第六話(三十六話) 上陸 (挿絵追加)
船は浅瀬まで着くと錨を下ろし、船を固定する。
上陸するのはインドネシア側の調査もあるためパプアニューギニアとなった。
海岸線を眺めると、その延長上に溶岩流が固まって出来たと思われる岩場がある。
「あそこが海底火山によって出来た陸地との境なのかな・・・。」
「少し前まで溶岩だったと思うとちょっと怖いね・・・。」
「見た感じは陸地まできっちり繋がってて、船が通過できるようにはとても見えないな。」
「オーストラリア側はどうなんだろうね、そっちでも切れ間があれば良いんだけど・・・。」
「まぁ、ここからは見えないから調査隊に任せるしかないかなぁ。」
上陸のための小舟が数隻出され、そのうち一隻に僕らは乗り込んだ。
小舟以外に一隻・・・いや、一台か?水陸両用と思われるバギーが浮かんでいる。
「あれって調査隊のやつなのかな?」
「そうですよ。あれは調査隊の機動力で、あれ一台あれば大抵の場所は一日1000km以上走破できますよ。」
今回同じ食料調達班の班長となったレムリア大陸経験者、ガラジオ大佐が教えてくれる。
「おぉ、それは凄いですね。」
「ニューギニア島の端までなら調査含め往復3日くらいですかね。」
「3日か・・・一週間に比べればかなり短縮されてるけど、やはりそれくらいはかかるんだな・・・。」
陸地に近付き、ガラジオ大佐はある異変に気付いた。
「あれは・・・」
「どうしましたか?」
「雨が降ってて分かりづらいけどあそこの大きな岩、かなり上の方まで海藻や貝が付着して、つい最近まで海底にあった感じですね。」
言われてみると確かにそんな感じだ。
海岸の方もよくよく眺めてみると、不自然に遠くの方に魚が散乱している。
「これ・・・もしかして陸地が隆起してませんか?」
陽子の問いに対し、ガラジオ大佐が推測を語った。
「恐らくそういうことでしょう。海底火山だけかと思ってたけど、これはかなり大規模な地殻変動があったようですね・・・。」
「でもこれ、もしまだ生きてる魚がいればそのまま持ち帰って食料に出来そうですね。」
「そうですね、そういう意味では助かったかも知れない。」
小舟を陸地に着け、周囲を確認するとこのあたりもずっと雨が降っていたのかあちこちに水たまりが出来ていて、そのおかげでかろうじて生きている魚も多数居た。
初日は陸地に深入りすることも無く、海岸でまだ生きている魚を探して母船まで運ぶ作業を行った。
ー 上陸2日目 ー
今日も雨模様。
昨日大方の海岸の魚は回収出来たので、いよいよ内陸部に入る。
南国の島らしく、海岸から割と間もなく鬱蒼とした森林が広がっている。
周囲を見渡すと果実の成っている木も多く、昨日の魚に引き続き食料確保は順調かのように見えた。
「あそこにも果物が成ってるぞ、行こう!」
僕は意気揚々と果物の木へ向かって走り出すと、木陰から子供位の背格好の角の生えた生き物が唸り声をあげながら出て来た。
「ギギ・・・」
「うおっ、こいつは・・・ゴブリン?多分妖憑きってやつだな。」
「気を付けて下さいね!小さくとも普通の人間より力は強いので!」
ガラジオ大佐が叫ぶ。
「分かってるとは思いますが彼らは元々人間、殺さないようにしてくださいね!」
そうだった・・・いざというときは躊躇ってられないが、今回は襲われても殺生は禁止されている。
「了解です!陽子、僕が隙を作るから電撃を頼む!」
「わかった!」
ゴブリンのような生き物は両手で棒を持って襲い掛かって来る。
僕は警棒を取り出して分離し、左手のパリングダガーで振り回してきた棒を受け止めるが、左手だけでは受けきれなく右手も使って食い止める。
「くっ、結構力強いな・・・」
『ドカッ』
「真倉さん、正面から受けたら攻撃に反転出来ませんよ!」
ガラジオ大佐が後ろから走ってきてその勢いでゴブリンを警棒で殴り飛ばした。
「陽子さん、今です!」
「はい!」
倒れたゴブリンに対して陽子が電撃を浴びせる。
「グギギ・・・・!」
そのままゴブリンは気絶し、動かなくなった。
「すみません、まだ武器の扱いに慣れてなくて・・・。」
「まぁ、最初はそんなもんですよ。それにほら、まだまだ練習は出来そうですよ・・・!」
見ると奥からゴブリンが群れでこちらを見ている・・・。
「はは、これは退屈しなそうだ・・・」
次々湧いて来るかのように襲い掛かって来るゴブリン達相手に訓練で習った事を思い出しながら対処する。
ガラジオ大佐は水の扱いに長けているようで、水を操ってゴブリンを窒息させ、次々倒してゆく。
「流石本職の軍人、強いなぁ・・・。僕も負けてられない・・・!」
なんとかブラックホールの力に頼らず体術で捌く。
陽子のサポートもあるため、特別危険な状態にはならず何とか凌ぎ切った。
「はぁ、はぁ・・・終わったか・・・?」
周囲を見渡すが、もう襲い掛かって来る者は無さそうだ。
「お疲れ様です。」
ガラジオ大佐は息一つ乱していない・・・。
「こんな調子が続くようだと、食料調達もなかなかに大変な作業だな・・・。」
果物を持って来た籠に詰め、次の食料を探しに更なる奥地へと進む。
そして30分ほど奥地へと歩いたところで先頭を歩くガラジオ大佐が足を止めた。
「どうしました?」
「あそこ・・・獣や魔物※が倒れてますね・・・。」
※妖憑きだと語呂が悪く呼びづらいので、魔物という呼び名で統一するように力が提案しました。
「本当だ・・・この辺りは僕ら以外の班は来てないはずですよね?」
「ええ、もしかするとより強い何かが居るかも知れないので気を付けて下さいね。」
辺りを伺いながら恐る恐る進むと、切り立つ崖が見えて来た。
「あそこ・・・!」
ガラジオ大佐が指さす先に色々な種類の獣や魔物の群れが見えた。
だが、僕らを見ているわけでなく崖の方に向かって何やら唸り、襲い掛かってるようだ。
「グルル・・・!」
「キィキィ!」
近付いて見ると崖に追い詰められるような形で男性が息絶え絶えで座り込み、その脇で女性が倒れている。その前を石で固めた人形のようなものが魔物と交戦しているようだ。
男性と女性は耳が長く色白で、まるでファンタジーの世界のエルフのような姿だ。
「これは・・・助けた方が良さそうですね。」
「そうですね、行きましょう!」
僕らは魔物の群れに向かって走り出した・・・!




