第三十二話(第六十二話) 残留思念
シオン聖堂に着いた僕らは竜となったウィルの背に乗り、どこか入れそうな場所が無いかぐるりと回って確認する。
以前穴を開けた裏手の道はぱっと見穴は開いて無さそうだが、水没しているためどんな状態かはっきりと分からなかった。
「さて、どうしようか・・・当然教会の扉は閉められてるけど、上の方で開きそうな窓が見当たらない・・・。」
「事態も事態でしゅし、窓破っちゃえば良いんではないでしゅか?」
「おぉ・・・なかなか過激な事言うね・・・。とは言えそれしか無さそうだ。」
僕は少し悩んだが、意を決してウィルに頼んだ。
「ウィル、僕らが入れる最小限で窓に穴を開けられないか?」
『・・・普通に破っても問題ないと思われます。』
「いや、親父の設計した教会だ。出来るだけ被害は少なくしたいんだ。」
『・・・わかりました。』
ウィルは竜の姿のまま口を開けて、窓に向けて熱線を吐き出す。
<< ゴオオォォ・・・・・ >>
数秒も経つと熱線の当たった窓は直径1.5mほどの範囲で溶けて穴が開いた。
「よし、あそこから侵入だ!」
窓の穴から侵入し、逆三角形のモニュメントのある部屋へと降り立った。
教会の中は薄暗く、シーンと静まり返り人の気配が全くしない静寂な空間となっている。歩き始めるとその足音だけが広い空間内に響き渡る。
「中は水が浸水していないんだな・・・。随分前から封鎖してるのかな?」
「人の残留思念もほとんど感じられないから、少なくとも10日は誰も入ってなさそうでしゅね。」
「そうか・・・でも、今は人が居ない方が何かとやりやすいから好都合だ。」
僕らは地下道に通じる階段へと向かい、地下へと降りてゆく。地下は完全な暗闇のため、ウィルに人型になってもらい発光することでライト代わりになってもらった。
階段の無機質な岩肌は以前と変わらないが、地下に降りると以前との差に気付いた。
「あそこ・・・以前穴を開けたあたりだよな・・・?完全に埋まってるよ・・・。」
以前は通路だった場所は完全に土砂で埋められており、その先へは進めなくなっていた。土砂の表面には地上から染み出してきたと思われる水がちょろちょろと流れている。
「なんだか雑な対応でしゅね!」
「あまり時間も無かったから綺麗に補修できなかったんだろうな・・・でも、お陰で地下教会は大丈夫そうだ。」
土砂で埋まった場所とは反対側にある地下教会の扉を開け、足早に十字架の裏にある棺が納められている隠し部屋へと向かった。
隠し部屋は以前と同じく、薄っすら緑色に発光し不思議な雰囲気を醸し出している。
「あった、あれだ・・・親父と母さんの棺桶・・・。」
ついさっき会ったばかりの父親と母親の棺桶を見つめ、何とも言えない気持ちになる・・・。
ふと、棺の間の足元にあるレンガを外した痕跡を見てMの書が奪われた時の事を思い出した。
「ここで以前爆弾魔の犯人と思われるやつに跡を付けられてMの書を奪われたんだよな・・・。」
「ふーん?どんなやつだったんでしゅか?」
「仮面を被って黒マントを羽織ったやつだったんだけど、突然現れたり消えたりするんだ。」
「成る程・・・?ちょっと待っててくだしゃい。」
そう言うとメイは両手を広げ目を瞑り、意識を集中させた。
「・・・ありましゅね・・・残留思念・・・。」
メイは目を瞑ったまましゃべり続けた。
「感じるのは好奇心と忠誠心・・・でもそれと同時に目的を達成するためであれば裏切りも辞さない冷酷さも感じましゅ。」
「凄い・・・そんな事分かるんだ・・・。」
「う~ん・・・多分こいつ、そんな遠くに行ってないでしゅよ。」
「えっ!?Mの書が手に入ったからアトランティスに帰ったんじゃないのか・・・?」
「本をアトランティスに届けるだけなら代理でも出来ましゅからね。」
「そ・・・それもそうか・・・。だとするとヤツはMの書以外にもまだこの辺に用事があるのか・・・?失敗に終わった破壊工作のやり直しか、陽子の物質体の行方をまだ探っているのか・・・一体なんだろう・・・。」
「これ以上はよく分からないでしゅね・・・。」
ともあれ、新たな懸念も判明したわけだ・・・。レムリアへの船旅では何も起きなかったからすっかり油断していた・・・。
「・・・今考えても何も分からないし、本来の目的であるアロンの杖を探すか・・・一番考えられるのは親父の棺の中だ。」
「棺を暴くんでしゅね。親の躯を見る覚悟は出来てましゅか?」
「うっ・・・改めてそんな事を言われると腰が引けるな・・・。」
とはいえ、ここまで来たのだからやるしかない・・・!
「・・・よし、やるぞ・・・!」
棺の石蓋に力を込め目一杯押すと、重いながらも石を引きずる音を立てながら蓋はゆっくりと開いて行った・・・。
「・・・よし、これだけ開けば大丈夫か・・・?」
恐る恐る棺の中を覗くと・・・
「!!こ、これは・・・!?」




