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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第九章 奪われつつある街
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9.25.増援到着


 Side-??-


 多くの兵士たちの足音が、着々とテレッド街へと向かっていた。

 緊急で招集されたこの兵士たちはレスト領領主であるウルスノ・カノベールの私兵であり、領地を守る六割の兵力に相当する。

 もちろん正規兵ではなく銭稼ぎで出陣してきている者たちもいるのではあるが、そういった者たちには補給物資の運搬や馬の世話を任せて進軍の補助をしてもらっていた。


 今回兵を率いているのは、カノベール家お仕えの騎士団長であるガノフ・トレバー。

 兵士からの人気も高く、真っすぐな人間であると評価されている。

 戦闘経験も多く指揮能力も卓越しており、ウルスノも信頼を置いている人物の一人だった。


 そこで彼は異変に気付く。

 異変に気付いたのはテレッド街が見える平地に顔を出したところからだった。

 そろそろ目的地が見えるだろうと思いながら進んでいると、テレッド街から若干ではあるが煙が上がっていたのだ。

 何事か、と思って驚いていると、同行していたディバノがすぐに声を上げる。


「ガノフさん! もう始まってます!」

「何がでしょうか!?」

「戦闘です! ダネイルの兵士が本格的にテレッド街を奪っているかもしれません!」

「……! 承知しました。伝令! 急速行軍を開始する! 物資班以外は進め!!」


 ガノフの伝令はすぐさま後衛にまで伝わり、急速行軍が始まった。

 歩兵の速度に合わせて全員が走りできる限り早く到着するように努める。


 軍がテレッド街に到着したのは、急速行軍を開始してから三十分後だった。



 ◆



 ダッと地面を蹴るって移動すると、そこに矢が突き刺さる。

 住民に被害が及びにくくなった西側に来た途端、相手は遠距離攻撃を交えてきた。

 だが回避できない訳ではない。

 物理攻撃は慣れたもので大抵の遠距離攻撃であれば何とか対処できる。


 問題はやはり魔法だった。


「あっつ! アッツッツァ!!」

「はっはっはっは! 鷹匠髪の毛焦げてんぞ!」

「地毛だ!! ああぁ草鞋が……!」


 焦げて千切れてしまった草鞋を蹴り飛ばす。

 裸足となってしまったがこの辺りは整備されているので、走っても問題はないだろう。


 この数十分間、一行は逃げに徹していた。

 チャリーは魔力が切れただのと何かしら理由を付けて一人だけどこかに消えてしまった。

 残った二人がダネイル兵の標的となって街中を走りながら逃げ回っている最中だ。


 刃天の気配察知、衣笠の聞き耳と鷹の目もあり逃げるのに必要な情報は常に有していたので、相手を翻弄させることは出来ていた。

 最初の内は立ち回りだけで敵を疲弊させられたのだが、途中から冒険者までもが混じってきたのだ。

 これによって戦局は一気に変わる。


 魔法攻撃が多くなり、遠距離攻撃も増えてしまったのだ。

 ここで長く活動している彼らやはりこの街の地理について強く、兵士と違って機動力がある。

 このせいで何度か追い詰められてしまったが、ここは衣笠がすべて処理してしまう。


「てかあいつら俺のこと知って攻撃して来てんのかぁ!?」

「知らぬわ! 金さえ貰えば動く口だろう!」

「流れで攻撃してんだったら後でぶちのめすからな!」

「手前はそれができぬだろうて!」

「んぬぅううう……!!」


 風を切る音が鮮明に聞こえた。

 ギッと睨みを利かせて小太刀を振るうと、迫って来ていた数本の弓を叩き落す。

 それとほぼ同時に迫ってきていた水の塊を刃天がズバッと切り裂き、無力化して水溜りにする。


「今だ! 放てぇ!!」


 冒険者の一人がそう叫ぶと、二人に向かって一気に弓と魔法が放たれた。

 これにはひとたまりもない……ということは全くなく、衣笠が刃天の後ろに隠れる。

 刃天は一息で呼吸を整え、栂松御神を八相に構えた。

 すると背後から獣の皮が投げ飛ばされる。


 それを突き刺すと飛んできた矢を巻き込むようにして円を描き、矢を全て絡め取った。

 魔法は物理攻撃よりも攻撃速度が遅い。

 矢を絡め取った獣の皮で炎魔法を叩き潰し、背後から飛び出した衣笠が水魔法を切り飛ばす。


「な、なんだと……!?」

「あいつが頭かぁ?」

「任せろ」


 懐から小さな刃物を取り出した衣笠がそれを投げ飛ばす。

 忍びが使う様なクナイだ。

 攻撃は回避されてしまったので辺りはしなかったが、そこで衣笠が手に持っていた麻ひもを引っ張った。


「ぐ!?」

「当たるものだな」

「殺せはしねぇか」

「これで充分」


 突き刺さったままのクナイをぐいっと引っ張り、傷口をさらに広げてから手元に戻す。

 クルクルと回して麻ひもを片手に撒きつけた後、それをすぐに懐へしまった。


「「逃げるぞ!」」


 バッと反転して逃走を図った二人。

 指揮をする人間が負傷したということもあって、指揮下に居た人間はすぐに動くことができなかった。

 易々を二人を逃してしまったことに気付いた時、ようやくその後ろを追いかけ始める。


 そんな時だった。

 こちらに近づいて来る足音を、ここに居る者たち全員が聞いたのだ。

 なんだなんだ、と困惑していると前方から土煙が上がっていることが分かる。

 そのまましばらくしていると、テレッド街の中に騎馬兵が続々と走り込んできた。


 彼らはレスト領の兵士であることが家紋で分かった。

 それを見たテレッド街の中に潜伏していた兵士は目を瞠って狼狽する。


「なっ……なぜこんな時に……!」

「どういうことだ? 来ないんじゃ……ないのか!?」


 動揺の広がるダネイル兵。

 今しがた来たばかりのレスト領騎馬兵団も武装をしている彼らに違和感を持ったらしい。


 彼らはリテッド男爵の家紋、もしくはテレッド街の兵士である証を身に付けていなかったからだ。

 どこの兵士か分からない。

 冒険者も混じっているようだが、彼らと違って兵士たちはきちんとした装備を支給されている。


 この事に一刻も早く気が付いた騎士団長が声を張り上げる。


「貴様ら、どこの兵だ! 所属を答えろ!」

「くそっ!!」


 一人の男が懐から笛を取り出す。

 それを思いっきり吹くと、甲高い音がテレッド街の中に響き渡った。


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