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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
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第十八話(第四十八話) 透過 (挿絵追加)

 "ゾクッ・・・"


 早朝、まだ夜も明けているか否かという時間で妙な寒気がして目が覚めた。

外は相変わらずの雨で雲も分厚く、完全な日中でないと外は暗く、正確な時間は分からない。


 雨が降っているとはいえ、基本的には赤道付近を航行しており、そこまで寒くなる事は今まで無かったため妙な胸騒ぎがした。


 2段ベッドから降りて下段に居る陽子を見るとまだ寝ている。


 寒気から尿意を催したのでトイレに行こうと部屋から出たところで今度は胃の不快感を感じて来た。


「船酔いかな・・・」


 早々にトイレを済ませ、外は土砂降りの雨ではあるが風に当たりたくて屋根のあるバルコニーへと向かった。


「うぅ、思ったより寒いな・・・。」


 バルコニーに出ると風が強く想像以上に体温を奪われた。

外はまだ暗く、薄っすらと明るい程度だ。あまり気持ちの良い風でも無かったため早々に部屋に戻ろうとしたその時・・・。


「 ドサッ 」


 バルコニーの屋根の無いところに上から何かが落ちて来た。


「何だ・・・?」


 嫌な予感はするが、恐怖より好奇心が勝り落ちて来た"何か"を見るために近付いた。


「・・・鹿!?だけど、これは・・・!」


 見ると、目がくり抜かれ干乾びたようにガサガサな状態の鹿だった。


「なんだこれ・・・キャトルミューティレーション、か・・・?というか、何でこんな海のど真ん中に・・・!?」


「 ドサドサッ! 」


 次々と同じような状態の色々な動物や鳥、魚などが降って来る。


「な、なんなんだ・・・!?」


" ゾクッ・・・ "


 気味が悪くなり急ぎ戻ろうとしたその時、何かの視線を感じて全身が粟立ち、今まで感じた事の無いような悪寒を感じた。


 恐怖に身が固まるが、勇気を振り絞ってその視線を感じる方を恐る恐る確認すると、そこには半透明の巨大な"何か"が海から船に乗り上がろうとしていた。


挿絵(By みてみん)


「!!??」


 声にならない悲鳴を上げながら誰かに報告しなければと急いで船内に走り出した。

船内の角を曲がる際に人影を認識したが、走る勢いで止まり切れずにぶつかってしまった。


「あたた・・・」

「真倉殿・・・?」


 早朝トレーニングに向かう途中のミシェルさんだった。


「あ・・・ミシェルさん・・・」


 僕は安堵から全身の力が抜けたが、急ぎ事態を報告した。


「それはただ事では無いですね。今船内で色々な問題が起きているようで、指令室でモーヴ中将が対処に当たっているかと思います。この事も報告に行きましょう。」



 僕とミシェルさんが指令室へ行くと、モーヴ中将が頭を抱えていた。


「中将、報告があります。」


 ミシェルさんが僕が話した内容をモーヴ中将に報告した。


「今度は怪奇現象に化け物か・・・だが、怪奇現象は兎も角化け物の対処は分かりやすくて良いな。分かった、部隊を向かわせよう。報告ご苦労だった。」


 報告が終わり部屋を出ようとしたその時、部屋の壁をすり抜けて謎の生命体が侵入してきた。


「喝っ!!」


 モーヴ中将が瞬時に仕込み刀を抜き、謎の生命体を一刀両断にする。


「こいつら・・・精神体か?」


「まさか、レムリア人・・・?」

「いや、レムリア人はこんな殺意を持って近付くような事はしない。

 何にせよ、物理的な障壁が通じないとなるとやっかいだ。非戦闘員を一か所に集め、集中的に護衛しないといけないな。」


「どこから襲ってくるかも分からない敵、か・・・。」

「これから避難命令を出すが、君らも逃げ遅れが居ないか確認しつつ、船内に侵入してきた化け物の退治をお願いする。」

「「了解!」」


 僕はミシェルさんにお礼を言い、一旦分かれて自室の陽子を起こしに行く。まだ寝ぼけている陽子に事態を伝え、化け物退治に奔走する事になった。


「う~、壁を抜けて来るとかまるっきりお化けじゃん!怖いよ!」

「まぁ・・・陽子も精神体だから一般人からすればあまり変わらないんだけどな・・・。」

「お化けと一緒にするとかひどい!!」


 陽子が半べそをかきつつ、見かけた化け物に電撃を浴びせる。


「こいつらなんだか手ごたえが無くて倒せたかどうかよく分からないよ・・・。」

「うーん・・・精神体に有効な攻撃って何だろうな・・・」


「気合でしゅ!!」

「おわっ!」


 気付くと足元にメイが居た。


「メイ・・・いつの間に?」

「ついさっきでしゅよ。足元に居たから気付かなかったようでしゅね。」


「そうか・・・ところで気合って何だよいきなり。」

「精神体に有効な攻撃手段を聞いてたんでしゅよね?」

「え、気合を入れろって事か?」

「そうでしゅ、精神体との闘いは正に精神の闘い、気合で勝ればより有効な攻撃を与えられるでしゅよ!」


「そ、そうなのか・・・そんな説明今まで無かったよな?」

「何となく分かるんでしゅよ!」

「そ、そっか・・・。」


 天才の発言に対して疑問を持っても無駄だったか・・・。


「そういえばモーヴ中将も気合入れて切ってたな・・・そういうことなのか。」


「怖がってたり不安に思ってたりすると、攻撃が利かないばかりか精神をやられて廃人になったりするから気を付けるでしゅよ。

 特に陽子は存在を消されかねないから要注意でしゅ!」

「ええぇっ!?」


 次々湧いて出て来る化け物を僕ら3人で退治して行く。


「これ、次々湧いてきてキリが無いな・・・発生源を叩けないかな。」

「う~ん・・・船内はいろんな声が混じり過ぎてよく分からないから、一旦外に出た方が良いかもでしゅね。」


 化け物を蹴散らしながら船外を目指す。


 甲板に出ると、10人前後の部隊が巨大な精神体の化け物と応戦していた。

巨大な化け物は分裂を繰り返し、小型の化け物を次々生み出しながら部隊に襲い掛かっていた。


「これはキリが無いわけだ・・・。」


「!! ツトム!!」


 突如メイが声を荒げた。


「メイ、どうした?」

「上の方から声が聞こえてきましゅ!・・・侵入者を排除せよって声が!」

「侵入者だって!?」


 どういうことだ?レムリアへの侵入者ってことか?でも、この航路を通ったのは今回が初めてではないのに何故・・・?


「・・・この船から発する電波に反応してそうでしゅね・・・。」


「・・・あ、レーダーだ!」

「そうか!昨日から上に向けてレーダーを発してるからか!」

「攻撃を受けてると勘違いしてるのかも!」


 そうと分かれば急いで報告だ!

甲板を後にし、僕らは指令室へと向かった。

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