第三話(第八十三話) ラッキー
ブラックホールの力を使って時間を自由に行き来出来るかも知れない、その可能性に僕らは沸き立った。
「ノルンさん、次元も時間も自在に行き来出来るのであれば、またアスプロさんにも会えるし、こちらの世界に戻ってくることも出来るぞ!」
「パパ・・・師匠にまた会える・・・!」
ノルンが目を輝かせた。
「僕らも元の世界に戻って、また元に日常に戻れるかも知れないんだ!」
「つとむ・・・そっか!そうだね!お父さんやお母さんともまた暮らせるのかな!?」
『・・・』
希望に満ちた会話を広げている僕らに対し、冷や水を被せるような言葉がウィルから発せられたのだった。
『・・・力、忘れたわけではないと思いますが、この世界は特性が幽玄界に近いからこそ、今のような力が発揮出来るのです。元の世界に戻ったらその力は1/10以下になると考えて下さい。』
「うっ・・・そうだった、浮かれててその事を忘れてた・・・。」
「ん?つとむどうしたの?」
僕と物質体共有状態のウィルの言葉は外には聞こえない。陽子が僕がウィルの言葉に対して発した発言が独り言のように聞こえたのだろう。
「あ、いや・・・ウィルが元の世界に戻ったら僕の力は1/10以下になるって・・・。つまり、元の世界に戻れたとしてもブラックホールの力で時間移動出来ないかも知れないんだ・・・。」
「そっか・・・この世界だからこそ今のような力が出せるんだったね・・・。
あ・・・そういえば、私は元の世界に戻ったら身動き出来ないんだった・・・。」
凄い可能性が閃いたのに、何とも思うように行かないものである・・・。
「えっ・・・やっぱり師匠には会えないんですかぁ・・・?」
あからさまにがっかりするノルン。
皆一様に先ほどの楽観的な雰囲気から一転お通夜のような雰囲気になってしまった。
そんな空気を察してか、メイが希望を膨らませようと言葉を発する。
「でも今は難しくても、もっと力付けて10倍以上になれば良いって事でしゅよね?」
「メイ・・・まぁ・・・そうだな!可能性があるって分かっただけでも今は十分だ!」
ポジティブ思考のメイらしい発想だが、確かにその通りだ。力が下がっても問題ないだけ力を付ければ良いだけだ!
「うん、出来る事さえ分かれば時間が逆行しているのであればそれは寧ろラッキーだよ。命さえあれば、時間的な制約としてはほぼ無限にあるのだからね。」
元帥がラッキーとか言うと変な感じがするけど、これは確かにラッキーだ。普通であれば時間が経てば経つほどピンチになるが、時間が逆流しているのであればそれが問題とならないのだから。
「そうすると・・・このアトランティスが次元移動したかも知れない問題に関しては、真倉君が十分に力を付けてからでも問題が無い、むしろ出来るだけ力を付けて行った方が良いのであれば今は動かない方が得策ということだな!」
先ほどまで深刻な顔をしていたモーヴ中将は晴れやかな顔で結論をまとめた。
緊急性は無いと判明したものの放置出来る問題でも無く、ますます僕の力を付けないといけないという絶対条件だけは出来たわけだ・・・。
そして最後にレムリア大陸派遣団の報告だ。インド洋沖に居たレムリア大陸派遣団は北上してインドへと上陸し、大陸の調査を行っている。
今分かっている状況としては、水没していた地域は土砂で埋まっており動植物がまともに生息出来ない湿地帯のようになっているようだ。
妖憑き達は日本と同様山間部へと集まっているようだが、こちらは日本と異なり妖憑き同士が協調するような姿勢は見られないものの、各々のテリトリーを守りつつ警戒し合っているため、無差別に争っているような状況ではないようだ。
「妖憑きにも地域性が見られるんだな・・・。」
「うん、でも共通しているのはどこも完全に理性を失っているような状況では無くなっているってことだね。」
そしてインドに滞在しているレムリア大陸派遣団は、これからマクラ共和国浮遊大陸が目指す予定のエジプトの先遣隊として動いてもらうよう決まった。
各地の津波は時折数メートルの津波が押し寄せるものの、大きく内陸まで浸水するような事は滅多に無くなってきているため、これから移動してエジプトに到着する頃には大きな問題は無くなっているだろうという見立てから、マクラ共和国浮遊大陸もこれから正式にエジプトへと向かう事も併せて決まった。
そして会議が終わろうとしていた時、これまで黙っていた藤枝さんが手を上げた。
「すみません、未確認な部分の多い情報なので発言するか迷っていたのですが・・・。実はムー大陸から脱出の遅れた薔薇十字団員に対して、可能であれば各個アフリカ大陸へと向かうように指示が出ているのです・・・。」
「何だって・・・?それはアトランティス大陸がアフリカ大陸に向かっているのか、それともアフリカ大陸で何か次なる動きを始めようとしているのか、どちらなんだ?」
「それがはっきり分からないので、却って混乱を招きかねないと思い発言を控えていました。」
薔薇十字団がアフリカ大陸へと向かう・・・僕たちも図らずしもアフリカ大陸を目指している。
これから起こる出来事を示唆しているようで不気味な情報だった・・・。




