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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
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第九話(第三十九話) 巡り合わせ

 医務室でアスプロの話が続く。


「ムー大陸の技術はアトランティス人にとっても刺激的で、両者は上手く回って相乗効果を産んでいるように見えました。

 私自身ムーの技術に惹き込まれ、弟子入りして学んだのですが・・・あの、先程のやり取りを聞いていて気になったのですが、そこの彼、真倉君と呼ばれてましたが、もしや真倉 博史先生の関係者でしょうか?」

「あ、はい。真倉 博史は僕の父です。父を先生と言うことはやはりアトランティスに行ったムー大陸の人って・・・」


「!!・・・あぁ、何という巡り合わせだ・・・!

失礼しました、私は真倉 博史先生の弟子で先生がアトランティス滞在中は奥様共々大変お世話になりました。」

「母さんも行ってたんですね・・・。」

「はい、奥様の手料理も珍しくかつ美味しくて・・・って、すみません。話が脱線してしまうので私的な話はまた後ほどさせて下さい。」


 自分の知らない父と母を知る人が現れて、仲間が増えたようで嬉しかった。


「今話している事は本題と離れた話にも聞こえるかも知れませんが、知っておいて欲しい事なので話させて下さい。」

「かまわん、続けてくれ。」

「はい、先生が加わったことで飛躍的な発展を遂げたアトランティスの錬金術ですが、外部の功労者に対して面白く思わない者も少なからず居ました。

 中でもセリオンという男はあからさまに先生を敵対視しており、事ある毎に先生に難癖を付けてました。」

「どこにでもそういう奴って居るんだな・・・」


「セリオンは非常に優秀な錬金術師で幹部候補に挙げられるような人物でしたが、ある時セリオンは薔薇十字団の上層部からも評価され、幹部推薦の話まで挙がって来た先生に対する嫉妬心から先生を亡き者にしようと、あろうことか彼の妻を生贄に悪魔召喚を試みたのです。」


 アスプロの話に皆一様に眉を顰める。


「その後、彼は神からの啓示を受けたと言い、彼の関心は先生から啓示を受けた神へと変わって行ったのです。」

「その啓示を受けた神って・・・悪魔なんですか・・・?」

「詳細は分かりません。ですが、召喚に応じた何者かに操られたのでしょう。」

「利用しようとして利用されたって事か・・・」

「その話は、セレマ教のアイワスの事かね?」


 モーヴ中将が訊ねる。


「その通りです。彼は神をアイワスと言い、彼を信奉する支持者と共にセレマ教を立ち上げたのです。」

「アトランティスには元々信仰していた神も居るんですよね?」

「はい、ですがアトランティスの神は基本的に禁欲的で内心不満に思っている者も多かったのでしょう。欲望を解放する事で救われるとするセレマ教はそういう者に受けが良かったようです。」

「なるほど・・・」


「一方そのころ錬金術に対してある程度の目途が見えた先生は、奥様と共にアトランティスの文化の問題点に気付き、改革を始めていたのです。」

「問題点?」

「はい、アトランティス人は元々忌み子で他の地域で迫害を受けて流れ着いた者が多いという歴史的背景もある事から、必要以上に排他的で猜疑心が強く、かつ救いを求めて神に妄信していたところがあったのです。」

「それは・・・致し方ない部分もあるのでは・・・?」

「はい、ですが先生たちはそれを良しとせず、3つの改革を始めたのです。」

「3つの改革?」


「一つ目に技術書以外の書物の撤廃、二つ目に貨幣制度の廃止、三つ目に偶像崇拝の禁止です。」


「えぇ?偶像崇拝の禁止は聞いたことあるけど、何故その3つなんですか?」


「書物の撤廃は、そもそも文字そのものが物事の本質をきちんと捉えられない事が多く、解釈次第で都合の良い内容に書き換えられ、利用されてしまう。最悪捏造するような者も居るくらいです。」

「なるほど、歴史なんかも権力者の都合の良いように書き換えられてるって言うもんな・・・。」

「アトランティスの歴史書は外部に対する恨みに満ちた内容も多いので、恨みの連鎖を断ち切る意味もあったのでしょう。」


「貨幣制度に関しては、一見便利な物に見えますがそもそも貨幣が生まれたのは他者に対する信用が無く、一定の価値基準を持たせて公平性を保つためです。

 ですが、貨幣そのものに価値を見出すと私腹を肥やそうとする者が現れ、争いや不当な支配階級が生まれる要因にもなります。」

「う~ん・・・そうかも知れないけど、貨幣の無い社会って想像出来ないな・・・」


「真倉君、マクラ共和国では建国時から貨幣は存在していないのだよ。」

「えっ!?そうだったんですか!?

