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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
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第三十三話(第六十三話) 時の因果から外れたもの (挿絵追加)

 棺を開け、覗くとそこには思いがけない光景があった。


「こ、これ・・・親父の躯?だとは思うが・・・生きてるみたいに色艶が良いし、何より・・・若いぞ!?」


 神聖な衣装に包まれ、様々な遺品と思われるものに囲まれた父親の躯はどう見ても20台かそこらの若者に見える・・・。


「お~、結構良い男でしゅね。息子よりも貫禄がある。」

「・・・貫禄が無くて悪かったな・・・」


 メイが親父の躯をまじまじと見つめ、何かに気付いたようだ。


「ふぅん・・・?これは魂は入っているけどこの世の因果とは外れた存在の魂でしゅね。そのせいでこの世の理から外れた状態になっていましゅよ。」

「えっ・・・それって生きてるってことか?」

「うーん・・・いわゆる生命体とは違う感じでしゅね。何よりもこれは時の因果から外れた状態になってるから動きようが無い状態でしゅ。」


「物質界に存在しているレムリア大陸に似たような状態なのかな・・・」

「うん、それが近そうでしゅね。」


「時の因果から外れている、か・・・。もしかすると・・・。」


 僕は眠るように横たわる若い親父の顔を爪で引っ搔いてみるが、顔の表面はダイヤモンドで出来てるのではないかと思うくらいに硬い。


「なるほど、時間が進まない状態ならもしかしたらと思ったけど、やっぱりこの状態だと傷すら付かないようだな。」

「一種の無敵状態でしゅね。」


「まぁ・・・親父の事だ。オリハルコンみたいな物を作り出してこんな状態にも出来るんだろうな・・・。それはそうとアロンの杖を探そう。」


 棺の中を探ってみると、色々な研究道具と思われる物の中に混じって見慣れた骨董品のような杖が入っていた。


挿絵(By みてみん)


「これだ・・・この見慣れた杖がそんな凄い神器だったとは驚きだ・・・。」

「明らかに厳かかつ凄いエネルギーを感じましゅよ。」

「そ、そうか・・・。」


「よく見てはいたけど、実際に手に取ってみるのは初めてだな。」


 見慣れた杖ではあるが、アロンの杖だと分かって改めて見ると、その質感や古い紋様に歴史と神秘性を感じる。

 手に取ってみてまじまじと観察すると、2色に色が分かれている部分の形状の違和感に気付いた。


「あれ、この色が分かれてるところ・・・これ外れないか?」


 色の分かれた部分を引っ張ってみると、杖の先端部分の方から細身のレイピアのような刀身と、根本が小さく三つ又に分かれた特殊な形状になっていた。


「これ・・・パリングダガーだ!そうか、マクラ共和国の剣術はこの剣を扱う事を想定して発展していたのか・・・!」


 そしてある事に気付く。


「ていうか、これ・・・日本で持ってたら明らかに銃刀法違反じゃん・・・!何やってるんだ親父・・・っていうか、持たせた母さんも母さんだな・・・。」


 改めて両親のいい加減さに呆れつつも、そのらしさに少し安心している自分も居た。


「さて・・・目的のアロンの杖も見つかったし、親父達のところに戻ろうか・・・と言いたい所だけど、もう一つどうしても気になる事があるんだよな・・・。」

「母親の棺でしゅね?」

「ご名答。」


「母さんの棺、以前来た時にも気になったけど親父の棺と違って蓋に薔薇の彫刻が施されているんだよな・・・。あの時は女性だから華やかな飾りを掘ったのかなくらいにしか思わなかったけど、今となっては違う疑問がある。」

「疑問?」

「うん。薔薇はキリスト教にとっては特別な意味があって白薔薇は聖母マリアの純潔を、赤い薔薇はキリストの受難を意味するけど、もう一つ隠された意味があるんだ。」

「ふんふん?」

「それはこの教会と同じ名前の秘密結社・・・シオン修道会では薔薇はマグダラのマリア・・・そしてイエスの血統を意味すると言われてる。」


「あ、レムリア大陸でアスプロが話していたやつでしゅか?」

「うん、マグダラのマリアがイエスの子孫を残し、そしてそれは現在母さん、そして僕にその血筋が受け継がれているらしい・・・となれば、その事実を知っていた母さんがこんな意味あり気な象徴を残したって事は何かあると思うんだ。」


「深く考えしゅぎってことはないでしゅか?」

「そもそもこの上の階にある逆三角形のモニュメント、あれ自体母さんが好きだった映画に出て来る重要なもので、同じような秘密が隠されているんだ。」

「お~、それは絶対何か意味被せて来てましゅね。」

「うん」


 母親の棺の蓋に手をかけると、指先に感じる彫刻の凹凸が彼の心に緊張を走らせる。薔薇の彫刻は細部まで丁寧に彫られており、その象徴的な意味が頭を過ぎる。


 心臓の鼓動が高鳴る中、(つとむ)はゆっくりと蓋を開け始めた。


 蓋が開くと、そこには父親と同様に若々しい姿の母親が横たわっていた。神聖な衣装に包まれた母の姿は、時の流れから完全に切り離されたように静止している。母の顔には穏やかな表情が浮かび、まるで眠っているかのようだった。


「母さん・・・確かに子供の頃はこんな感じだったな・・・。」


 ふと、幼少期母の神社の境内で母が見守る中、陽子と二人で遊んでいた時の記憶が蘇って来た。


「あの頃の陽子は耳や尻尾を隠してなくて、近所の子供に化け物だとか言われて虐められたりしてたんだよな・・・。」

「・・・陽子も苦労してたんでしゅね・・・。」

「あ・・・」


 考えてみるとメイも忌み子として生まれ、同じような経験があるんじゃないかと言う事に思い立ち、嫌な記憶を蘇らせてしまったと反省した。


「でも、陽子は良いでしゅね、ツトムが居て。守ってあげてたんでしゅよね?」

「勿論!いじめっ子達に僕一人で立ち向かってぼこぼこにされるのが日課だったよ。」

「ふふっ、光景が目に浮かぶようでしゅね!」


「さて、思い出話はこれくらいにして・・・何か変わった物は無いかな?」

「ツトム、そこの化粧箱から強めのエネルギーを感じましゅよ。」


 見るとそこには宝石箱のような化粧がされた小さな箱があった。他の遺品と比べてもそこまで目立ったものではないが・・・?

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