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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
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第四十七話(第七十七話) 次元転移 (挿絵追加)

 ブラックホールの生成を再開し、そろそろムー大陸へと投げ込もうかと準備をしているがどうも様子がおかしい・・・。


「そろそろムー大陸へとブラックホールを投げ込みたいが・・・マクラ共和国が一向に浮上する気配が無いぞ!?」

「・・・そうか、因果が解放されてもその場に留まるだけで自然に浮上するわけでは無いのですね・・・!」


 アスプロが状態を察する。


「まずいな・・・このまま投げ込むとマクラ共和国共々次元転移しちゃわないか・・・!?」

「多分大丈夫ですが、この境界の曖昧な状態は何か起きそうな嫌な予感はしますね・・・。」


 アスプロが暫し考え込み、意を決したように言葉を発した。


「・・・私がマクラ共和国に降りて浮上させます。浮上のさせ方は先生から伝授されています。コントロール自体はノルンの方が上手いですが、私でも浮上だけなら出来ます。」


 今は僕もノルンさんも手が空いていない・・・ここは任せるしか無いだろう。


「・・・分かりました、お願いします・・・!」

「はい、私にもしもの事があった場合には・・・ノルンの事宜しくお願いします。」

「ちょ、ちょっと縁起でもないからやめて下さい・・・。」


 アスプロは自身のマントに力を込めると、マントが鳥のように羽ばたき出した。


「では、行ってきます!」


「なるほど、マントのゴーレム化か・・・」


 アスプロはマクラ共和国浮上境界付近に降り立つと、大地に手を突き何かを唱え始めた。

 するとマクラ共和国がムー大陸から分離し始め、大地の因果から解放され浮上し始めた・・・!


「おお・・・!遂に、マクラ共和国ラピュタ化計画達成だ・・・!!」


 遠く離れた地でアスプロさんがサムアップで成功を知らせているのが見えた。


「よし、じゃあブラックホールを投げ込むぞ!!」


 遙か上空に作られた数十メートルはありそうなブラックホール。普通であればその強大な重力で全てを吸い込みそうな恐ろしい黒体であるが、そこは制御を覚えた(つとむ)によってブラックホールの周囲にホワイトホールを点在させ、その力を分散させていた。


