第三十一話(第六十一話) 666の秘密 (挿絵追加)
『では、各々準備が整ったら思念で強く伝えてくれ。儂らレムリア人はそれで分かる。』
『僕はアロンの杖を入手したら自力でここに戻って来るよ。』
『うむ、そうしてくれ。』
ウィルを竜に変身させ、モーヴ中将とクラーク神父 (とメイ)を乗せてレムリアの片割れの島から飛び立ち、1か月ぶりのマクラ共和国に向かった。
高度を下げて行くと、マクラ共和国の現状がリアルに見えて来る。街は洪水とまではいかないものの、水位は数十センチはありそうなくらいに水浸しになっている。
排水処理に勤しんでいる者も多く見られるが、水はけの悪い土地柄作業が追い付いていないのが容易に想像がつく。
『酷いな・・・本来であれば排水路を通じて運河から流すのだが、その運河を塞いでしまっているからな・・・。』
「・・・おっと、もうレムリア大陸ではないから声から発声した方が良いか?」
「えっ、モーヴ中将今何か話していたんですか?」
「What's? I can't hear anything.」
思念通話ではなくなったので、当然のようにクラーク牧師の言葉も普通に英語となって聞こえてくる・・・。
「あ・・・思念通話の仲介をしてたレムリア人が居なくなったからか・・・。」
「ふむ・・・私も思念通話のホストになれるほど得意ではないからな。まぁ、ここからは肉声通話と行こう。」
「Could you please take me to the American Embassy?」
「え、アメリカの何だって?」
「アメリカ大使館へと送って欲しいとのことだ。」
「あ・・・了解しました。」
言語が通じない事がこんなにも不便だとは・・・。思念通話は偉大だ。
モーヴ中将の案内の元、僕らはアメリカ大使館へと向かう。
街の様子をよく見ていると街の人達は小舟を使って移動し、家には窓から出入りして上手く環境に適応しているようだった。
「みんなこんな状況なのに混乱せず自然に生活して・・・凄いですね・・・。」
「情報の統制が上手く行っているのだろう。とはいえ、今後の詳細を明かせば混乱も生じかねないから我々に掛かる責任は重大だ。」
「そう・・・ですね。」
モーヴ中将の言葉が身に沁み、一層気が引き締まる。
そしてアメリカ大使館が見えて来た。
「着きました・・・って、えっと・・・。」
僕が言葉を詰まらせているとモーヴ中将が代わりにクラーク牧師へと伝えてくれた。
「Pastor Clark, we have arrived at the US Embassy. Please contact the heads of state of each country.」
「I understand. Thank you.」
・・・なんとも気まずい。もう少し真面目に英語の勉強をしておくべきだったか・・・。
「よし、では真倉君。私はマクラ共和国軍本部へとお願いしたい。」
「はい、分かりました!」
そしてモーヴ中将を本部へと送り届け、僕は自身の目的地であるあのガラス屋根のモダンな教会、シオン聖堂へと向かった。
「シオン聖堂か・・・そういえばあの教会って親父が設計してたんだよな。ガラスの数が666枚だったり母さんの棺に薔薇が彫ってあったりとまだまだ謎があったんだよな・・・聞いておけば良かった。」
「666?良い数字でしゅね。」
僕のパーカーのフードの中に居たメイがぼやきに反応してきた。
「えっ、666って良い数字なのか?一般的には獣の数字とか言って縁起が悪いって言われてるけど・・・。」
「そうなんでしゅか?全ての生命や物質は3の倍数の振動を持ってるから、その3の倍数である666も自然と一体化し調和する良い数字でしゅよ。」
「そうなのか・・・でも考えてみれば聖書の中でも666は獣の数字であるということと、人間であると言ってるだけで直接的に悪い意味とは言ってないんだよな・・・。」
ー新約聖書の一節抜粋ー
「また、小さな者にも大きな者にも、富める者にも貧しい者にも、自由な身分の者にも奴隷にも、すべての者にその右手か額に刻印を押させた。そこで、この刻印のある者でなければ、物を買うことも、売ることもできないようになった。この刻印とはあの獣の名、あるいはその名の数字である。ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は666である。」(新共同訳聖書 ヨハネの黙示録13章16-18節)
「聖書の内容的には人々がその数字を持つ何者かに縛られているかのように感じるから、時の権力者だったり政治だったりとか言われるけど・・・自然と調和して一体化とか言われると、仏教の弥勒菩薩が語呂合わせすると6が三つでミロクとか言われるからそっちの方がしっくり来そうだな。」
「数字が3つ並ぶと神聖なエネルギーが宿りましゅからね。神様を意味してても不思議ではないでしゅ。」
「あぁ、聞いた事あるな。あと、7は完全な数値で6は不完全な数値とも聞いた事あるな。」
「自然との調和とは言い換えれば物質との調和でしゅからね。物質的には調和する6という数字も上位次元の世界から見れば不完全と言えましゅ。」
「そうなると、物質世界の神でありながらも上位次元から見れば不完全な神、か・・・。」
ふと脳裏にキリスト教の神とアトランティスの神が浮かんだ。
そうこうしているうちにガラス屋根の特徴的な教会が見えて来た。
「よし、あそこだ・・・だけど、あの地下教会に続く道に穴開けちゃったんだよな・・・水没してなければ良いけど。」
この教会に隠されている謎と、地下教会に隠されているはずのアロンの杖に思いを馳せ、僕らはシオン聖堂へと向かった。




