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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第九章 奪われつつある街
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9.9.切り株


 木を多く伐採してログハウス式の家屋を建てたので、以前に比べると木々が全くといっていいほど減っていた。

 この区画は作物を育てる場所になる予定だが、まだやらなければならないことは多い。


 その最大の難関は切り株。

 冬の間は水売りが来る前に障害物を作りたかったので、整備は後回しにして家屋を重点的に増やすことにしていた。

 そのため切り株は手付かずだ。

 今ようやくその撤去作業を進めようとしているのではあるが、まだ土地を広げたいという思いもあり伐採も同時に進んでいる。

 なので切り株の撤去作業は三名のみで行っていた。


 そして切り株の撤去作業は木を切るよりも大変だ。

 ディバノの要望により地表から三十センチは掘り返して、石や木の根を撤去することになった。

 結果耕すことにもなるので次のことを考えるとやった方がいいのだが、一個撤去するのに一日や二日かかったりもする。

 明らかに人手不足だ。


「お疲れ様~」


 アオが声をかけながら作業中の三人に近づく。

 ようやく掘り返した切り株を適当に放り投げて休憩していたが、声をかけられて立ち上がろうとした。

 だがアオの背後に十名の獣人がいたので驚いてしまったようだ。

 固まって目をパチクリとさせる。


「あ、アオさん。えーっと?」

「今から獣人の皆さんがここの整備をお手伝いするよ」

「ああー、そういうことですか。いやぁービックリしたぁ」


 一人が立ち上がり、服についた汚れを払いながら近づいた。

 一番大きな体躯をしているロウガンに手を差し出す。


「どうぞよろしく」

「……怖くないのか?」

「え? だってアオさんが認めた方々でしょう? じゃあ大丈夫。ですよねアオさん」

「そうだね」


 ロウガンは改めてアオを見る。

 こんな小さな子供がこの村の礎になっていることに驚いたのだ。

 これに気づいたのは彼だけではなく、豹と白虎の獣人も目を見張る。


 ロウガンがようやく手を握れば、彼はしっかりつかんで握手を交わしてくれた。


「た、ただ少しだけ休憩してていいですか……? 今作業が一個終わったばかりでへとへとでして……」

「あはは、ゆっくりでいいよ」

「ディバノさんも人使い荒いよなぁ。三人だけってのは本当にきつかったぜ……」

「よろしくね~獣人さん」


 彼らはどう反応すればいいか困っていたようだったが、ロウガンが大きく頷いて見本を見せる。

 誰も真似はしなかったが、彼は後ろを振り向く。


「全員が全員、同じやつってわけじゃねぇ。だろ?」

「そうですね」

「そういうことにしておきます」 

「で、俺たちは何をすればいい」

「切り株を除去してください。その際に出た石ころや根っこも取り除きます。ここら一帯は畑になる予定なので」

「よし、わかった」


 説明を聞いたあと、ロウガンはまだしっかりと根を張っている切り株の前に立つ。

 腕だけを獣化させて爪を伸ばし、地面を斜めに切り裂いた。

 一見してみればなにも変わっていないが、切り株を掴んで持ち上げれば簡単に転がった。

 土が多くついているので取り除くために何度か切り株を地面に叩きつければ終わりだ。


「こんな感じか?」

『すげぇ!!』

「良いみたいだな。よし、俺の真似ができるやつは片っ端から切り株を取り除け。できねぇやつは彼らと一緒に細かい箇所を取り除け。石ころも忘れんなよ」

「了解でーす! 姉さん、いきましょ!」

「はいはい……」


 イドラは楽しそうに切り株へと走った。

 腕を獣化させて大きく振るえば切り株の根が両断される。

 深さが足りないのでそれを人が指摘しつつ、細かい箇所や石ころを彼らは取り除いていった。


 大まかなところを力の強い獣人が、細かい作業を人間と力の弱い獣人が行うことによって作業効率は格段に跳ね上がる。

 問題なさそうだ、と思ったアオは最後に犬の獣人を見た。


 彼らも作業には参加しているし、犬ということもあって掘るのは上手いし早い。

 それに二名の獣人が監視をしているようだ。

 どちらも女の狼の獣人だが、顔つきからこの共存の意味をしっかり理解していそうだと感じられた。


 任せても大丈夫だろうと確信が持てたので、アオは挨拶をしてその場から離れる。

 そしてこっそりと後をつけていた刃天に近づいた。


「なんだ、気づいていたのか」

「たまたまだよー。とりあえず大丈夫そう」

「手懐けられそうか?」

「そんなことしたら百年前と同じ結果になっちゃうよ」

「その結果を知らぬ者は多い。が、同じ轍を踏む必要はないな」


 これがどのような結果となるか。

 刃天は少しばかり楽しみになっていた。

 一つ懸念をあげるとすれば、彼らが目に見えて勢力を拡大できなかった場合、どう収集をつけるのかは気になる。


「成果を出せばいいだけだよ」

「簡単に言ってくれる」

「テレッド街を掌握できれば、レスト領の領主は必ずくるだろうし、そこで見せつければいいだけ」

「何をだ」

「獣人を」


 刃天の頭にクエスチョンマークが浮かんだ。

 だがそれはすぐに弾け、納得したように頷いた。


「世に知らしめるってことか」

「ここから噂になれば……獣人も集まってくる。もしかしたら……僕の味方も」

「当初の予定どおりとなるわけだ。したらば、チャリーとテナには成果を挙げてもらわねばならんなぁ」

「うん、そうだね」


 なにか決定的な証拠を持って帰ってきてくれることを願う。

 アオはテレッド街の方角へと顔を向けた。

 

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