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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
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第三十四話(第六十四話) 魂の系譜

 棺の中の宝石箱のような箱を手に取ると、箱は何も力を加えていないのに勝手に開いた・・・。


「この箱・・・ツトムの生命エネルギーの波長に同調してましゅね・・・。」

「もしかして、僕が触ると勝手に開くような仕組みなのかな・・・?」

「かもでしゅ。」


 メイが力強くうなづいた。


「中身は何でしゅか?」

「えっと・・・これはお守り、かな・・・?」


 化粧箱の中には和紙で包まれた物が入っており、丁寧に和紙を広げると中から神社で売っているようなお守り袋が出て来た。


「中身は何だろう・・・。」


 恐る恐る袋を開けて中を覗き込むと古い麻で出来た布切れが入っており、何かを包んでいるようだった。


「これは・・・また随分汚れた布だな・・・ていうか、この赤黒い染みって血じゃないか・・・?」

「・・・何か包まれてましゅね・・・。」

「あぁ、広げてみよう。」


 僕は化粧箱とお守り袋を棺の縁に置き、一体何故これが僕だけに開ける箱に入っていたのか、何の秘密が隠されているのか頭の中に巡りつつ掌の上で古汚い布を広げる。


「これは・・・髪の毛・・・か?」


 僕が手を出し、髪の毛に触れると急に髪の毛を中心として光が広がり、僕の体を包み込んだ。


「ツトム!?大丈夫でしゅか!?」

「うわ!!なんだこれ!?」


 その瞬間、(つとむ)の脳内に様々な記憶の荒波が怒涛のように流れ込んで来た。


 その記憶の中では、イエスがマリアとは別の”魂の産みの親"から父なる神へと仕え、万が一の時にはイエスが父なる神に代わり世界を守るようにとの使命を受ける様子が見えた。

 それも叶わぬ時にはその力と魂を後世に残すよう伝令を受けたものの、その力と魂は不十分で女系の末子にしか伝わらなかったとの事。


 また、イエスのマリアとは別の"魂の産みの親のパートナー"もまた、イエスよりも以前にイエスと同様の使命を受けた者を現世に送り出す様子も見えた。

 その者達はモーゼとアロンと呼ばれ、その血筋から時折強い力と隔世遺伝の魂を持った者が生まれるという事。


 イエスが若かれし時、修行のために訪れた東の地でその地を収めている一族の姫と思われる位の高そうなアジア人女性と婚姻関係を結び、その地で神について説くことで確固たる地位を築き、その後イスラエルへと戻り洗礼を受ける場面。


 磔刑のあと、封じられた墓に通じる地下道をその弟子たちが掘り、瀕死状態のイエスを救い出し、その時その包まれた布の一部を切り取って残りの布を地下道毎埋めた場面。

 その布の切れ端に自身の頭髪を一部切り取って包み、子を身ごもった位の高そうなアジア人女性に渡し別れる情景。悲しみに涙するも、強い眼差しと意思でイエスを送り出す女性の姿。


 従者と共に金色の箱を携え、再び東の地へと向かい海を渡り、そこで父なる神より約束された第二のカナンを目指し東へと向かい、原住民と再会し、その地を託され統治する情景。


 様々な場面や情景、思いなどが流れ込んで来る。


 そして最後に、(つとむ)自身の奥底に眠る不安定な波動が段々と力強く、安定して行く感覚が込み上げて来た。


「!?これは・・・!?」


『・・・私からの最後のプレゼント、受け取って貰えましたか?』


 突然、アレーティアの声が(つとむ)の頭の中に響いた。


「えっ、母さん・・・ではなくアレーティアさん・・・?」


「?ツトム?」


 アレーティアの声が聞こえないと思われるメイが怪訝そうな顔で僕を見つめる。


「あ・・・僕宛の思念通話か・・・。今、アレーティアさんの声が聞こえたんだ。」

「ほほぅ?」


 何だか急に色々な記憶が頭の中に流れ込んできてクラクラするし正直記憶が混乱している・・・何故か母さんが母さんではなく、アレーティアさんだと思える。


『あの・・・アレーティアさんって・・・本当に僕の母さんなんですか・・・?』

『そうですね・・・私はあなたの母である前に、あなた方の魂の原初であるアレーティアです。ですので、真倉 真理でもアレーティアでもどちらも正解です。』

『魂の原初・・・そうか、観測によってその魂が吹き込まれるって事は魂は受け継がれてゆくものなのか・・・。』

『そういう事です。天上人の魂が物質界の物質へと分け与えられ、受け継がれ、そして最後にまた帰って来るのです。』


『でも、全ての魂があなたの魂の片割れって事ではないでしゅよね?』


 突如メイが僕とアレーティアさんの思念通話に割り込んで来た。


「おわっ、メイ思念通話聞こえてたのか!?」

「ん?思念通話だと分かればこちらも思念通話で思念を感じ取れば良いだけでしゅよね?」

「あ・・・うん、そうなんだろうけど、分かったからってそんなすぐ出来るもんなのか・・・?」


 相変わらず天才の感覚は訳が分からない・・・。


『・・・なかなか鋭い質問ですね。その通りです。今の物質界は複数の天上人の魂から成り立っています。』

『さっき見えたイメージだと・・・モーゼやアロンの魂もまたその一つって事か?』

『その通りです。そしてこの事は知っておいた方が良いので教えますが、アロンの杖はその名の通りアロンの魂を持った血筋のものでないと扱えないものです。』

『えっ・・・でも親父は使えてたんじゃ・・・ってもしかして親父がその血筋?』

『はい、その通りです。そして想像の通り、その魂の原初は私のパートナーであるヌースです。』

『!!』


 これまた衝撃の事実・・・。僕はイエスの血筋であり、アロンの血筋でもあったのか・・・。

 モーゼも日本に来ていたって都市伝説もあるし、兄のアロンが来てても不思議ではない・・・。


『・・・本来この二つの魂が交わるのは想定外でした・・・。魂には記憶が受け継がれないからこそ起こったイレギュラーと言いますか・・・奇跡です。』

『えっと・・・そうなると僕の魂はアレーティアさんでもあり、ヌースさんでもあるって事か??』

『基本的に全ての物質は無数の魂の集合体ですから、原初の異なる魂が混じる事も普通にあり得る事です。』

『なんだか変な感じもするけど、そういうものなんだ・・・。』


『私とヌースの魂の片割れは非常に密度の濃い状態で物質界へと送り出したため、ごく限られた人間にしか受け継がれないものなのです。

 ですので、その両方を得てしまったあなたが力のコントロールが上手く行かないのは仕方のない事・・・。本来女系の末子にしか伝わらない私の力が中途半端に受け継がれてしまったのも理由の一つです。

 その力を制御するための補助機能を真理の魂の最後の力としてその箱の中に込めました。』

『そ、そういうことだったのか・・・。』


 僕は自分の出生の秘密、魂の系譜、そして奇跡的に生じた二つの天上人の魂の集合体だという事実に心が沸き立つのを感じた。


『あの・・・質問良いでしゅか?』


 天才メイがまた核心的な質問を投げ掛けようとしていた。

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