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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
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第十話(第四十話) 神罰

「Mの書ってあのMの書だよな・・・?」

「ご存じですか?」


 僕はアスプロにMの書に関する事の顛末を話した。


「なるほど・・・そんな事があったんですね・・・。ですが、今の話で確信が持てました。

 アトランティスはMの書の知識を使ってムー大陸に大災害を引き起こそうとしています。」

「大災害だって・・・?」


「話を順序立てて話させて下さい。Mの書は元々アトランティスの中枢機関に厳重に保管されており、当時薔薇十字団での地位を確かなものとしていた先生含め限られた人しか閲覧出来ないものでした。

 ですが、先生は滅多に閲覧される事の無いMの書が閲覧されている痕跡に気付き、内容を精査すると幾つか悪用すると危険な内容がある事に気付きました。」

「もしかして、それでMの書を盗んだのか・・・?」


「はい、アトランティスに追われる事が確定的になった先生はMの書を盗み、アトランティスを脱出しました。」

「あの本はそんな経緯であそこに隠されていたのか・・・

 でも、閲覧した形跡があったのなら既に知識は流出してたんじゃないのか・・・?」

「アトランティスの書物の中には、錬金術によって本そのものが媒介となって発動する類の禁術のようなものもあり、ただの文字の保存だけでは無い物もあります。Mの書もその一つでした。」

「なるほど、それだと本自体に意味があるのか・・・。」


「先生はアトランティス脱出前に、私にMの書に書かれている中で特に危険性が高い内容と、その兆候についていくつか教えてくれました。万が一先生たちが捕まり、Mの書が奪われた際を想定しての事だったのでしょう。

 そしてその兆候が現れたらムーにその事を伝え、そしてレムリアを目指せ、と・・・。」


「成程、二つの質問が一つに繋がったな。アスプロ殿はムーに危険が迫っている兆候に気付き、それを伝えるためにムーを目指していた。その過程でレムリアの所在を確かめていた、というところか?」


「ご名答です。船の大破によりムー大陸へ辿り着くことは叶いませんでしたが、あなた方に出会えたことは僥倖でした。」


「それで、ムー大陸に何が起ころうとしているのだ?」


「推測ではありますが・・・状況から見て恐らく間違いないかと思います。

 まず兆候としては昼でも見えるほどの彗星が現れることです。

 それを見て、私は急ぎアトランティスを発ちました。」

「あ、それ私も見たやつだ・・・」

「雨が降り始める前に見たあれか・・・!」


「あの彗星はMの書の知識の中で星を作る方法というものがあり、その禁術で遥か上空で星を作って地球に呼び寄せているのだと思います。」

「星を作る!?」


 とんでもない話だけど、Mの書の凄さは身を持って知っているから戯言とは思えない・・・。


「初めは星そのものを落とすのかと思ってましたが、そこまでの大災害は地球そのものの破壊に繋がりかねません。だとすると何をしようとしているのかと考えましたが、恐らく狙いは彗星に含まれている水分です。」

「水分・・・!?もしかしてこの降り続いている雨って・・・!」


「はい、太陽に近付き、彗星の氷が蒸発して降り注いでいるのだと思います。」

「でも、それって地球の重力圏にまで近付かないとただ宇宙空間を漂うだけじゃないのか!?もし地球の重力が影響するところまで近付いたら、それこそ地球に彗星自体が落ちて来るんじゃないのか!?」


