第三十八話(第六十八話) 神の監視役 (魂の系譜、人物相関一覧追加)
『タイミングがシビアって・・・オリハルコンを使うタイミングってマクラ共和国を浮上させる時・・・ですよね?』
『力、お前ムー大陸を転移させる時、自分の力だけで何とかなると思っとるのか?』
『えっと・・・アロンの杖の力がどこまでのものか分からないから何とも言えないのは確かだけど・・・。』
『ムー大陸は東西8000kmもある巨大な大陸かつ、いい加減な形状イメージだと地球を抉り取ってしまうんだぞ!?』
『うっ・・・そう言われると自信が無いな・・・。』
『それにお前の中に居る奴の力もブラックホールを操る時には使えないだろう?』
確かに・・・ウィルはブラックホールの力を使えない。だからウィルの力に頼って肉体の制御権渡しても使えないし、精神体として分離すると力が大幅に下がるから補助するにしてもそこまで大きな力は望めないだろう。
『ふっ、まぁ奴からしたら不本意かも知れんがな・・・』
『ん・・・?親父アイツの事知ってるのか?』
『ん?まあな。儂らのストーカーみたいな奴で、もはや腐れ縁だ。』
『え、ストーカー・・・?何か知ってるならもっと教えてくれないか!?』
ウィルの事についてはアカシックレコードの世界に住む親父なら当然知っているだろうが、何となく何も教えてくれないだろうと思って敢えて話題に出していなかったが、教えてくれそうな雰囲気を感じたから思い切って聞いてみる事にした。
『そうだな・・・儂から言える範囲の事で言うのであれば、奴は"神の監視役"だ。』
『え・・・神の監視役・・・?なんでそんな奴が僕の中に・・・?』
『真理から聞いただろう?儂らは主(神)に仕えるための人間を物質界に送り出したのだ。だから儂らの片割れの魂の近くに常に居たのだ。
まぁ、力に取り込まれてしまったのは想定外だったようだがな。』
『取り込まれた・・・?それに主(神)に仕えるって言うけど、僕にはそんな使命感は無いし、そんな使命を受けた覚えも無い。
そもそも主(神)って誰だ?まさか、この世界を生み出したエンty・・・』
『力!!!』
『!!』
僕がつい陽子の天界人の名であるエンテュメイシスの名を出そうとした瞬間に一喝されてしまった。
『・・・?』
親父の突然の一喝に陽子もたじろいで不思議そうな顔をしている。
『力・・・そうではない。これは本来 力は知るべき事ではあるから伝えた方が良いだろう・・・。』
ここでずっと黙っていた会話の内容の当事者であるウィルが口を開いた。
『・・・ヌース様。くれぐれも私の使命を遮るような情報は言わないで頂きたいです。』
『む・・・分かっておる。』
ウィルに釘を刺され、ヌースは暫し時間を置いてから話し始めた。
『力、お前の仕えるべき神というのはユダヤ教やキリスト教の神であるヤハウェであり、アトランティスの神であるポセイドンでもあり、一神教で一般的に神と言われている存在だ。』
『やっぱり皆同じ存在だったんだ・・・。』
『うむ、そしてお前がウィルと呼んでいる存在はその神の原初の魂と同じ魂の片割れじゃ。』
『んん?神の原初と同じ魂の片割れ?神とウィルは兄弟みたいなものってことか?あれ?神って天上人ではないのか・・・?』
『少し特殊な存在でな。天上人の魂の片割れという意味では他の物質や生命体と変わらないが、お前と同じく特別な使命を得て、より大きな魂の片割れとして物質界に送られている存在だ。そして、精神体を持たず魂だけの状態として物質界に存在している特殊な存在でもある。』
『精神体を持たない魂だけの存在・・・。それってウィルも同じ存在って事か?』
『左様。』
『神でありながらも、不完全な存在である神・・・シオン聖堂に隠されていた秘密ってそれでしゅか?』
メイがまたしても核心的な疑問を投げ掛ける。
『あぁ、上位次元から見たら不完全な神、か!確かにそんな感じの存在だ。』
『よく気付きましたね・・・。ですがあの暗号に託した意味はそれだけではありません。』
メイの投げ掛けに対して、母さん(アレーティア)が話し始める。
『一般的に言われている完全である絶対的な神は天地創造の神と考えられていますが、実際はそうではありません。神はあくまで人々を高次へと導く存在なのです。そして、これが重要なのですが・・・キリスト教では世界の終末に救世主としてイエスが再臨すると言われています。イエスの再臨とはイエスの力を持った末裔の出現の事を指します。ですが、これは一般的なキリスト教では受け入れられない事です。
そしてキリスト教では伝えられていませんが、救世主はもう一人居るのです。』
『二人の救世主・・・もしかして、死海文書に記されているイスラエルのメシアと・・・アロンのメシア?ってまさか・・・』
『そう、そのまさかです。イエスの末裔である真理とアロンの末裔である博史です。』
頭上に雷が落ちたかのような衝撃が走る・・・何てことだ・・・聖書や死海文書で予言されていた救世主が自分の両親だったなんて・・・
『この事実は現在のキリスト教には受け入れ難い事実であるため、このような暗号の形で残しました。イエスの末裔・・・そしてアロンの末裔はここに居る、と。』
『確かに・・・キリスト教徒は救世主はキリスト教徒から誕生すると信じて疑ってないからな・・・母さんは微妙なところだけど、親父は全然違うもんな。
でも、親父と母さんはムー大陸を救ったり、表向き認められてないけど、セリオンを討った事でアトランティス大陸も救ってるんだもんな・・・確かに救世主だよ。』
それにしても、神が絶対なる神ではない事実にその神に仕える救世主の正体、か・・・こりゃ確かに凄い秘密を隠したもんだ・・・。
『ですが・・・これは本来 救世主がやるべき使命とは違ったのです。』
『本来の使命?って・・・救世主って世界の終末を救うために現れるんだよな・・・でも世界の終末ってムー大陸やアトランティス大陸はそれとは違う気がするような・・・?』
『力のその感覚は正しいです。世界の終末は実は私達の元居た世界の更に少し未来に訪れるはずだったのです。』
『はずだった・・・?あ・・・もしかしてあの南鳥島のブラックホールで歴史が狂ったのか・・・?それともあのブラックホールこそが世界の終末だったのか?』
『いえ、あの事故は世界の終末ではありません。むしろ、世界の終末が予見されたことにより、世界をリセットするために仕組まれた物なのです。』
『・・・アレーティア様、それ以上は控えて下さい。』
またしてもウィルの釘差しが入る。
『・・・本来あのタイミングでは私達・・・真理と博史はその世界の運命を知っているべきだったのですが・・・その運命を伝える伝令役でもある"神の監視役"が力に取り込まれるというトラブルによって運命が伝わっていなかったのです。』
『え・・・ウィルが取り込まれたって・・・ウィルが僕の中に入って来たのってこちらの世界に来たタイミングじゃないのか・・・?』
『いいえ、力が生まれて間もなくです。』
『えっ!?』
僕の知らなかった真実が次々と明かされて行く・・・。