 貨幣が無いとなると、食べ物や日常に使う物とかってどうやって得るんですか?」


「個人単位で物々交換をすることもあるが、基本的には生産された物は全て政府に卸し、食べ物と生活必需品に関しては分配している。娯楽品や時々使うような物は共有物として貸し借りをしているよ。」

「でもそれって、競争原理による発展を阻害しませんか?

 それに必要な物が働かなくても得られるのであれば、誰も働かなくなっちゃうような・・・」

「競争などしなくとも必要な技術は必要なだけ発展しておるよ。それと労働は生きることへの感謝、他者への感謝、社会への感謝の気持ちで行うものだから誰も疑問には思っていない。」

「それってかなり精神性の高い社会でないと成立しない・・・あ、そうか・・・だからマクラ共和国では無余涅槃流が義務教育になってるのか・・・。」


「えっと、良いでしょうか?」


 アスプロが脱線した話を本流に戻そうとする。


「あと、偶像崇拝の禁止に関しては本当は宗教そのものを廃止したかったけど、それだと反発が大きそうだということでの妥協案だったようです。」

「何故偶像廃止だけで良しとしたのでしょう?正直あまり意味が無いように感じてしまいますが・・・。」

「神に対する普遍性を保つためと仰ってましたが、形ある像を作る事で神のイメージを固定化し、思い込みによる一種のマインドコントロールを防ぐ目的だと解釈しています。」

「うーん・・・分かるような分からないような・・・。」


「3つに共通する事としては、情報操作や印象操作を防ぐ事と他者への信心を高める事です。直接的に他者と争ってはいけない、アトランティス以外の人と信頼関係を築きなさい、目で見て自分で判断しなさいと言われても素直に聞けないでしょうからね。」

「なるほど、しっかりと浸透させるために敢えて回りくどいやり方と取ったって事か。」


「はい、ですがこのやり方の真意に気付き、都合の悪い者が先生たちに対する悪い噂を流し始め、更にムー大陸に対しての悪評まで流し始めたのです。

 ''マクラはムーと同様、我々をコントロール下に置き支配しようとしている。我々アトランティスをムーの属国にしようとしている。''と。」

「あぁ、既得権益を得ていた人間からしたら目の上のコブでしかないからな・・・。

 ムー大陸と違って元々の内政が破綻していたわけでは無いからこそ起こった事か。」

「力づくで推進したらそれこそ対立が決定的になっちゃうもんね・・・。」


「はい、先生もそのことを分かっていたので改革を諦めようとしていた時に事は起きたのです。

 セリオンが信者を集め、救済の名の元アトランティスの過激派を操りアイワスを受肉させ、現世に降臨させようと動き始めたのです。」

「げっ、アイワスってセリオンを操ってる悪魔みたいな奴だよな・・・?」

「ええ、ですので先生たちは見て見ぬふりは出来ないのでセリオンの討伐に打って出たのです。」

「おお・・・! 親父カッコいいな・・・!」


「ですが、それが結果的に先生たちとアトランティス、そしてムーとの亀裂を決定的なものにしてしまったのです・・・。」

「えぇ、何で!?ほっといたらアトランティスもとんでもない事になるんじゃないのか!?」


「セリオンは賢い男でしたからね・・・アイワスの降臨計画は秘密裏に動いており、表向き先生が乱心してアトランティスを救済しようとしているセリオンに襲い掛かっているように印象操作していたのです。」

「くぅぅ・・・憎たらしいな・・・!」


「最終的に先生たちはセリオンの討伐には成功したもののアトランティスから狙われる事となったため、ムー大陸にも帰らず身を隠す事になり、そして弟子であった私も反逆の加担者として厳しい目で見られるようになったのです。」


「あの・・・お父さん達は隠れれば良かったかも知れないけど、ムー大陸は隠れられないじゃないですか・・・?」


 陽子が訊ねる。


「はい、本題はそこです。先生もその事を危惧し、亀裂が決定的になる前にアトランティスの中枢が過激な事を始めないか探りを入れていた際に偶然発見したのです。」

「何を、ですか・・・?」

「Mの書と呼ばれるアトランティスの古からの知識を書き記した書です。」

「「Mの書!?」」


 僕と陽子は一斉に叫んだ。

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