「重力・・・そっか! 彗星が地球の衛星軌道で重力が釣り合う事で衛星化すれば落ちてこないんだ・・・!」


 陽子が彗星が落下しない可能性がある事に気付く。


「衛星・・・月が増えるって事か・・・?」

「月・・・?」


 アスプロが聞き返してくる。


「真倉君、月とは何だね?地球に衛星は無い認識だが。」

「え・・・!?」


 驚愕した。この地球には月が無いらしい。

 この事実はただ単に非常に似ているように見えてもやはり違う世界だからなのか、はたまた辿り着いた時代によるものなのか・・・。


「・・・何でもないです、続けて下さい。」

「・・・?」


「えっと・・・それで彗星の水蒸気が地球上に雨として降り続けば海の水位は大幅に上がり、大洪水によって大部分の陸地は海に沈むかも知れません。

 今起きている海底火山や陸地の隆起も、彗星の重力の影響による地殻変動が原因かと思います。」


「いかんな・・・ムー大陸は海岸沿いに山は連なっているが、中央部のマクラ共和国に向かって盆地になっていて水害には非常に弱い。」

「アトランティスの狙いはそこだと思います。ムーに薔薇十字団員を忍ばせ、ムー大陸の持つ構造的弱点を内部から探っていたのかと思います。」


 藤枝さんは南鳥島で神の光の監視をしていたから、他の団員なんだろうな・・・。


「ん・・・!?待って下さい、それだとムー大陸も危ないですが、アトランティスや他の大陸も危険なのでは!?」


「・・・少なくともアトランティスは大丈夫でしょう。」

「何故ですか?」


「アトランティスは全体的に高地になっているのと、そもそもの構造として浮島になっているからです。」


「え、あの巨大な大陸が浮島だって・・・?」

「はい、アトランティス大陸は神が創った後付けの大陸なのです。」


 話には聞いてたが、本当に神によって創られた大陸なのか・・・?

海に浮いてるということは主成分も普通の土ではない?


「それにアトランティスにとっては他の大陸もムー大陸と同様敵視しているので、敵が減ってくれれば好都合くらいにしか思っていないかと思います。

 近年は他大陸から化け物が大量に押し寄せてるのでより好都合でしょうね。」


「世界を巻き込んだ大洪水・・・まるで旧約聖書の世界だな・・・。」

「旧約聖書だと雨は40日間降り続いたんだっけ?」

「ああ、もしアトランティス人がその事を知っていて再現しようとしているとすれば、30日間の間に脱出しろという話とも合って来るな。」

「最悪もっと早い段階で水没するかも・・・。」


 旧約聖書、創世記では大洪水は神が地上に悪が増えた事により、人を造った事を後悔し、全てを洗い流そうとしたとある。


 アトランティスの神は忌み子を迫害し、そして今は妖と化した人々を悪として洗い流そうとしているのだろうか?


 アトランティス人が引き起こしているのであれば神の裁きではなく人による裁きにも思えるが、アトランティス人が神の祝福を受けている人々だとすれば、やはり神罰と言えるのだろうか・・・


「・・・アトランティスが神様気取りで神罰を与えようとしていたとしても、やはりムーの、マクラ共和国の人々が被害を受けるのはどう考えてもおかしい・・・!」

「うん、同感だよつとむ。何としても阻止しないとだね・・・!」


「そうは言うが、ここまで規模の大きい話をどう阻止すれば良いのか・・・既に賽は振られ、後戻りの出来ない状態になっていると考えられる状況だ。」

「この船からムーへと連絡は出来ますか?」

「ああ、出来る。」

「それであればムーに急ぎ連絡し、山間部を埋めて人々をマクラ共和国へと避難させるように誘導して下さい。」


「生活水路も塞ぐことになってしまうが・・・状況が状況だ、止むを得んだろう・・・。

 だが、山間を埋めたとていつまで持つか分からんぞ?」

「はい、なので我々は一刻も早くレムリアを目指しましょう!」

「そうだ、親父はレムリアを目指せと言ったんですよね?レムリアに一体何があるんですか?」


「すみません、実はよく分かっていません・・・。ですが、私は先生を信じています。先生が目指せと言うのであれば、そこに絶対に解決方法があると思っています。」

「はは・・・ただ信じろってか・・・」


 思えばこの世界に来てからというもの、親父の残したメッセージには翻弄されっぱなしだ・・・とはいえ、親父達がこの世界で残してきた足跡を無下には出来ない。


「・・・上等だ!乗ってやる!親父!!」


 目的が追加されたが、目指すは変わらずレムリアだ!!

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