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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第二章
33/84

第三話(第三十三話) 修行二日目

 修行二日目


 訓練室へと向かうと、既にミシェルさんとメイが待っていた。


「ツトム、ヨウコ、遅いでしゅよ!」


 メイがやる気満々な顔で僕らに一喝してくる。


「メイは朝から元気だな。」

「勿論でしゅ、昨日中途半端なところで終わったから不完全燃焼でしゅ!」

「そっか、昨日折角方針が見えていざこれからって時に私たちの都合で終了しちゃったもんね。」

「そうでしゅよ!今日はとことん付き合ってもらいましゅよ!」


 はは、こりゃ寝不足だからと早々に切り上げるのは無理そうだ・・・。


「では、昨日途中になってしまった陽子さんの方針に関してですが、スタンガンの応用と対消滅について。対消滅に関しては具体的な反物質の取り出し方、生成方法が分からないとあまり議論しても仕方が無いように思えるのですが如何でしょう?」


 ミシェルさんの問いに関して陽子が待ってましたとばかりに答える。


「生成に関しては一つ試したいことがあって、反物質の中でも反電子は自然界で比較的日常的に出来ているので、それを利用出来ればと思っています。」

「自然界で、ですか・・・?それはどこで、でしょうか?」


「雷です。」


「!・・・なるほど、スタンガンの更なる応用ということですか。

 とはいえ、いくら対消滅でも少量の電子では大した威力にはならないのでは?」

「はい・・・なので複数の電子を閉じ込めて自由に取り出せればと思うのですが・・・」

「その方法が今のところ無い、と。」

「そうです・・・。」


「閉じ込める・・・反物質・・・」


 何か頭の片隅で引っかかってもやもやしていると、頭の中でウィルが声を掛けて来た。


『・・・(つとむ)、今引っかかっているのは恐らく爆弾魔の使っていた爆弾の事かと。』

「あ、そうだ・・・。

 あの時ウィルは容器の中に陽子(ようし)が入っているって言ってたよな。

 ここでの陽子(ようし)にあたるものは陰子のはずだから、あれも反物質を使った対消滅爆弾ってことか?」

『・・・そうなります。』


 僕はウィルを実体化させ、爆弾魔の使っていた爆弾の事を皆に話した。


「ということは・・・その容器の仕組みが分かれば反物質を保存出来るって事?」

『・・・はい。』

「ウィル、容器の仕組みって分かるか?」

『・・・恐らく、容器の中を真空に保ち、磁力で反物質を中央に安定するようにしていたかと。』

「意外とシンプルだな・・・」

「でも、今ここでそれを用意しようとしても難しそうだね。」


 ミシェルさんが少し考え込み、話し始めた。


「・・・危険ではありますが、どこでも使えるというのは切り札に成り得るので本国に連絡して用意してもらおうと思います。」

「核と同じで持っているという事実自体が敵側への牽制にもなりそうだな。」


 反物質の生成、保存についての方向性もまとまったが、何れにせよ今ここで出来るものではないため、船上での修行はスタンガンの再現ということとなった。


「さて、陽子さんの方針も決まったのですが、(つとむ)殿の方針も少し話したいです。」

「えっ、僕はブラックホールの制御ではないのですか?」

「それは勿論そうなのですが、その力は少々殺傷能力が高すぎるように思いますので、相手を殺傷ではなく無力化させる手段も持って頂きたいです。」

「無力化、ですか・・・」


 無力化と言われて思いつくのは陽子の霊体を化け物から引き剥がした方法だが・・・

 そもそもブラックホールの力でどうやって霊体だけを引き剥がせたのかの理由が不明だし、その原理が分からずブラックホールを近づけてもその対象を吸い込んでしまうだけだろう。

 これはブラックホールというか、重力とは一体何なのか?という根源に対する問い掛けにも思える。


「まぁ・・・力殿にはウィル殿が常に一緒に居ることですし、そこまで重要ではないかも知れませんが。

 今後の課題として心に留めておいて頂ければと思います。」

「はい、考えてみます・・・。」


「では、個別の訓練は別途時間を設けますが、まずは共通で取り組んで頂きたい事を話します。」


 そう言うとミシェルさんは部屋の壁に掛けてある黒板の前まで移動した。


「以前お話しした通り、この世に存在する力は非常に弱い力である重力を除けば電磁気力だけです。

 ですので、この電磁気力のコントロールが全ての鍵となるわけですがコントロールする上で必ず身に着けて頂きたい技術として磁気のコントロールになります。

 これが出来るようになれば、自分の武器を手元に手繰り寄せる、どんな状態でも武器を手放さないようにできる、壁歩きが出来る、極めれば相手を遠距離で動かす事も出来ます。」

「なるほど、N極とS極を意図的に作り出すわけか。」

「そういうことです。

 では、そもそも磁気がどうやって生まれているか分かりますか?」

「えっと・・・こういうのは陽子先生どうぞ・・・」

「電子のスピンですよね?」

「そうです、電子が持つ固有のスピンの方向によって決まります。

 永久磁石などはこのスピン方向が一致している状態になります。

 ですので、このスピン方向を意図的に揃えられれば磁気を作り出せることになります。」

「でも、どうやってスピン方向を揃えるんですか?」


 ミシェルさんは僕に向かって微笑むと、黒板に物理の授業のような絵を描きだした。


「電流を流せば良いのです。

 電流を流す事で、この絵のように電流の方向に対してスピンが発生し、磁極が決まります。」

「なるほど・・・意外と分かりやすいですね・・・。」

「はい、理屈は至って分かりやすいのですが、注意点としては全体の電流方向を一致させることです。そうしないと磁極が安定せずに思うような結果を生まないでしょう。

 コイルのように回転させる電流を作る事で磁気モーメントを生み出す事も出来ますが、より難しいコントロールが必要となるのでそちらは応用編になります。」

「なるほど、この応用編が出来ないと陽子が言ってたスタンガンの原理も再現出来ないわけだ。」

「ふふ、そうなりますね。」

「むむ・・・」


「では、今日の課題としてはこのコインを30センチ上の手まで引き寄せることとします。」


 説明を一通り受けると、僕らはトレーニングに移った。

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