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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第一章 下された沙汰
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1.12.楽しそうじゃね?

第一章はこれが最終話です。

第二章を書ききってから月初めに投稿します!

順調にいけば9月1日から……ダメだったら10月からです……(この時まだ書けてない)


 本日訪れた亡者に沙汰を下し終わった閻魔を労い、地伝は沙汰の間を掃き掃除する。

 これが日課であり、業務を終える最後の工程だ。

 案内人の鬼が運び込んでしまった砂埃を鬱陶しく思いながら、箒を壊さないように苛立ちを何とか御して一定のリズムで箒を動かした。


 一通り終わったところで茣蓙を持って来て床に敷き、茶器を並べて茶を作る。

 そこに一つの水晶をコトリと置いた。

 映っているのは地伝であり、彼は鹿の血抜きに大層驚いている様子だ。


 送り込んだ世を学ぶほど、元の世には戻りずらくなるかもしれない。

 だがその時は死んだ時で、更に沙汰が終わった時である。

 今の様子だと……この沙汰が終わるのに数百年を要するかもしれなかった。


「だが、最も難解な道を選んだか」


 水を操る特別な子供。

 刃天を送った世には水源があまりない。

 無論近辺にないというだけで、他の国々には水資源豊かな場所も存在する。

 しかし水源が限られている国々を魔法という妖術で維持するこの世には地伝も興味があった。


 恐ろしく面倒くさい手続きを終わらせ、更に送り届けた世を管轄する神々の説得は本当に骨が折れた。

 こちとら死後の世を管轄する者共なのだ。

 生者の世を取り締まる彼らとは生きている世界がまるで違う。

 魂一つ送るだけでその必要性だの沙汰の意味などを問われるのだ。

 正直地獄の最下層に落として数千、数万年間亡者を管理する方がよっぽど楽である。


 そして何より……今回は事後報告だったのが良くなかった!

 あの閻魔の野郎勢いだけで魂一つを遠くにぶん投げやがって!


 ……と愚痴をこぼしたところで後の祭りであり、やはり報告はしなければならなかった。

 自分たちが管轄する世を沙汰の場所として使われているのだが、彼らが沙汰という言葉の意味を知らなくて本当に助かった。

 少しばかり誤魔化して、刃天を別の世に住まわせる口実を適当に付けられたのだ。


 それが、刃天が出くわした三つの道。

 この難解な歪みに直結する道を担わせることで別の世の神々の説得に成功した。


 一つ、『商い人の荷馬車』。

 この商い人は邪な輩と結託をしているらしく、その輩共が計画を進めていくと神々が維持している世の人間を大量に虐殺する大きな戦争が待っている。

 人を殺すことができない刃天は、この道には不適切だ。

 今回は何とかその道を脱したらしいが……問題はまだ続く。


 一つ、『水の子と老人』。

 家臣の裏切りによって散り散りになってしまった一族の子供だ。

 水資源の少ないこの地で水の子は大変重宝される存在ではあったが、嫉妬という物は人間の胸の内に潜んでいる。

 嫉妬が大きな恨みに変わり、敵対意思を持ってしまうと止められるものは少ない。


 一つ、『水の子を狙う女二人組』。

 これは水の子を裏切った家臣の暗殺者だ。

 刃天と出会いはしたが狙っている標的が丸わかりだったため、刃天に警戒されて捕縛され、更に緑の異形の巣に持ち運ばれて戒めを受けている。

 もし刃天がこの二人に着くことがあったなら、最も楽に道から脱することができただろう。

 なにせ、水の子を仕留めたら終わりなのだから。


 しかし、刃天は水の子を選んでしまった。

 水の子の一族を裏切った家臣は、商い人と結託している邪な輩と内通している。


 この内、大きな事件となるのは商い人の荷馬車であり、他二つはそこまで大きな問題にはならない。

 だが『水の子と老人』の道は直接大本命である邪な輩と接触する可能性がある道だった。

 さらに水の子の難題を解決すれば、邪な輩の戦力を削ることも可能となる。


「この場合、人を殺さぬという縛りは捨てねばならぬがな」


 刃天は知らぬ間に、三つの道全てを抱え込んでしまったのだ。

 結局女を探しに行くことにした様だし、そこですべての情報を聞き出すことができるだろう。


 彼は『水の子と老人』を選び、『水の子を狙う女二人組』に水の子の話を聞きに行き、そして『商い人の荷馬車』まで必ず辿り着く。

 道が分かっている地伝ですら、彼の動向には興味があった。

 これから如何に人を殺さずこの道を歩むのか。


「……フッ。人を殺すことが、善行となる時があるとは面白い世よな」


 作ったばかりの茶を一気に飲み干す。

 鋭い苦みが舌を驚かせたが、地伝はこの苦みが大好きだった。


 苦みを楽しんでいると、小さな気配がこちらを覗いていることに気が付いた。

 気付かぬふりをするか、それとも気付いてやるべきか。

 隠れているということは何かしら知られてはならないことがあるのではないか、と無駄なことを考えていたが気になって仕方がないので目線を動かした。


鉄蟻(てつぎ)か。どうした」

「ギッ」


 床をパイプが転がるような足音を立てながら、鉄の蟻が近づいて来る。

 本来このような場所にはいない獄卒だが、何やら用があるらしいということは分かった。


 よく見てみれば、なにやら小さな体で大きな巻物を背負っていた。

 それを手で取って止め紐をほどいてするりと伸ばしてみれば、報告書だということが分かる。


「他の鬼はどうした」

「ギィー……」

「またか……。ご苦労……」

「ギギッ」


 報告書を受け取ったあと、地伝は鉄蟻を見送った。

 本来は連絡を寄越してくれる鬼がいるはずなのだが、どうやら閻魔の無茶ぶりに駆り出されてしまったらしい。

 報告書自体は完成していたので、ああして鉄蟻が運んでくれたといった具合だ。


 さて、今度は何をやらかしたのか……。

 考えるのも面倒になり、地伝はここ最近の楽しみである水晶を覗き込む。

 長らく時間のかかる無駄な沙汰だとは分かっていても、亡者が異なる世で奮闘する様は見ていて面白い。

 刃天が帰って来て少しばかり言葉を交わすことも、地伝にとっては楽しみの一つである。


 閻魔がいない時に死んでくれるので大変ありがたい。

 しかし、水晶を見てふと思う。


「……楽しみすぎでは?」


 亡者に下された沙汰であるというのに、刃天は笑っている時の方が多いような気がした。

 これでは沙汰にならないのではないだろうか。

 しかし縛りをもうけ過ぎると返って良くないことが起きる。


「まぁ、もうしばし様子を見るか」


 地伝は茣蓙に座り直し、どこからか取り出した菓子を齧りながら水晶を磨いた。


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