第十三話(第四十三話) ショートカット
ニューギニア島での任務を終え、レムリア調査隊がアスプロ、ノルンのアトランティス人2名を仲間に加え再出発した。
ニューギニア島を南下し、オーストラリアを越えて行くとなるとレムリア到着まで2週間以上掛かることが確定している。
対して、全世界を巻き込む大洪水が約1ヶ月後に迫るため一行は最短距離を行くため、50km南にある陸地が狭まっているポイントを目指す。
夜の出航となったが、船の速度が上がったため夜明け前には目指すポイントへと到着予定だ。
会議室では主要メンバーで夜の間にレムリアに向けての方針会議が開かれることとなった。
「さて、いよいよ新たなメンバーを加えてレムリアを目指すわけだが・・・」
モーヴ中将が話を切り出す。
「アスプロ殿はインド洋を抜けて来たと思うが、レムリアに関する手掛かりは何かを見つけられたのかね?」
「いえ、明確なものは掴めていません。ですがいくつかのデータは取得しました。」
「データと言うと?」
「アトランティスの言い伝えでは、レムリアは’’最も軽く飛べる場所にて祈ることで道は開ける’’とありますので、その言い伝えに関係しそうなデータです。」
「軽く飛べる場所とは一体どういう場所なのだ?」
「このあたりの話はもう半ばお伽噺のような内容になるため推測の域を出ないのですが、関連しそうなものとして気流や気温、気圧、潮の流れあたりのデータを集めました。」
「ふむ、あと祈るというのも漠然としているな。」
「錬金術の語り掛けと関係しているのでしょうか?」
祈るという行為のイメージがノルンの語り掛けを彷彿としたので聞いてみた。
「はい、多分関係しているかと思います。真倉先生はアトランティスを発つ直前に私にこれを渡しました。」
そう言うとアスプロは懐から銅や真鍮に似た茶色っぽい石のようなものを取り出した。
「これは?」
「これは真倉先生が生み出し、命名したオリハルコンというエネルギーを感知して性質や形を変化させる金属です。」
・・・おいおい、アトランティスで作ったオリハルコンとか・・・親父のやつ相変わらず僕好みの良いネーミングセンスしてるな!!
「先生は急いでいたため細かい説明はしませんでしたが、このオリハルコンがレムリアに導いてくれるはずだと仰ってました。」
「私が以前レムリアに入った時、レムリア人は光の扉を出しました。その石が光の扉を作るという事ですか?」
レムリア経験者、ガラジオ大佐が尋ねる。
「あるいはそうかも知れません。オリハルコンは周囲のエネルギーに応じて様々な反応を見せますので。」
「ふむ、何にせよその石が何らかの反応を見せる場所に行かないといけないわけか。
それで、データから何か分かったのか?」
「はい、気温、気流、潮の流れからは特別な特徴は見られなかったですが、気圧に関しては少し気になるがところがあり、インド洋中央付近に掛けて気圧が高くなる傾向が見られました。」
「高気圧と言うと・・・一般的には下降気流になりますよね?軽く飛べる、とは逆傾向になりませんか?」
物理全般に詳しい陽子が専門的な切り口で尋ねる。
「確かにその通りです・・・とはいえ気圧は変化しやすいものでもあるので、もう少しデータを積み上げる必要はあるかと思います。」
「私がレムリアから出た先はマダガスカルでした。インド洋中央というと大分離れているように思えます。」
うーむ、、、話が暗礁に乗り上げた感があるな・・・。
一体どこでオリハルコンを活躍させれば良いのか・・・。
あれ?そういえばレムリアに導いてくれるであろうオリハルコンのデータは取ってないのかな?
