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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
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第五話(三十五話) 隆起

 結局僕の磁気コントロールの修行も、ブラックホールのコントロールと関連付けて行うのが良さそうということで、複合的に行うこととなった。


 そしてそれぞれの特性を生かした方法で修行を行うと同時に、基礎的な武器の扱いについても学んだ。(とはいえ、肉体的な問題で実際に行ったのは力だけであった。)



 そして出航から1週間が過ぎようとしたころ、これまでの比較的順調な航行から事態が急変する・・・。



「うーん、今日も雨かぁ。」

「ここ3日くらいずっとだね、海底火山の影響もまだまだ残ってるし大丈夫かなぁ。」


 訓練前のひと時、なんてことのない会話をしているとミシェルさんが部屋に訪れた。


「力殿、陽子さん、今宜しいでしょうか?」

「おはようございます、ミシェルさん。どうしましたか?」


「船がそろそろパプアニューギニアとオーストラリア間の海峡を通過する予定なのですが、どうも様子がおかしいようなのです。」

「おかしいって、どういうことですか?」


「雨で視界が悪いのですが、どうも海峡ではなく大陸があり通過出来ないようなのです。」

「えっ、航路を間違えたってことでしょうか?」


「いえ、航海士の腕は確かなのでそれはないでしょう。

 恐らく海底火山の影響で海底が隆起して、海峡に陸地が誕生したのではないかということです。」

「海底火山で陸地が、ですか・・・聞いたことはあるけど大陸が繋がってしまうほどなんですね。」


「はい、ですが状況がよく分からないので上陸して状況を確認するか、迂回してインド洋を目指すか議論しているところです。」

「今ですか?」

「はい、お二人も何か意見があれば私から伝えようと思い伺いに来ました。」


「迂回って言うと・・・北上してインドネシア側から行くか、南下してオーストラリアを越えて行くかって事ですか?」

「そうなります。ですが、今の状況を考えるとインドネシア側はここと同様に諸島間に陸地や浅瀬が出来て抜けられない可能性がありそうなのです。」

「となると、上陸して状況把握するか、無難に南下ということですか。」

「はい、引き返すリスクがあるインドネシア側からいきなり行くというのは皆さん消極的なようです。

 とはいえ、オーストラリアを南下して迂回するとなるとかなり時間的なロスとなるため、どうするかを議論しています。」


「陽子、どう思う?」

「う~ん・・・。迂回して時間が掛かるようになるってことは一番の問題は食料の備蓄だと思うから、食料の現地調達も兼ねて上陸かな?」

「そうだな、それと僕としては時間がかかるとなると陽子の精神体寿命の事もあるから出来るだけインドネシア側からか、他にもどこか抜けられそうなルートがあるか確認したいと思う。

 ちなみに、両者を選んだ場合の想定ロス時間のようなものって試算してますか?」


「はい。オーストラリアを迂回した場合は約1か月のロス、上陸の場合は調査に約1週間、インドネシア側から抜けられると想定した場合約1週間の計2週間のロスを想定しています。」

「もしインドネシア側から抜けられないと判断した場合は1か月プラス1週間のロスか・・・。」

「そうなります。」


「悩ましいけど・・・時間短縮の可能性があるならやっぱり上陸かなぁ。」


「では、そのように伝えます。ちなみに上陸の場合は妖憑きとの交戦も想定されるので、その時はしっかりと自衛をお願いしますね。」

「そうだった・・・でもまぁ、実践経験を積めると思えばそれはそれで良いのかな・・・?」

「ふふ、前向きで良いと思います。」



 その後会議で正式に上陸が決定したが、僕らの意向を尊重し調査期間は極力短縮し早期判断する方針となった。


 尚、調査隊はヌーディ少将を隊長として調査期間の短縮化を狙った機動力重視の少数隊を編成することとなり、僕らを含めた戦闘力のある人員で上陸及び食料調達をすることとなった。


「ヌーディ少将ってあの草生え散らかしてそうな人だよな・・・?」

「草?」


 決定事項を伝えに来たミシェルさんが意味が分からず聞き返してくる・・・


「あ、いえ、何でも無いです・・・」


「ヌーディ少将の隊は密偵も兼ねた奇襲を得意とするメンバーなので、今回のようなケースでは非常に頼りになりますよ。」

「そうなんですね。」


 人は見かけによらないものだ・・・まぁ、少将って称号もあるくらいなんだから当然凄い人なんだろうけど。


「それにしても、戦闘力のある人達が食料調達に出てしまったら留守中の船が万が一襲われた場合大丈夫なんでしょうか?」

「船は私が残りますし、モーヴ中将もいらっしゃるので心配無用ですよ。」

「ミシェルさんは来てくれないんですか?」


 てっきり一緒に行ってくれるとばかり思ってたので一抹の不安を感じた。


「私は船の守備全体を管理する事になってますので、残念ですが一緒に行けません。

 ですが、この一週間で学んだことを活かしてもらえれば十分やって行けると思いますよ。」

「そうですか・・・心細いですがやってみます!」



 僕は支給されたスタンガン機能のある一見返しのある鍔 (つば)が付いた伸縮する警棒のような短刀を仕込んだ棒を帯刀?し、上陸の準備を行った。


「つとむ、それって訓練で使ってた武器?」


 僕は警棒を取り出し、取っ手のロックを外して先端の棒を外し、十手にも似た細い短刀をむき出しにして説明した。


「そうだよ。ちょっと変わってるよな。

 マクラ共和国では殺生を良しとしてないから基本は相手を気絶させることが目的で、短刀は万が一に備えてのものらしい。

 短刀もパリングダガーと言って、主に相手の攻撃を受け流す用のものなんだってさ。」

「そうなんだ、藤枝さんは銃を持ってたのにね。」

「まぁ、藤枝さんは日本防衛隊の所属だからな。ルールや考え方が違うんだろ。」


 僕は右手で取り外した棒を振って遠心力で伸ばし、左手にパリングダガーを持って構える。


「こうやって左手のパリングダガーで攻撃を受け流し、右手の棒で叩いたり先端の電極部で突くことでスイッチが入り、電流が流れる仕組みだよ。所謂スタンバトンってやつだな。」

「え、突くだけで電流が流れるの?普段の扱いで危険じゃない?」

「大丈夫だよ、自動で電流が流れるのは棒を伸ばした状態だけだから。

 それに自由にON-OFF出来るスイッチもあるしね。」

「そうなんだ、ちゃんと考えられてるんだね。」

「そりゃそうだろ。これ持ち運び時はコンパクトだけど、攻防兼ねたなかなか合理的な武器だよ。

 それにこれ、暗いところでスイッチON状態にすると棒部分が発光してビームサーベルっぽくてカッコいいんだぜ!」

「・・・そうなんだ、良かったね・・・。」


 陽子には男のロマンが分からないらしい・・・実に嘆かわしい。


「まぁ、でも残念ながら今回は雨が降ってて感電の危険があるから電撃の出番は無いかなぁ。」

「私は精神体だし、その心配は無いから使い放題だね♪」


 陽子はこの一週間で既に落ち着いた状態であれば電撃を発せられるまでになっている。頼もしい事だ。


 僕はどうかって?磁力の出力調整はある程度出来るようになったものの、動作の俊敏性がイマイチなので戦闘中に臨機応変に扱うというのは厳しく、大きな動作で通じる状況での使用に限られるという感じだ。


 メイはもう・・・なんというか凄い事になってるので今後の活躍に期待だ。


 ともあれ、僕らはこの世界に来て初のムー大陸以外の大陸へと上陸することとなった。

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