第四十九話(第七十九話) 神器の在処
翌日約束の時間に陽子、ノルン、そしてメイと共に再び中央自治区の一角にあるミーティングルームへと行くと、藤枝さんと吉村教授、そして助手と思われる方2名が既に到着していた。
「あ、済みませんお待たせしちゃいまして・・・。」
「いえ、私が早くお迎えに行き過ぎてしまっただけです。」
「昨日の今日でこんな早くからアポイントメントを求めるなんて、藤枝君には頭が上がらないよ。」
吉村教授が笑いながら経緯を説明してくれた。
「済みません、それだけ重要な話だと判断したもので。」
「軍人のノリって一般人にはちょっとハードかも・・・?」
「そ、そうだな・・・。」
昨日は藤枝さんの行動力を褒めていた陽子もちょっと引き気味だ・・・。
「ん?そこに居るのは妹さんかな?」
吉村教授が陽子の存在に気付いたようで訊ねて来る。
「え・・・陽子が見えるんですか?」
「見える、というほどではないが存在感というかそこに誰かしら居るのを強く感じるよ。」
「あぁ、昨日マクラ共和国の土地の魂を吸収したから、物質界との因縁が強まったんでしゅね。」
メイが昨日のマクラ共和国ラピュタ化計画の中での出来事が原因である事を指摘する。
「えっ!?そうなのか?」
「ええ、今の陽子からは消えてしまいそうな儚さは全然感じましぇんね。」
「じゃぁ私、消滅に怯えなくて良くなったの・・・?」
これまでどこか不安気な印象のぬぐえなかった陽子の表情が明らかに以前のような明るい表情になって行く。
「今の状態なら数十年は平気と思いましゅよ!」
「親父はその事を分かって陽子にマクラ共和国の魂を渡せと言ったのかな・・・?」
「う~ん・・・かも知れないでしゅね。」
「良かったな!陽子!」
「うん・・・!けど、今はその事より神器の話が大事だよ!」
「あぁ・・・そうだな。」
陽子は自身の喜びが溢れそうになるのを抑えつつ話を本題に戻そうとした。そしてそんな僕の返答から会話の流れを察したのか、吉村教授が話を始めた。
「さて、今日は神々の遺した遺物である神器を探しているという話だったね?」
「はい、考古学の権威である吉村教授であれば何かご存じではないかと思いまして。」
「そうですね・・・まず考古学について話しておかなければいけない事があります。」
「ん?考古学って遺跡や古文書などから過去にあった出来事や歴史を明かしていく学問ですよね?」
「簡単に言えばそうだが、実際に考古学が形式化されているのはムー大陸だけなんだ。」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、そもそもこの学問自体、私の祖先が340年ほど前にその礎を築いたものなのだよ。」
「あれ、340年前って親父達が出て来たって頃・・・ってもしかして・・・」
「ご察しの通り、私の先祖は真倉博史様の研究仲間だったそうだ。」
「そんな繋がりが・・・。」
「そのご先祖様が残した考古学の知識が文書として残され、その知識と実際の世界が一致しているのかの検証がこの国の考古学の始まりなのだよ。」
「ということは・・・考古学のベースになっている知識は僕らの元々居た世界の知識に基づいているって事か・・・?」
「そういうことになる。」
「そうなると・・・今現在分かってる事ってどの程度なのでしょうか・・・?」
「今分かっている世界の文明の多くはここ数百年程度のものだが、祖先から受け継がれている知識とある程度一致していそうなのは日本とエジプト、中東あたりですね。」
「結構限定されますね・・・。ですが、祖先の知識・・・というか僕らの居た世界と一致する文明も存在しているんですね。」
「そうなるが、祖先の遺した文献ではこれら文明が発展していたのは数千年前のはずなのだが、実際に私がフィールドワークで調査した限り、そんな古いものには見えないのですよ。」
「あぁ、そう言えば父がこの世界は僕たちが居た時代から見ると約15000年前だって言ってました。」
「15000年前だって・・・?そんな昔から存在する文明についての記述なんて存在しはいはずだが・・・?」
「あ・・・そう言えばそうだ・・・。世界最古の文明であるメソポタミア文明でも6000年前とかだもんな・・・。時代のズレがあるのか、それともベースとなっている知識が間違っているのか・・・?」
もしこの世界と僕らの居た世界との時代のズレが15000年であれば、人類の文明はまだ何も痕跡が無いはずである。それなのに僅かでも存在するというのはどこかに矛盾が生じている事を意味していた。
「まぁ・・・今話した考古学の前提は私の持つ知識はあなた方がやって来た世界の内容がベースとなっているものが多いので、どこまで世界同士で相関が取れているのかの認識合わせのために話したのだ。」
「なるほど、全く異なっていたら意味のないものになってしまいますからね。」
「その通り。結論を言えば、この世界だけで発展した文明はムー大陸の文明の影響によるものが多く、他の文明や歴史は、時期のズレはあっても、ほとんど君たちの世界と同じなんだ。」
「そういう事ですね。では、本題ですが・・・吉村教授の持つ知識の中で神器、もしくは神の遺物に関するものはありますか?」
「そうですね・・・」
吉村教授は暫し考え込んだ後、自身の考えを答えた。
「正直、私の知る限り神器は存在していませんね。」
その言葉は僕らに絶望を与えるのに十分であった・・・。




