街に広がっていった。

 ここで一番困惑したのは冒険者だった人間たちだ。

 先ほどまで金で雇われていたはずだったが、明らかに統率の取れた兵士たちを前にしてたじろぐしかない。

 どうすればいいか分からないままオロオロしていると、そんな冒険者にダネイルの兵士は笑いながら斬りかかった。


 この惨状に参戦したばかりのレスト領騎士団は、すぐに行動を起こせなかった。

 敵の士気の高さと、兵力の不透明さ。

 騎士団長であるガノフも状況が把握できていない中、方々に兵力を散らすことはできなかった。


 だが今目の前で襲われている冒険者は救わなければならない。

 敵味方はしっかりと別れた。

 今は分かっている事だけでも対処すべきだ、と考え直してようやく行動に移る。


「敵を殲滅しろ! 冒険者と住民を守るのだ!」

『『応!!』』


 簡潔な号令だったが、やることが明確化された時の騎士の動きはやはり早い。

 即座に戦闘を開始して冒険者と住民を守るために奮闘しはじめる。

 ここにきてようやく冒険者たちも自分たちの立場が分かったらしく、この騎士団と共に共闘して住民を守り始めた。


 そして少しだけ遅れてやってきたレスト領の歩兵部隊。

 伝令によって既に内部の状況が説明されており、到着するや否や早速テレッド街に侵入して鎮圧を行うために動き出す。

 略奪と虐殺が行われているテレッド街を何とかしようと、各部隊の隊長が指揮を執って声を張り上げ、ダネイルの兵士に応戦する。


 一方ダネイル兵も好き放題しているわけではない。

 この略奪と虐殺は相手の動揺を誘い、どこを守ればいいのか不明瞭にさせるために行っている事であり、散り散りになった敵兵を各個撃破することを目的としていた。

 そのためテレッド街全域を一気に攻撃していたのだ。


 戦闘が始まった瞬間のレスト領兵士たちは目の前の戦いはすぐに参戦できたが、テレッド街全域が攻撃されているので次にどう動けばいいのか分かっていなかった。

 足踏みをしている間に火の手はもちろん爆発が発生したりもした。

 大きな被害が出たであろう場所に向かう部隊もいたが、そこは周到に用意された作戦を実行したダネイル兵なだけはある。

 ダネイル兵はやって来たレスト領兵士を着実に各個撃破していったのだ。


 この戦闘はレスト領兵士が奥に進めば進むほど苦戦する様になっており、これが見事に刺さりまくった。

 なにせ有利はダネイル兵にあるのだ。

 家は壊していいし、燃やしていいし、虐殺してもいいし壊していい物しかない。

 一方レスト領兵士はここを守らなければならなかった。

 これだけで負担が良い気に増えるし、それを完璧に指揮できる人間は現在のレスト領兵士にはいない。


 一気に大混乱に陥ったテレッド街。

 大きくなり始めていたこの街は一気に破壊され始め、住民たちも悲鳴を上げながら逃げ惑う。


 そんな様子を眺めながら外に出てきた男がいた。

 場所はギルドであり、後ろには眼帯をした大男が控えている。

 身なりからして貴族とギルドマスターだろうか。

 男が小さく笑ってから口を開く。


「意外と早かったな」

「ですなぁ。しかし壊しても良かったので?」

「別にここを維持するわけではない。軍事拠点になるのだからある程度邪魔なものは壊しておいた方がいいだろう。ダネイルもそれでいいという話だった」

「そうですか。それにしても、ダネイル国王の側近、レガリィーという男は恐ろしいですなぁ……。ここまでの策をすぐに考えつきますかね」

「逆らわんほうがいいな。ダネイルに付いて正解だ」


 そんな会話をしていると、馬を連れた兵士がやって来た。

 二人はその馬にすぐに跨る。


 そこからは無言だった。

 静かに馬を走らせて何処かへと消えていく。

 彼らはこのテレッド街を放棄した。


 重要な人物を獲り逃したことに気付いていない騎士団たちは、未だに鎮圧をするために戦い続けていた。


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