「そういえば、オリハルコンの変化はどうでしたか?」
「安置してあったので特別な測定をしていたわではないですが、見た目の変化はありませんでした。」
「であれば、今度はオリハルコンの見た目以外の変化にも注意してみませんか?」
「そうですね・・・確かに何か手掛かりが掴めるかも知れませんね。」
「つとむ、ファインプレーだね!」
「よせよ、まだ何か掴んだわけも無いんだから。」
「他に何か言いたい事があるものは居るか?」
皆一様に考え込むが、これといった意見は出ない。
「居ないようだな。であれば、話をまとめると不確かではあるがインド洋中央付近に特徴的な気圧が見られることから、インド洋中心付近を重点的に気圧及びオリハルコンのデータを取得しつつ、マダガスカルを目指すこととする。」
「「異議なし!」」
こうしてインド洋に入った後の方針が決まった。
ーーー
翌朝、目的の場所へと到着し、いよいよ航路開拓チャレンジが始まる。
船は浅瀬に乗り上げないように陸地から離れた場所に停泊する。
航路開拓チャレンジは万が一の時に母船に被害が及ばないよう影響を加味し、小舟から挑むこととした。
「よし、やるか!よろしくな、メイ!」
「まかせなしゃ~い!」
今回、航路を開くための最適箇所の選定及び、万が一の事故が起こらぬようメイの幸運に期待し、サポート役に指名させてもらった。
(呼んではいないが陽子はいつものようにくっついてきている。)
まずは練習に離れた場所にブラックホールを出す練習を始める。
10m先、20m先と少しづつ出す場所を離し、直ぐに消す。
そうやって少しづつ距離を離して行ったところ、100mを超えたあたりで集中が難しく狙った位置に出せなくなってきた。
「ふぅ、遠隔で出すのは100mが限界のようだな・・・。」
「そうなると、船も100m沖合くらいに着けるのが良さそうだね。」
「ああ、ただそこから先200mの溶岩石を削り取るとなるとブラックホールを飛ばす必要があるな・・・。」
「操作出来るのも100m先くらいまでだっけ?」
「そう、だから操作無しでただ飛ばす事になるな。」
「消すのは更に200m先でも大丈夫?」
「それは試してみないと分からないな。」
次に100m先から飛ばしたブラックホールを消す練習をしてみる。
意識を集中し、100m先から微小ブラックホールを出して弾き出す。
「・・・あ!」
100m先から更に100m飛んだ当たりでブラックホールが海水を大量に飲み込み、海面が大きく凹んだため急ぎブラックホールを消す。
「これは・・・消せることは消せるけど、どこまで飛んだかの手ごたえが全くないのと、消すのが遅すぎると周囲を吸い込みすぎてしまうな・・・。」
「少しづつ吸い込んでるから、飛んでる間にブラックホールが成長して勢いを増してるんだね。」
「どこまで飛んだか分からないというのもネックだな・・・ブラックホールが成長しちゃうから一体どこまで離れたら消せなくなるのかも迂闊に試せない。」
「大きくなればある意味どこにあるのかは分かるね。」
「けどこれ試してみて分かったけど、ある程度以上長い時間出すと進行速度と周囲を巻き込む速度に違和感が出て来て、ある時急激に吸い込む勢いが増すような感じがするよ。」
「あ、ブラックホール周辺の時空の歪みの影響?」
「多分そうだと思う。」
「試した感触としては3秒以上出すと違和感を感じるから、そのあたりが限界だな。」
「航路を作るほどの大きさとなるともっと短時間じゃないとまずくない?」
「そうだな・・・。そうなると上陸して端から少しづつ削るのが確実かな。」
上陸する事を母艦に伝え、小舟を陸に寄せ上陸する。
辺りは溶岩が冷え固まってるとはいえ真夏のビーチを思わせるほどの熱気が足元から伝わってくる。
「これ、まだ固まって間もないか、下の方ではまだ固まってないマグマが流れてないか・・・?」
「!! ツトム!今すぐ船に戻って離れるでしゅ!」
「えっ、どうしたんだ!?」
訳が分からないがメイが言う事を信用すべきだと本能が訴えるので急ぎ引き返す。
「「 ドーン!! 」」
船を沖合に出して間もなく、先ほどまで居た辺りの地面からマグマが噴出した。
「おお・・・危ない所だった・・・。メイを連れて来て大正解だったな・・・。」
「ふふんっ」
メイが得意げに腕組みしている。
「この辺りはまだマグマさん達が一生懸命働いてるから上陸はしない方が良さそうでしゅよ。」
「そっか・・・となると船の上から陸の手前を削って行くか。」
「ツトム、この辺りは地下にマグマさん達が流れてるから、もう少し北が良いでしゅよ。」
「あぁ、そっか。この辺を削ったら削った断面からマグマが溢れ出すよな・・・。」
船を北へと移動させる。
「この辺りなら大丈夫そうでしゅね。」
今度はもう上陸後のトラブルを避けたいので、船から手前を削る事にした。
「この辺だと・・・陸地を300mは削らないとダメそうだな・・・。仕方ない、やるか。」
今度は遠隔ギリギリから大き目のブラックホールを短時間出す作戦だ。
<< グワッ!! >>
100m先で1mほどに大きく膨張したブラックホールが溶岩石を削り取る。
「うわっ!」
溶岩石と同時に海水も大きく吸い込み、その影響で船が大きく揺れる。
その揺れで僕らは船の上で倒れてしまった。
「あたた・・・。倒れ際にブラックホールは消せたと思うが・・・どうだ?」
見ると直径10mほどの穴が溶岩石にあいている。
「よし!成功だ!!」
「やったね!つとむ!」
「やったでしゅ!」
僕らは船の上でハイタッチをする。
「でも毎回巻き込まれて倒れてたら危ないから、やっぱ上陸して海岸際でやった方が良さそうだな。」
「うん、それとこの大きさだと母船は通れないから、ブラックホールももうちょっと大きい方が良さそうだね。」
トライアンドエラーを繰り替えし、少しづつ溶岩石を削り取る。
南側の火山が活発化しているようで、時折石が降って来るので危険個所をメイに探ってもらいつつ順調に作業を進め、昼前には見事水路が完成した。




