第四話 辿り着いた先
体中の細胞・・・分子、原子、いや素粒子へと何かが入り込み、そして重なり合った瞬間小さな破裂を起こして消え、そして消えた個所に別の何かが入ってくる・・・
まどろみの中そんな感覚を感じていると突如激しい流れに飲まれた。
徐々に光が見えてくる。
出口・・・なのか・・・?
光が段々大きくなり、光に包まれたかと思うと吐き出されるように飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「いたた・・・」
目を開けると、なだらかな斜面の土壁が見える。
どうやら大きなドーム状の窪みの斜面にぶつかったようだ。
立ち上がろうとした瞬間
ぐらっ・・・
強い眩暈を感じて膝をついたのと同時に喉の奥から熱いものが込み上げてきた。
「がはっ!!」
咄嗟に口を覆った掌を見ると、鮮血がついていた。
強い吐き気を感じつつその場でこらえていると、次第に吐き気は軽くなっていった。
「僕の体に何が起きているんだ・・・?
そもそも、ブラックホールに巻き込まれたのに何故無事なんだろう・・・」
何とか動けそうになったため大きな窪みの上に登り、周囲を見渡すとそう遠くない場所に海岸があり、近くには研究所の一部と思われる瓦礫が散乱していた。
遠くには木が生い茂っているところも見える。
「ここは・・・研究所の外なのか・・・?」
南鳥島に来て空港から直行で研究所に来たため、周囲の地理がよくわからない。
振り返ると窪み中にある強烈な光が徐々に薄れ、やがて消えてしまった。
光が消えると、そこには土を被った陽子の姿が見えた。
急いで大きな窪みを滑り降り、陽子の元へと駆け寄る。
「陽子・・・陽子!!」
声掛けに反応し、陽子が目を覚ました。
「・・・・あれ、つとむ・・・?」
陽子の衣服は少し破れ、髪も乱れ普段隠している耳も露わになっていた。
「陽子、大丈夫か?どこか痛むところは無いか?」
「あ、うん、大丈夫みたい・・・ここ、どこ?」
陽子が起き上がろうとしながら話す。
「分からない・・・多分研究所のあった場所だと思うけど、吹き飛ばされたようで瓦礫しか残ってないよ。」
陽子は不安そうな表情を浮かべた次の瞬間、急激に苦悶の表情に歪んだ。
「ああああぁあぁぁ!!!
何か、、、何かが入り込んでくる・・・・!!!」
頭を抱えて悶える陽子。
「陽子、大丈夫か!?」
「いやぁぁぁぁあああああ!!!!」
次第に陽子の体が大きくなっていくと同時に全身に動物のような毛が生え姿を変えていく。
「大きな・・・狐・・・!?」
「ぎゃぁぁぁぁああおおおぉぉぉぉ!!」
強烈な妖気を発した大きな狐が雄たけびを上げる。
あまりの事に驚き、たじろいでいると頭の中で声が聞こえてきた。
『・・・危険個体につき、迅速な処理が必要となります。』
次の瞬間、体から力が抜け、意識が遠のいた・・・。
大きな狐の眼前には少し発光し、半眼で薄っすら笑みを浮かべ、髪がやや浮いたツトムの姿があった。
”その者”は手を上にゆっくり上げると、その掌の先に強烈な光が集まり始め、光を中心に物凄い熱波が広がった。
気が付くと夢を見ているかのような感覚でぼんやり外の様子が見える。
「何だこれは!?一体何がどうなっているんだ!?」
体のコントロールは効かないが、手を伸ばし、その先に物凄いエネルギーと熱が集中し、”その者”が陽子に向けてそれを放とうとしているのが分かった。
「何をする気だ!?そんなものをぶつけたら陽子が燃え尽きてしまうぞ!!!」
『・・・反唱します。危険個体につき、迅速な処理が必要になります。』
「ふざけるな!陽子は僕の大事な妹なんだぞ!!」
”力”の意思と”その者”の意思が激しくぶつかり合う。
”力”の意思の強まりと連動するように、ツトムの体の中心奥底にある黒い球体状の力が増してくる。
『!?』
黒い球体の力がツトムの体の外に染み出し、掌の光を吸い込み始める。
それと同時に”その者”の意思が弱まり、”力”は体の支配権を取り戻した。
「・・・戻った・・・のか・・・?」
眼前の大きな狐の化け物は強烈な光の力にたじろぎ、逃げようとしていた。
「あ!待て!!」
化け物とはいえあれは陽子だ、捕まえたところでどうにか出来るか分からないけど、ここで逃がしてしまえば二度と陽子に会えなくなる気がしたので必死に前足に飛びついた。
「陽子!戻ってきてくれ!頼む!!!」
その声に呼応するように体の中心の黒い球体の力が体から染み出し、大きな狐を捕らえた。
”ずるっ”
次の瞬間、大きな狐から陽子が分離した。
「!?」
大きな狐の化け物は一瞬たじろいたがすぐさま再び大きな遠吠えを発し、更に巨大化すると同時に宙に浮かび海の向こうへと走り去って行った。
「・・・助かった・・・のか・・・?」