第二話(第三十二話) 追憶
航海2日目
「つとむ、おはよう!」
昨日の事が無かったかのように陽子が元気一杯に挨拶してきた。
正直揺れが酷くてあまり眠れなかった僕には元気一杯の声が頭に響く。
「おはよう。陽子は昨夜眠れたのか?」
「うん、何だかゆりかごに揺られてる気持ちでぐっすり眠れたよ〜」
「そっか・・・僕はほとんど寝れなくて、色々なこと考えちゃったよ。」
「色々な事って?」
「時間を逆行してる事が分かったから、これまでの事振り返ってたんだ。」
一息つき、カーテンを開け朝日を取り込み外を眺めた。
「僕らはブラックホールに巻き込まれてこの世界に来て、その直後に神の光ってこっちの人に言われてた僕らの出てきたホワイトホールのようなものが消えた。
それって時間が逆行してた事を考えると、ブラックホールが出来た瞬間に消えたわけで、そして10万年前にこちらの世界に現れたって言われてたという事は、あのブラックホールはあの後10万年間は僕らの居た世界に存在した事になる。」
「多分・・・そうなるね。
ブラックホール周辺の時空の歪みがあるだろうから10万年かどうかは良くわからないけど・・・。」
「じゃぁ、その後は?ブラックホールって忽然と消えるのか?」
「今言われてる最有力な説はホーキング放射によって次第に蒸発するということだけど、突然は消えないね・・・。
特にあれだけ色々な物を吸いこんでたら成長こそすれ消えるとは到底思えないよ。」
「だよな。まぁ、未来にブラックホールを消せるような技術が出来れば話は別だけど。
だけどそうでなければ・・・どうなると思う?」
「・・・地球の重力に引っ張られて地球の中心部へと向かうんじゃないかな・・・」
「僕もそう思う。
そしておそらく・・・ブラックホールは地球を食い尽くして、最後には成長したブラックホールだけが残る。」
「・・・」
「だけど、同時にこうも考えたんだ。
僕らの地球は最後無くなってしまうのかも知れないけど、こちらの地球は?
10万年前に神の光が現れたって言うけど、それって表層上に現れた時ってだけで、実はもっと昔から地中で大地を生み出してたんじゃないか?」
「!」
「・・・もしかして、神の光こそがこちらの地球を生み出した・・・?」
「うん、そうじゃないかって思ってる。」
「もしそうだとすると、わたしたちの地球とは全く異なる誕生の仕方をしてるんだね・・・」
「本当に全く違ってると思う?」
「えっ!私達の地球もこちらの地球から誕生したって事を言いたいの?」
「まぁ、ただの仮説だけどね。」
「ただ、偽書と言われてる古代歴史書の中にはムー大陸から人類の祖先が世界に広がったって話もあることはあるから、何らか関係してそうには思うんだよね。」
「つとむ・・・それって月刊ム○関連の話?」
『ギクッッ』
「な、なんだって良いだろ!?
でも実際にこの世界ではムー大陸から人類が発祥して文明が広がってるから、歴史上急に現れたシュメール文明がこういう経緯で広がったって話もあながち無い話じゃないだろ!?」
「つとむ、なんか必死だね・・・」
「うっ・・・でも、折角こんなロマン溢れる世界に来たんだ、未だ誰も知らない歴史の真実を追い求めるのも良いじゃないか・・・!」
「まぁ・・・確かに目的や楽しみを見つけるのもこんな状況を生き抜くには必要かもね。」
・・・状況の重さを考えると、ロマンとか言ってると若干の後ろめたさはあるな・・・。
『グラッ・・・』
こうして話をしている間も時折船は大きく揺れる。
「おっと・・・それにしても、一晩経ってもまだ揺れが収まんないんだな・・・」
「太平洋沿岸は基本的に火山地帯だから、一度始まったらなかなか収まらないだろうねぇ。」
「うーん、今日の訓練はどうするんだろう。」
『コンコン』
噂をすればドアをノックする音だ。
「おはようございます、体調は如何ですか?」
昨日取り乱していた僕らを心配してか、ミシェルさんが様子を見に来てくれたようだ。
「おはようございます、ミシェルさん。
昨日は心配をかけて済みませんでした。」
「その様子だと大丈夫そうですね。」
「揺れであまり眠れなかったですが・・・昨日のことはもう大丈夫です。」
「そうですか、揺れは船旅では付き物なので慣れないといけませんね。
今日は万が一を考え、甲板ではなく屋内で訓練を予定しているので朝食が終わったら屋内訓練室まで来て下さい。」
「分かりました。」
そう言うとミシェルさんはぺこりとお辞儀し、部屋を出て行った。
「はは・・・普通に訓練するってさ。」
「そりゃそうでしょ~、つとむ考えが甘いよ!!」
そして二日目の訓練が始まった。




