第五話 状況確認 (挿絵追加)
暫くすると陽子が目覚めた。
何が起きたのか全く分かっていないかのようだ。
「ふあぁ~・・・」
気の抜けたようなあくびをし、僕の存在に気付く。
「あれ、私もしかしてまた寝てた?」
「はは・・・何も問題無さそうで何よりだ。」
とりあえず状況のすり合わせをしたいところだが、その前に・・・
「陽子、なんで巫女服なんだ?」
「えっ!?あ、本当だ!!」
大きな狐になる前は私服だったのに、大きな狐から分離した陽子は何故か巫女服を着ていた。
確かに神社のボランティアをする時の服は所持しているが、旅行先にそんな服を持って来ているわけがない。
「まぁ、いいや・・・。それより体に何か異変は無いか?」
「う~ん・・・何だか頭がすっきりしてるし、体も軽く感じるし、凄く調子良いよ!」
「まじか・・・僕は吐血するし吐き気はするわで最悪だよ・・・」
「えっ!?それ、大丈夫なの・・・?」
「うーん、、、どうなんだろう、今はそんなに吐き気もしないし、とりあえず大丈夫そうだよ。」
心配そうな陽子を横目に、僕はブラックホールに巻き込まれた後の不思議な体験、また陽子が大きな狐に化けた事が気になった。
「陽子、自分が大きな狐に化けた事は覚えているか?」
「えっ!?そんなことになってたの!?
いいえ、なんだか私の中に黒い感情が渦巻いて膨れ上がってきたことは覚えているけど・・・その後の事は分からない・・・。」
「そういえば・・・」
陽子が続けて話す。
「研究所で何かに吸い込まれた後、暗い場所でもう一人の私に会ったような気がする・・・。
もう一人の私は凄く寂しそうで、それでいて何だか・・・怖かった。」
「怖かった?」
「うん、凄く凄く何かを恨んでいるかのような、憎悪を帯びているような雰囲気だった。」
うーん、、、僕の時と似ているようで違うな・・・。
「何か、神様みたいな声は聞こえなかったか?」
「神様?ううん、聞こえてないよ。」
「そうか・・・。僕はそこで神様みたいな声を聞いたよ。僕の魂は役割を果たしたとか何とか言って、危うく成仏させられそうだったよ。」
「えぇ!?」
「それとこれは陽子の体験とちょっと似ているんだけど、そこで僕とは違う僕の声を聞いたんだ。
しかも、陽子が大きな狐に化けた時にそいつに体を乗っ取られて、そいつが陽子を殺そうとしたんだ。」
驚きの連続で唖然とする陽子。
「まぁ、結局は僕が体のコントロールを取り戻して事なきを得たんだけどね。」
「それで・・・狐の化け物はどうなったの・・・?」
「どこかに逃げて行ったよ。僕が陽子を引き剝がした後にね。」
「引き剥がした?どうやって?」
「ごめん、僕にもよく分からないんだ。必死にしがみ付いたら剝がれたんだ。」
僕の中の黒い力については僕にもよく分からないし、正直あまり良い感じもしないので細かいことは黙っておいた。
「それで、つとむの体を乗っ取ったヤツはどうなったの?」
「体のコントロールを取り戻した後は何も。」
「そっか・・・」
それもまた懸念事項ではあるけど、今はどうにも出来ないし何も分からない。
「まぁ、お互いの状況は大体分かったし、周辺を調べようか。もしかすると僕たちと同じように巻き込まれた父さんや母さん、研究所の人たちがどこかに居るかもしれない。」
「そうだね!」
そして陽子と大きな窪みの外へ出たところ、何だか違和感を感じる。
少し前に見た時に比べて周辺の草が増え、瓦礫が苔むしてきている。
「何だかおかしいな・・・」
「どうしたの?」
「いや、さっき一度見た時より何だか時間が経っているかのように見えるんだ。」
「そういえばそこらへんの瓦礫、真新しかった研究所のものにしては少し時間が経ってるように見えるね・・・。」
周囲を見渡すと、木の生い茂っているその向こう遠くに管制塔のようなものが見える。
「陽子、あそこ・・・管制塔のようなものが見えないか?」
僕が指さした先を陽子がじっと見つめる。
「うーん・・・確かに管制塔だね・・・誰か居るかも知れないし、行ってみようよ!」
僕らは光から出てきて初めてまともな人工物を発見し、気持ちが上がった。
管制塔に向けて歩みを進め、林に近づくと遠くから人らしき影が見える。
「おーーい!」
若干服装のイメージは違うが、自衛隊?らしき人が近付いてくる。
「君はここで何をしているんだ?」
「えっ、僕らはさっきまであそこの溝の中にあった光から出てきて、周辺に同じように出てきた人が居ないか探していました。」
「何だって・・・?」
自衛隊らしき人は僕の言葉に対して不審そうにしている。
「あそこにあった光は1年ほど前に消えたはずだ。」
「「えっ!?」」
僕と陽子は驚いたと同時に妙に納得した。
周辺が変化しているように見えたのは、本当に時間が過ぎていたんだ・・・。
「私は元々そこにあった光を監視するために駐在している者で、光が消えてからも暫くは監視を続けるように命令を受けていたのだが、人を発見したのは初めてだ。」
「そう・・・ですか・・・」
光から出てきたのは僕たち二人だけなのか・・・?何故僕らだけ?ほかの人はどうしたのか?
考え込んでいると、自衛隊らしき人も少し思案している様子。
「ところで、君の名は?」
「あ、真倉 力です。」
「なんと・・・!そうか、もしやと思ったがやはりそうでしたか。」
どうやらこの人は僕の事を知っているようだ。
とはいえ、少し引っかかる驚き方をするな・・・。
「失礼しました。私は真倉 力殿を見つけたら本部までお連れするように命を受けています。どうか一緒に来て頂けないでしょうか?」
「えっ・・・。状況がよく呑み込めませんが・・・。」
「私も詳しいことは知らされていませんが、丁重に対応するよう言われているので心配すような事にはならないかと思います。」
「・・・分かりました、僕らも正直何が起きたのか分からず戸惑っていたので色々聞きたいと思っていたところです。」
何故僕を知っているのか?そもそもあの光がずっと前からあって監視していた?父たちはどうなったのか?色々と気になるものの、今は他に当てもないので僕は自衛隊らしき人と本部へと向かうことにした。




