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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
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第二十八話(第五十八話) 帰還

 ゲートを通り抜けると、そこは直径10mほどの宙に浮かぶ島だった。島に生える植物はレムリア大陸のものと似ていたが大きな植物は生えていない。

 僕のイメージでは幽玄界は異空間のような曖昧な雰囲気の世界かと思ったが、そこは物質界同様上空には青空が広がり、眼下には雲海が広がっていた。

 雲海までの距離はそこまで遠くない事から、レムリア大陸よりは高度の低い場所である事が予想出来る。


『ここは・・・幽玄界・・・なのか?』


 僕の疑問に対し、一番最後にゲートを抜けて来たアレーティアが答える。


『いいえ、ここはもうムー大陸の上空です。幽玄界は座標を修正するための中継に使っただけなので通過したのは1mm以下の極僅かな距離だけです。』


『もうムー大陸上空って・・・お母さん、これって移動速度完全に光速超えてるよね・・・物理法則無視してない!?』


 陽子が専門的な知識を元にやっかいな突っかかり方をしてくる・・・。


『えっと・・・』


 アレーティアが回答に困っていると別の場所から回答の声が近付いて来た。


『はっはっは。何事にも疑問を感じる姿勢、良いではないか!物質界の速度が光速に縛られている理由、それは場に広がっているヒッグス粒子が抵抗となってそれ以上の速度を出せないからに他ならない。

 しかし!ゼロポイントフィールドにはそんなものは無いからエネルギーは瞬時にどこにでも伝わるのだ。そして、それこそが量子テレポーテーションが実現出来る理由となる!』


『その声は・・・お父さん!?』


 見るとそこにはまた別の空間の歪みのような人影が見えた。


『ああ・・・やっぱり親父も精神体なんだな・・・。』


 分かっていたこととはいえ、突き付けられる現実に胸が締め付けられるような感覚が僕を襲ってくる。


『おお、(つとむ)か。久しぶりだがお前は何も変わってないな!』


 確かに、陽子も精神体になっているし外観上何も変わっていないのは僕だけだ・・・。

 父親の能天気な反応に胸の苦しみが和らぐのを感じた。


『先生、ご無沙汰しております。先生の言葉を信じ、ここまで来られました。』

『うむ、アスプロもよく皆をここまで導いてくれた。感謝してるぞ!』


 父からの伝言を預かってここまで辿り着いたアスプロもまた、この出会いには感慨深いものがあるだろう。

 一方で父との直接の面識が無いと思われるノルンは後ろでもじもじしているだけであった・・・。


『お父さん・・・ゼロポイントフィールドって幽玄界のこと?』

『ん?幽玄界?』

『レムリア大陸が存在してる世界のことだよ~』


 陽子は既に父と母の現状を受け入れたのか、もうずっと父と一緒に居たかのような口調で尋ねた。


『ああ。そうだな、(つとむ)にも分かりやすい表現をするのであればアカシックレコードと呼ばれる場にも等しいな。』


『えっ!スピリチュア界隈で言われる過去現在未来含め、この世のありとあらゆる情報が書き込まれていると言われる宇宙の図書館、アカシックレコードが幽玄界だって言うのか!?』

『つとむ、めっちゃ早口になってるよ・・・。』


 思わぬオカルト情報に興奮する僕に対し、いつものように陽子の突っ込みが入る・・・。


『仏教の世界で言うところの"色即是空"の空の世界です。色、即ち物質の元となる空の世界。何もないようで全てが存在する世界です。』

『その通り!量子物理学の世界ではそれをゼロポイントフィールドと呼ぶ!』


 宗教家の母さんと物理学者の親父は意外な所で共鳴し合うんだよな・・・。


『そういえば・・・親父達が幽玄界に居たってことは、あそこはいわゆる"あの世"でもあるってことか・・・?』

『それは・・・半分正解で半分外れです。全ての物は物質界での生が終わると物質崩壊が始まり、元の姿・・・魂と精神に戻ります。そのうち精神は幽玄界に存在するため、その意味では正解ですが意識を持った魂が存在するわけではないです。』


『そっか・・・そういえばさっき最初に会ったレムリア人にも同じような事言われたっけな・・・。

 あれ?でもそれなら何故親父と母さんは意識を持った精神体として幽玄界に居られるんだ?』

『それには自らの意思と資格が必要なのです。』



<< ドーーーーーン ゴゴゴゴ・・・・ >>



 僕らが話し込んでいると、どこか遠くの方から爆発音のような音が鳴り響き、現状の危機的状況を思い出させた。


『爆発音!?洪水対策はしていると思うが何故爆発音がするんだ!?』


 マクラ共和国の安全に対する責任の大きさからか、モーヴ中将が真っ先に叫んだ。


 モーヴ中将の叫びに呼応するように博史(ヌース)の雰囲気が先ほどと打って変わって引き締まり、現状を話し始めた。


『今の爆発音はアトランティスの工作員がムー大陸の洪水防止のための堰止めを破壊している音だ。』

『えっ!?何でアトランティス人が!?』


『恐らくムー大陸が洪水の危機に気付いて対策し始めているのを、アトランティスのスパイが気付いたんだろうな。』

『くそっ、マクラ共和国に紛れ込んでいた薔薇十字団員か・・・!』


『むぅ・・・洪水対策は上層部だけで秘密裏に進めていた筈だが・・・工事までは隠せなかったか・・・!』


 モーヴ中将が悔しそうに顔をしかめる。


『今すぐ工作員を抑えねば!博史様・・・いや、ヌース殿!近くまで送り届けてくれぬか!?』

『まぁ、待て。いずれにせよ付け焼刃の堰止めではこの洪水はそう長く止められるものではない。抜本的な対応が必要となるだろう。』

『抜本的な対応とは?』


 モーヴ中将の問いに対し、ヌースはにやりと笑う。


『マクラ共和国及びムー大陸そのものの避難じゃ!』

『!?国と大陸の避難だって・・・!?』


 思わず声を上げる僕に対してモーヴ中将は冷静に訊ねた。


『一体どうやって・・・?』

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