 そして、その巨大な黒い塊をマクラ共和国が浮上した跡地に向かって投げ込むと、巨大な黒い塊はゆっくりと落下し始めた。


 その時、遠くの方から子供の泣き声が聞こえて来た。


「え~ん!パパ~!ママ~!」


「あ・・・!つとむ、あそこ!」


 陽子が指差す先を見ると浮上するマクラ共和国の縁のあたりで小さな女の子が泣いていた。

 状況から察するに、恐らくムー大陸次元転移組の子供が迷い込んでしまったのだろう・・・。


 黒い塊は大地に到達し、広がりながら大地を飲み込んで行く。


「まずい、ここまで来たらもう次元転移を止める事は出来ないぞ・・・!」

「えっ!?それじゃあの子、親御さんと離れ離れになっちゃうの!?何とか出来ないの!?」

「あ、ツトム・・・!」


 驚き見つめるメイの視線の先で、アスプロが泣いている子に近付き何か話し掛けているようだ。


「えっ、アスプロさん・・・!?まさか・・・」

「・・・師匠・・・?」


 アスプロは女の子を抱っこし、こちらをちらっと見ると微笑み、そしてマントをなびかせて飛び立った。


「「あ・・・!」」


 僕らは誰ともなく唖然と声を上げて、その様子をただただ立ち尽くして眺めていた。


 アスプロが地上に降り立つとほぼ同時に黒い影が大地を覆い尽くして行った。


「い・・・いやぁーーーー!!!パパーーーー!!!」


 ノルンが突然の事に泣き叫ぶ。


「え・・・パパ・・・?って、それどころじゃない!ノルンさんの集中が途切れた!まずいぞ、シールドが消えてブラックホールが暴走してしまう・・・!」


「ノルンさん!大丈夫だよ!向こうの世界には私達も行く事は出来るんだから!」


 実際には行く事は出来たとしても時間軸がずれるため、特定の時代へと行ける保障は無い。それでも陽子は必死にノルンを宥めようと声を掛けた。


「い、いや、いやぁぁあああああ!!!」


 こうなってしまってはもうノルンさんに頼るわけには行かない。


「くそっ、僕の力で何とかするしか無いか・・・!」

「ツトム!わたちもサポートするからやりましょう!」


 シールドが段々と消え、既にブラックホールはムー大陸の半分は飲み込もうとしていた。


「ムー大陸の大地の皆しゃん!あなたたちが今まで包まれていたものを思い出してくだしゃい!!」


 メイの呼びかけにアロンの杖が反応し光り輝く。そしてムー大陸の輪郭が再び薄っすらと光り出した。


「シールドが復活してるのか・・・!?」

「完全には無理でしゅね・・・後はツトムがそのシールドの残骸の感触を頼りにブラックホールを制御してくだしゃい!」


「くっ・・・でも何も無いよりは遙かにマシだ!メイ、ありがとう!」


 (つとむ)はブラックホールがシールドに接触する感触を頼りに、接触した部位からブラックホールを消して行く。


「あともう少し・・・!」


 (つとむ)は必死に神経を集中させ、その針の穴を通すような繊細な作業をこなしていく。


「まずい・・・集中力が途切れて来た・・・!シールドの感触が曖昧になってきたぞ・・・!」

「ツトム、大丈夫でしゅよ!なんたって、わたちが付いてるのでしゅから!」


 メイの声を聞きつつ、感触が途切れたのを感じた・・・。


「あ・・・ダメだ、ブラックホールを完全に消さないと・・・!」


 どうしようもなく、ブラックホールを完全消滅させる。中途半端に次元転移を終了させてしまうと、その境界に居た人は・・・。


「つとむ・・・見て・・・!」


 陽子が叫ぶ先に広がっていた光景は・・・


挿絵(By みてみん)


 そこには遥か彼方まで続く水平線と、雲の切れ間から差し込む神々しい光に照らされ浮かぶ小高い丘に建てられ、比較的浸水被害の少なかった中央自治区を中心としたマクラ共和国の姿があった。


「成功した・・・のか?」


 見渡す限りの水平線は、つい先程まで巨大な大陸が存在していたことを微塵も感じさせないほど自然に続いていた。


「うん・・・みんな転移しちゃったね・・・。アスプロさんも・・・。」

「・・・そうだな・・・。」


 陽子の言葉に、成功したはずなのに複雑な感情が込み上げてくる。


「そうだ・・・ノルンさんは大丈夫かな?」


 振り向くと下を向いて俯いているノルンの姿があったが、視線に気付いたのか急に顔を上げた。


「えへへ・・・もう大丈夫だってアレーティアさんに言われてたのに取り乱しちゃってすみません・・・。」


 気丈に振る舞っているが、目は腫れ上がってとても大丈夫そうには見えない。


「いや・・・あれは取り乱して当然なんで・・・。正直僕もまだ現実が受け入れられなくて、あれは夢だったんじゃないかって思ってるくらいですよ・・・。」

「でも、最後はきちんとシールド再生して何とか無事役目は果たせました!」


 ノルンがぎこちない笑顔を作る。


「あ・・・そうだったんですね・・・。」


 僕が思ったより、ノルンさんは強いのかもしれない。いや、たった今強くなったのだろう。人が成長し、乗り越える姿を初めて目の当たりにした。


「とりあえず報告もあるから上陸しようか。」


 複雑な思いを抱えつつ、浮上したマクラ共和国に向けて竜となったウィルが羽ばたく。


 そしてマクラ共和国に降り立ち、ウィルを僕の中へと戻した瞬間・・・


<< ダーーーン!!! >>


 けたたましい銃声が鳴り響いたのだった・・・。

何とか年内に書き切りたいところまで書けました。

来年も宜しくお願い致します。

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