第四話(第八十四話) ゲートの仕組み
会議のあった翌日、遂にマクラ共和国浮遊大陸がアフリカ大陸に向けて始動した。
中央自治区の一角に建設されたコントロール室の中で、ノルンさんを始めとした磁気コントロールに長けた人員で浮遊大陸を移動させている。浮遊大陸の移動は磁気付与した帆と同様に大陸全体に磁気を付与して地磁気を受ける方式のため、ある程度以上の速度を出すためには多くの人の力が必要になるようだ。
最終的には自立した意識を持つ人工魂を作って浮遊大陸に現在の人工魂と入れ替える予定ということだ。
そのために必要となるオリハルコンの生成方法をアスプロさんと共に聞いていたノルンさんが新たにマクラ共和国内に研究室を作って制作するということだが・・・サポートする人達も居るとはいえ、そんな壮大なプロジェクトの中心を担うノルンさんはやはり有能なんだと改めて思い知らされた・・・。
コントロール室の中にはマクラ共和国の各地に配置されたカメラを集中的に監視し、どこかに不都合や接触が起こっていないかを確認してながらの巡航となる。
始動の様子を感慨深く共に見ていた僕らだったが、いざ動き始めると太平洋の真ん中で景色にあまり変化が無いため、僕らが退屈しているのではないかと気にしたノルンさんが、浮遊大陸のコントロールは自分たちに任せて街の様子を見て来てはどうかと提案してくれた。
「勝手に始動の様子を見学に行ったのに、気を使わせちゃったな・・・。」
「うん、別に退屈じゃなかったのにね。」
中央自治区を出て街に向けて歩いていると、街の復興に勤しむ人たちの中に、見た事のある人物が見えた。
「ん?ツトム、あれって昨日紹介された人じゃないでしゅか?」
メイの指差す方を見ると、確かに白髪と黒髪が綺麗に分かれた特徴的な髪型の青年が居た。
「本当だ・・・えっと・・・クロロスさんだっけ?何してるんだろう?」
クロロスと思われる人物と大工らしき人が話をしているようだった。
「この機材はどこへ?」
「それはあそこの修復中の建物の屋上へと運んでおくれ。」
「分かりました☆」
そう言うと、クロロスは手をさっと前に出しゲートと思われる直径50cmほどの漆黒の窓が空間に現れ、そしてその漆黒の窓へと機材を押し入れた。
「はい、終わりました☆」
「おう!いつもありがとうな!」
機材の移動が終わり、他に仕事が無いかと辺りを見回すクロロスと目が合った。
「おや・・・あなたは昨日会った真倉君じゃないですか?」
「あ、どうもこんにちは。いつもこのあたりで復興作業をしているのですか?」
「いえ、昨日からこちらの地区へと異動となったので、2日前からですよ。」
確かに、以前からこのあたりで復興作業をしているのであれば僕らとも会っていてもおかしくはないはずだ。
「物凄く自然に次元転移の力を使えるんですね。」
「あぁ、見ていたんですね☆まぁ、これしか能が無いですので。」
見た目とは裏腹に、クロロスは陽気な感じで受け答えをしてくるので話心地が良い。
「僕の使う次元転移は重力が強すぎてそんな大きなゲートは開けないんですけど、クロロスさんのゲートはずっとそこに存在していたかのように自然な感じがします。」
「他の人がどうしているかは分からないけど、ボクは出口空間を含めてボクの体の延長のような感覚で使ってるので☆」
「体の延長・・・ですか、何だか根本的な感覚に違いがありそうですね・・・。」
「君はどんな感じなんだい?」
「僕は・・・大き過ぎる力を必死に抑え込んでる感じ、ですね・・・。」
「ふ~ん・・・?同じような力なのに感覚がまるで違ってて面白いね☆」
この感覚の違いは力の性質の差なのか、扱う技術の熟練度の差なのか・・・
「ゲートと言えば、お母さんもゲート使ってたけど、あれもつとむよりはクロロスさんの力に近い感じがするね。」
確かに、陽子の指摘の通り母さん・・・アレーティアさんの使っていたゲートも大きく、かつごく自然な感じに出ていた。
「確かあのゲートは幽玄界と繋いでいるって言ってたよな。そう考えるとブラックホールの力と原理的には大差が無いように思えるけど・・・何が違うんだろう。」
「あのゲートはツトムが使うブラックホールほど強力な力は感じなかったでしゅよ。」
メイがブラックホールとゲートの違いについての感覚の違いを説明する。
「ブラックホールは原理的に無限に近いエネルギーで事象の地平線、幽玄界に繋いでるわけだから、強力な力があって初めて起こせる現象なんだよなぁ・・・。」
「でも、お母さんやクロロスさんのゲートはそんなに大きな力を使っていないって事は、幽玄界に繋がるにはエネルギーとは別の方法があるって事なのかな?」
何かが分かりそうで分からない・・・この違いは一体何だろうか?
「まぁ、ボクもこっちに異動となってこれから沢山コミュニケーションは取れる事だし、お互いの力の違いを擦り合わせて行こうよ☆」
「そう・・・ですね、今後とも宜しくお願いします。」
とりあえず僕らはお互いの連絡先を交換し、その場を別れた。
小さなエネルギーで空間、そして時空のコントロールが出来れば元の世界に戻ったとしても今の世界と同等かそれ以上の事が出来るかも知れない・・・その鍵を握っているのがアレーティアやクロロスの扱うゲートにあると考えられる。
この事はエジプトを目指す間の僕の大きな課題となった。




