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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
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第十二話(第四十二話) 再出航

 出航準備が整い、いよいよレムリアに向けて再出発!というところにまた問題点が浮上してきた。


「困りましたね・・・」


 アスプロが取り付けた錬金術製の帆を眺めながら何やら悩んでいる。


「どうしたんですか?」

「あ、ツトム君・・・でしたね。いえ、この錬金術製の帆ですが、ノルン・・・連れでないとコントロール出来ないんですよ。」

「あ・・・そうだったんですね。そういえば、錬金術ってどういう技術なんでしょうか?」

「基本的にはその名の通り、金ではない物質を金に変える技術ですが物質の性質を変化させる技術全般を錬金術と呼んでいます。」

「この帆で言えばただの布に磁気を帯びさせるという事ですか?」

「そうです。ただ一定の磁気を帯びさせるのはさほど難しい技術ではないのですが、この帆は磁気の性質を変化させられるというのがユニークで、そのコントロールが連れにしか出来ないんですよ。」

「物質の性質が人に依存するんですか?」


 まぁ、無余涅槃流の達人であれば出来そうは話ではあるが・・・。


「アトランティスの錬金術の神髄は物質と自然の調和、その調律を人が行っているイメージです。

 もう少し具体的に言うと、分子配列や原子配列を電子の入れ替え等で敢えて不安定な状態にし、人を仲介してその状態を変化させるのです。」

「あ・・・そういえば、Mの書が隠されていた部屋の隔壁もそんな感じでしたね・・・。」

「そうだったんですね。先生はそのあたりの技術の第一人者でしたから、そのあたりの調整はお手の物でしょうね。

 それにしても先生がムーに帰っていたというのは意外でした。」


「本当に帰ってたかどうかはよく分からないです。歴史書にもそのあたりは書かれてなかったので。

 でも棺桶がありましたからね・・・」

「先生はアトランティスに来た時点でもうご高齢でしたからね。最後はやはりムーに帰ったのでしょう。」

「僕は初老の父しか知らないので、不思議な感じです・・・。」


「そういえばツトム君、あの精神体の子・・・。」

「陽子の事ですか?」

「陽子さん・・・そうでした、先生に聞いてはいましたが彼女も忌み子なんですね。」

「陽子の事見えてたんですね。こちらの世界で言う忌み子にあたるのか、よく分からないです。陽子は僕が幼少期に光から・・・今思うとホワイトホールだったのでしょうか。そこから引っ張り出したので、元々はこちらの世界の出身なのかも知れないです。」

