第二十五話(第五十五話) 血脈
アスプロさんはかつて親父の弟子だったというアトランティス人だ。
親父達がアトランティスを追われるようになってから、アスプロさん達もまた肩身の狭い思いをしていたというが、その後の話は今だ聞いていない。
『私たちがアトランティスから狙われている理由として、まだあなたがたに話していない事があります。何故ならば、あの船には明らかな敬虔なクリスチャンが複数居たからです。』
アスプロさんの話に明らかに表情の強張るクラーク牧師。
確かに、あの船にはクラーク牧師を船員に加えた事から分かるように主にマクラ共和国以外の船員にクリスチャンが複数居た。
『・・・クリスチャンが居るとどのような不都合があるのデスか?』
『・・・私は博史先生の弟子であったと同時に真理様の弟子でもあったのです。』
『母さんの・・・?母さんは様々な宗教に精通してたけど、神道の神職者であってキリスト教とは直接関係無いですよね・・・?』
『力君は真理様の神社で育ったのですよね?神社に関する歴史とかは聞いてなかったのですか?』
『え、ええ・・・確かに詳しくは聞いた事が無かったです。』
母さんの神社はどこにでもあるような稲荷神社で、これと言って由緒ある神社や大社とは違うと思っていたが・・・
『では、そもそも稲荷神社はキリスト教が下地にある事も知らないのですね。』
『えっ!?稲荷神社がキリスト教!?』
『稲荷神社は元々ローマ字でINRIという綴りで伝わり、その後INARIとなったのです。』
『INRI・・・Levs Nazarenvs Rex Ivdaeorvm・・・ユダヤ人の王、ナザレのイエス・・・デスね。』
『え・・・じゃぁ、稲荷神社はイエス神社って事なのか・・・?』
『はい、そして稲荷神社の神主は代々キリスト教に関する重要な秘密を管理していたのです。
そして、この秘密は次期の神主候補である力君に引き継がれる予定だったのです。』
『それを・・・アスプロさんが引き継いだのですか?』
『あくまで代行ですが。先生も真理様も、いずれ力君がこの世界に来て私に会うのが分かっていたような気がします。』
『その秘密と言うのが・・・クリスチャンには受け入れ難い内容という事なんですね・・・?』
『はい、本来この事は力君と二人きりの時に折を見て話そうと思っていましたが、状況的に見て今話すべきだと思いました。』
『勿体ぶらずに話して下サイ!一体どんな秘密なんデスか!?』
『そうですね・・・まず、結論から言うと今話していた神器のうち、アロンの杖は恐らく先生が持っていました。』
『なんだって・・・?いや、待てよ?そう言えば親父は昔から脚が悪い訳でも無いのに伊達で杖を持ち歩いていたな・・・もしかしてアレか?』
『先生は様々な物質を生み出す不思議な力を持ってましたが、杖を使っている時の力は尋常でないものでした。』
『いや、でもそうだとしても何故それがアロンの杖だって言えるんだ!?』
『本題はそこです。』
アスプロさんがそう言うと空気が一瞬凍り付いた。
『何故失われたはずの神器がそこにあるのか、一体誰が先生の所に持ち込んだのか?』
『これは事と次第によっては国際的な大問題デス。』
『真理様によると、契約の箱はある時代を機にテンプル騎士団が保管していたそうです。』
『テンプル騎士団って・・・キリスト教の修道士から構成された騎士団だよな。』
『はい、そしてそれは他でもないイエス・キリストの指示によるものだったようです。イエスは磔刑の後一命を取り留め、改名し一部の従者と共に東の地へと向かったそうです。』
『ちょっと待つデス!イエスが磔刑で一命を取り留めたとか、そんなデタラメ聞き入れられまセン!』
『・・・でしょうね。これはキリスト教の根底を覆す事実です。』
『つとむ、キリストが生きてたってそんなにまずいことなの・・・?』
『あぁ、キリスト教の教えの根源として人間にはアダムが知恵の実を食べたという原罪があり、その罪を神の子であるイエスが生贄となって死んだことによって人類が救われるという教えなんだ・・・。
もし、そのイエスが生贄になっていなかったとしたら・・・。』
『あ・・・(察し)それはまずいね・・・。』
『・・・そしてイエスは従者と共に契約の箱を持ち出したそうです。その従者こそが後にテンプル騎士団となる者達の前身だったようです。』
『なるほど・・・そしてその向かった東の地というのが日本・・・なんですね?』
『そういうことです。』
『でも、その話が事実だったとして何故アロンの杖が親父の元にあったのかというのは少し話が飛躍している気がします。』
『はい、それを説明するためにもう一つの伝承されている極秘事実があります。』
『これ以上一体何があると言うのデス・・・。』
『イエスは東の地へと向かう前、子を宿したマグダラのマリアと再会の約束をし、結局二人は生前二度と会う事は無かったもののイエスの神聖なる力はその子に宿り、その後代々女系の血筋としてその力は受け継がれたそうです。
そして、ある時その血筋の娘が父なるイエスの足跡をたどり、テンプル騎士団員の一部と共に日本へとやってきて神女となり、その女系の血筋が代々神器を管理していたということです。』
『イエスの子・・・娼婦のマグダラのマリア・・・頭がクラクラするデス・・・。』
『えっ、ちょっと待ってくれよ、イエスの女系の子孫が代々管理・・・?正直女性神主ってそんなに多くないぞ・・・。えっ、まさか・・・?』
『はい、真理様その人です。』
『!!?』
正直、これまで明かされた事実で一番の衝撃かも知れない・・・。母さんがイエスの子孫!?ってことは僕もそうじゃないか・・・!?
・・・確かに、母さんも結構適当な性格をしているし、親父に神器を持たせた方がむしろ怪しまれなくて良いくらいに考えていたかも知れない。
肌身離さず持ってた方がある意味セキュリティの観点でも合理的かも・・・
『・・・なるほど、今の話で俄然信憑性が増してきました・・・。ですが、問題は今そのアロンの杖が一体どこにあるのか、ですね・・・。』
『心当たりは無いのですか?』
『・・・一番考えられるのはMの書のあった部屋の棺の中だな・・・。』
『遺品として添えられているってのが一般的だよね・・・。』
『あの時は現実が受け入れられなくて棺の中までは覗かなかったけど、見ておくべきだったかな・・・。』
『まぁ、可能性の高い場所が残されているだけ良いじゃないですか。』
『ところで・・・今の話は確かに衝撃的でしたが、アスプロさんがアトランティスに狙われる理由って何ですか?正直今の話が明るみになった所でアトランティスから狙われる理由としてはよく分からないです。』
『はい、それはもう一つの秘密が主な原因になります。』
更なる秘密の告白が始まる。




