第二十二話(第五十二話) 投影
精神体を維持するには幽玄界に留まる事が最良という事は分かったが、幽玄界と物質界を自由に行き来する最良の方法が見つからない・・・。
『幽玄界と物質界との行き来に問題が多いとなると、やっぱり物質体を取り戻すしか無いのかなぁ・・・。』
『うん・・・延命だけであれば幽玄界に行くのが良さそうだけど、知ってる人が誰も居ないような所でずっと過ごしたくはないよ・・・。』
『まぁ、住めば都とも言うけどな。』
『むぅ・・・!』
陽子があからさまに不機嫌そうな顔をする。
『物質体・・・エティ・・・いえ、陽子さんの物質体は今どこに?』
『それが・・・』
僕はレムリア人に陽子の物質体が化け物になり、現在行方不明である事、またその化け物が非常に危険である事も併せて話した。
『そう・・・でしたか・・・。それは困った事になりましたね・・・。』
『通常このような例で、物質体を取り戻して精神体を戻す事って可能なのでしょうか?』
『通常であれば物質体と精神体が離れた時点で魂も分離し、物質世界の物は霧散することになります。』
『え?でも陽子はいまだに精神体として存在しているし、肉体・・・物質体も単独で動いています。』
『それは別の精神体がその物質体を動かしているからです。何か心当たりはありませんか?』
『あ・・・そういえば私、ブラックホールに吸い込まれた先でもう一人の自分に会って・・・そしてこっちの世界に来た時に何かが自分の中に入って来るのを感じました・・・。』
『それって、妖憑きとは別なのか・・・?』
『妖憑き?とは何でしょうか・・・?』
『あぁ、そうかその事も説明が必要ですね。』
僕は妖憑きの現象、最近になって急増している内容を話した。
『恐らく・・・それは魂の変質ですね・・・。』
『魂・・・ですか?』
『はい、物質体は精神体と魂が重なり、縺れ合い、時間軸上に投影される事で存在を成すのですが、そのどちらかに異常が出ると、それが物質体の形の変異として現れるのです。』
『精神体と魂が重なる事で物質体になる・・・なんだかイメージが逆だったな・・・。物質体があって、そこに魂や精神が宿るのだとばかり・・・。』
『物質界に居ればそう考えてしまうのも仕方がないかと思います。』
『つとむ、この辺は量子力学の世界でも同じような事が言われてて、量子同士が縺れ合い、時空を形成してるって言われてるよ。』
『そうか・・・量子そのものは元々波動状態の幽霊みたいな存在・・・それこそ魂や精神みたいな性質の物だから、それらが縺れ合って物質を成しているって事か・・・。』
『精神体が変質したとしても姿や性格の変化は起きますが、完全に自我を失っているとすればそれは魂に異常が発生している証です。』
『それを言えば陽子の肉体も自我を失ってたんじゃないのか?』
『いえ・・・戸惑いや逃げるという行動を取るのは自我を失っていないからです。』
『そうか・・・だとすると、もし今陽子の肉体を支配している精神体を追い出して、陽子の精神体が入り込めば姿も元の陽子に戻るって事か?』
『・・・そうだと思います。』
『よしっ!』
懸念の一つは晴れた。それにしても今陽子の物質体を支配している精神体は一体何者なのだろうか・・・?
『あと勘違いしてはいけませんが、この場合取りあうのは物質体ではなく、魂になります。』
『あ、そっか・・・。物質体はあくまで精神体と魂が重なり合った副産物だったな・・・。』
『あの・・・魂を奪うというのは具体的にどうすれば良いのでしょうか・・・?』
そうだった・・・それが分からなければどうしようもない。
『逆に聞きますが・・・どうやって魂を奪われたのでしょうか?』
『あ・・・ブラックホールの中・・・』
『ブラックホールって・・・天上界に繋がってるんだよな。もしかして魂って天上界にあるのか・・・?』
『・・・はい。』
『なるほど・・・人は死後魂が天上界に行くって錯覚してるけど、実際には魂はずっと天上界に居て、物質界というスクリーンに肉体が投影されてるだけって事か。』
『となると・・・やり方としてはブラックホールに飛び込んで天上界で魂を探すか、物質体をブラックホールに巻き込んで直接魂に接触するか・・・なのかな?』
『理屈としてはそうですが、前者は現実的ではないでしょう。天上界というのはそれこそ無限に広がっているのです。』
『そうすると、物質体をブラックホールに引きずり込むって事か。
そうか・・・ブラックホールの力で陽子の精神体を剥がせたのは、天上界へ直接働き掛けて魂の拘束から精神体を解放していたって事なのか・・・。』
『・・・』
レムリア人は何かを考え込み、慎重に言葉を紡いでいった。
『・・・気を付けて下さい・・・。陽子さんの魂は物質界に及ぼす影響が非常に大きいです・・・。』
『・・・なんだって・・・?』
『・・・』
静かな空間にひと際静かな静寂が広がる。
『勘違いだったら済みませんが・・・あなたは私が何者かご存じではないのでしょうか・・・?』
陽子は更なる核心に迫る質問をする。




