第九話 自身との対話
"その者"は体のコントロール権を奪うとすぐさま両手を広げた。
すると"その者"から衝撃波のようなものが前面に広がり、異形な者は全て落ちて倒れた。
「何をしたんだ・・・?」
自らの中で意識を取り戻すと既に異形な者たちが地面に横たわっていた。
『・・・気絶させました・・・この者たちは最初から敵意があったわけではありません・・・。』
「何だって?」
『・・・あそこに横たわっている者が発砲したことで興奮状態になったようです・・・。』
「あいつらこの列車を襲いに来たんじゃないってことか?」
『・・・そうなります。』
「それじゃぁ、僕らは一方的に彼らを傷付けてしまったのか・・・。だとすると、早く藤枝さんに伝えて保護しなければ。
というか、なんでお前そんなこと分かるんだ?」
『・・・敵意には特別な意思波動が発せられます。全ての意思にはそれに応じた波動があり、それを受け取れば相手の意思が分かります・・・。』
「うーん、携帯電話の電波みたいなものか?よくそんなの分かるな・・・。」
『・・・意思の受信は本来誰もが持っている機能になります・・・。』
「そうなのか?というか、僕の体で出来ているのだから当然僕にも出来ることなのか・・・。
まてよ、ということは前にやっていた光の力や、今やった気絶させる力も使えると言うことか?」
『・・・あなた次第です・・・。』
「そうか・・・」
ふと外の状況を思い出した。
「そうだ、それはそうと藤枝さんだ。あれ、これどうやって戻るんだ?」
『・・・』
「前は必死だったから何故戻れたかよく分からなけど、例の黒い力が関係してるのか・・・?」
『・・・あの力は危険です。制御出来ないのであれば使わない事を勧めます。』
「そうは言っても、あの力を使えないと元に戻れないんだろう?」
『・・・いいえ、私がこの体をコントロールする意思を解放するか、あなたの意思が私の意思を上回れば戻ります。』
「そうか、じゃぁ体を返してくれと言えば返してくれるのか?」
『・・・私には私の目的があります。その為にこの体が必要です。』
さてどうしようか・・・。
こいつには明確な目的があって体を必要としている、かと言って例の黒い力は危険だと言う。
僕自身あの力の使い方はよく分かっていないし、かと言って今明確な目的がある訳では無いから意志のぶつかり合いは分が悪そうだ。
だとすると、こいつの目的に協力する事を約束して交渉するか?
『・・・それであれば、あなたにはその黒い力のコントロールを身に着けることと、その力を使用するための明確な目的を持って頂きたいです。』
「うおっと・・・そうか、自分自身の中での会話だから考えてる事も筒抜けか。」
『・・・私の目的を達成するための手段の一つとしてあなたのその力が必要です。私自身その力を使えるか試しましたが、適性が無いようでだめでした。
その力が扱えるようであれば、より好ましい結果となる可能性があります。』
「その目的とやらは教えてもらえないのか?」
『・・・それを教えてしまうと目的が達成出来ない可能性が出て来るため、不確定要素を排除するために教えられません。』
「くそ、僕の考えは筒抜けなのにそちらの考えは分からないとは何とも理不尽だが・・・
ともあれ分かった、僕としてもこのままの状態は困るからその条件を飲もう。」
『・・・分かりました、それでは体のコントロール権は返却します。但し、今後契約に対して反する意思や行動を取るようであればこの体は私が使わせて頂きます。
また、必要に応じて助言や相談に乗りますのでお声掛け下さい。』
んん?助言や相談?なんだか僕の中にSi〇iみたいなのが住み着いたような気分だ・・・
体のコントロール権を取り戻した僕は藤枝さんの元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「はい、少々打ち身しましたが大丈夫です。それより、あれは君がやったのですか?」
藤枝さんの視線の先には異形な者たちが倒れている。
「あぁ・・・そうですね、僕と言えば僕ですし、僕でないと言えば僕ではないですし・・・」
何とも後ろめたさがあるため、しどろもどろした返事をしてしまった。
「ともあれ助かりました。礼を言います。君には不思議な力があるようですね。」
僕はあいつの話を藤枝さんにした。
藤枝さんは少し眉をしかめたが、思い当たる節もあるようで話を聞き入れてくれた。
「そうですか・・・それでは無意味に刺激してしまったようですね・・・。」
元々敵意は無いとはいえ、そのままほっておくと暴れられる恐れがあるため異形な者たちを縛って汽車へと運ぶことにした。