「そうでしたか、彼女の身元も分かると良いですね。」


 陽子の身元か・・・あまり考えていなかったけど、もしかしたらこの世界で何か手掛かりが掴めるかも知れないのか。


 ふと海を眺めている陽子に目をやった。


「ところで、何故彼女は精神体なんですか?」

「あぁ、それは・・・」


 僕はアスプロにこちらの世界に来た時の出来事を話した。


「なるほど・・・その時の化け物を討伐するためにこの船はレムリアに協力要請に向かってたんですね。」

「はい、今となっては大洪水の話とどっちの方が優先度が高いのか分からなくなっちゃってますけどね・・・。」

「そうですね・・・その化け物がどれほどの危険性があるのかよく分からないですが、正直それよりも薔薇十字団がその化け物を探している事実の方が気になります。」


「確かに・・・話がうやむやになっちゃってるけど、あんな化け物探し出して何をしようとしてるんだろう。手懐けて味方にでもしようとしてるのか?」

「可能性は無い事も無いです。Mの書の危険な内容の一つとして生命の精神コントロール法などもあったので。

 とはいえ、そもそも何故薔薇十字団はその化け物の事を知っていたのか、ですね・・・。」


「あ・・・そういえば化け物を探していると思い込んでたけど、奴らが探してたのは陽子の物質体だったな・・・」

「もしかして、先ほど話してた陽子さんの身元と関係があるのでしょうか?」

「どうなんだろう・・・。」

「私は人に化け物が乗り移る現象についての研究も行ってるので、何かお役に立てれば良いのですが。」


 そんな話をしていると医療スタッフが声を掛けて来た。


「アスプロさん、先ほどお連れの方が目を覚ましましたよ。良かったら面談に行ってあげて下さい。」

「あ、ありがとうございます。直ぐ行きます。」

「僕らも行っても良いですか?」

「勿論です、是非紹介させて下さい。」


 僕は陽子を連れてアスプロと共に医務室へと向かった。


 医務室へと到着すると、人影が見当たらずベッドの布団が盛り上がっていた。


「あ~・・・」


 アスプロが呆れ声を出す。


「あれ、お連れさんは・・・?」

「多分布団の中ですよ・・・。彼女極度の人見知りなので、知らない人ばかりだから隠れてるのだと思います。」

「そ、そっか・・・。」


「こら、ノルン!顔を出しなさい!」


 そう言うとアスプロは布団を無理やり剥がす。


「ひ、ひぃ~!!」


 布団を剥がすとうつ伏せに丸まってる女性が居た。


「し、師匠、急に布団を剥ぐなんて酷いですぅ~!!」


 涙目でアスプロを睨む。おでこには絆創膏が貼られていて、殴打した箇所が分かるほど膨らんでいる。


「ほら、しゃきっとしなさい!こちら真倉 博史先生のお子さんで(つとむ)君と陽子さんだ。」

「えっ、師匠の先生のお子さんですかぁ?」


 奪い返した布団で顔を半分隠しながら答える。


「こちら、私の弟子のノルンです。錬金術の腕は確かなのですが、いつもこんな調子で困ったものです・・・。」

「ノルン、目が覚めて早速で悪いが帆の操縦を頼みたいんだ。」

「それより師匠~、ここ一体どこなんですかぁ~・・・」

「はは、だよな・・・」


 僕らはノルンに事情を説明した後、モーヴ中将にも紹介して帆の操縦に移った。


 錬金術製の帆は最も高い位置に張ってある関係上、操縦はマストの中腹にある見張り台から行う事になったのだが・・・


「ひぃ~!!怖いですぅ~!!」


 見張り台に上るにはマストに掛かってるロープの編み込みを上る必要があり、高所恐怖症でもあるらしい彼女にはかなり過酷な仕事のようだ・・・。


「う~ん、困りましたね・・・。」

「まぁ、上まで送り届けるだけならやりようはあるかな・・・。」


 ここは久々にウィル先生の出番かな?


「ミカエル!」


 僕が叫ぶとウィルが羽の生えた天使の青年の姿となって出て来た。


「イ、イケメンさん・・・☆」


 ノルンが目を輝かせてミカエルとなったウィルを眺める。

これは思わぬ副産物。ノルンの好みだった模様。


「ウィル、悪いがノルンを見張り台まで連れて行って一緒に居てやってくれ。」

『・・・わかりました・・・。』


 微妙にウィルが嫌そうな表情をした気がしたが・・・気のせいだよな。うん。


 ミカエルとなったウィルがお姫様抱っこでノルンを見張り台まで届け、いよいよ帆の磁力を発動させる・・・と思いきや、ウィルに見惚れて一向に始める気配がない。


「こりゃ駄目だな・・・。」


 アスプロも我が弟子の醜態に顔を手で覆ってうつむいてしまっている・・・。


「しょうがない、ちょっと目を覚まさせるか・・・」


「ラプラス!」


 力が叫ぶとウィルは醜悪な悪魔に変身した。


「ひえぇぇぇ〜!!」


 ノルンが急に目の前のイケメンが悪魔に化けたことに驚き悲鳴を上げる。


「ノルン!帆の操縦お願いしますよ!」


 アスプロの声に我に返るノルン。


「あわわ、分かりました〜。」


 そう言うとノルンは帆にそっと手を添えて詠唱を始める。


「あれって何してるんですか?」

「帆に語り掛けて元素配列を整えてるのです。この語り掛けにはセンスと言いますか相性のようなものがありまして、ノルンは適合範囲が広いのです。」

「波長の合いやすさみたいな感じかな・・・?」

「そんな感じです。シンプルな錬金術であればほとんどの人が適合するのですが、複雑になってくると適合者が限られてくるのです。」


 何となくだけど、メイなら何でも行けるんだろうな・・・


 さて、今度こそ準備万端出航だ!

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