第二十六話 Mの書
その後僕らは捕らえた薔薇十字団の者2名を軍に引き渡し、藤枝さんは今後軍に所属しつつ薔薇十字団の動向をリークするスパイとして動いてもらうようこちらから軍に提案し、司法取引した。
薔薇十字団に家族を保護されている藤枝さんからすると願っても無い条件だったようで感謝されたが、僕としてもここまで色々お世話になった藤枝さんに対して冷徹な決断を下すのは忍びないのでこれで良かったのだと思う。
ちなみに、僕の命が狙われていた理由についてはハッキリとは分からなかったが、陽子が攫われた理由は漠然と判明した。
陽子は攫われた後、例の教会の地下室で尋問を受けたようだ。
薔薇十字団はキリスト教内部にも繋がっているようで、捕らえた二人は普段は教会の仕事をしていたらしい。(陽子が見えているくらいなので、かなり位も高いと思われる。)
そこで問われたのは陽子の物質体の行方と、"Mの書"とやらの行方を両親から聞いていないかという内容だったらしい。
「Mの書というのが何なのかよく分からないけど、陽子の物質体ってあの化け物だよな・・・なんでそんなのを探しているんだ・・・?」
「化け物になっているのを知らないとか?」
「・・・だとすると余計陽子の体を探して何しようってんだ・・・。」
「つとむこそ何考えてるの・・・。」
「・・・あ、それはそうと見えて来た、あれだ。」
結局図書館での調査が中途半端に終わり、事件の後処理でてんやわんやして結局その日はその後何もできなかった僕らは、次の日改めてシオン聖堂へとやってきた。
前日の騒動もあり、今この教会は立ち入り禁止となっているが僕らは特別な許可を得て来ていた。
「この建物の中、陽子も昨日見たんだよな?」
「ううん、私は目隠しされてたから見てないけど・・・これって・・・。」
中に入るや否や、陽子も昨日の僕と同じような反応を示した。
「父さんが設計したらしいけど、これ見てどう思う?」
「え、お父さんが?これを?」
「でもってこの教会はシオン聖堂・・・何かあると思わないか?」
「シオン・・・シオン修道会?」
このルーブル美術館のオブジェにシオン修道会は、母さんが好きでよく見ていた映画に出て来るキーになるものだ。
「映画ではこのピラミッド型の石の下にキリスト教に関わる重要な秘密が隠されていたが・・・。」
「でも、そんなの映画を見たことある人だったら誰でも分かる事なんじゃないの?」
「そう、なのに敢えてこのデザインにしたところに何か理由があると思うんだ。そして恐らく・・・薔薇十字団の一員がこの教会に潜伏していたのも偶然じゃない。」
「もしかしてMの書?」
「・・・多分。」
ピラミッド型の石の周囲を確認するが、全面平らな面となっており何か仕掛けがあるようには見えない。
「うーん・・・表に何かあるわけではなさそうだから地下かな・・・。」
「昨日は目隠しされてたけど、この石畳の感触は覚えてるし、階段で地下に降りたのは確かだよ。」
「よし、探そう。」
礼拝堂の裏に回る通路があり、丁度真裏の位置に階段があった。
地下は天然の岩肌を削ったような質感の空間となっており、壁面には装飾が彫り込まれている。
「あ、ここは見たよ!あっちに真っすぐ行くと昨日つとむが降りて来た穴に通じるよ。」
陽子の指さす先に薄っすら明かりが見える。
「この地下道は教会の敷地内から出た場所にも繋がってるんだな・・・」
穴のある方とは逆にも道が通じており、突き当りに扉が見える。
「昨日はそこの扉の奥は行ってないよ。」
この地下道はあちこちに横道や部屋があるようだ。
「ピラミッドの下となるとこの扉の奥だな。行ってみよう!」
扉を開けるとそこには少し広い空洞に机と椅子が並び、奥に十字架が見える。
「これは・・・古い礼拝堂か?」
「今の教会が出来る前に使ってたものかも知れないね。」
「ピラミッドの真下はどのあたりだろう・・・ウィル、分かるか?」
名前を呼ぶとウィルが姿を現した。
『・・・この部屋のもう少し奥になります。』
「更に奥・・・?」
陽子が小走りに十字架の更に奥を見に行った。
「うーん?裏には何も無さそうだよ?」
「どれどれ・・・うん、確かに壁があるだけだな。」
僕と陽子が周囲に隠し扉や仕掛けが無いか調べているとウィルが口が開いた。
『・・・ここの壁は分子配列が不安定ですね。通電すると崩れるかも知れません。』
ぱっと見他と何も変わらなさそうな壁を指している。
「でも、通電って・・・あ、ウィルなら出来るのか。」
『・・・はい。』
ウィルが手をかざし壁に向かって放電すると、壁はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「おぉ・・・でもこれって普通爆破でもしない限り見つからないぞ・・・。」
「この扉の原理を見破って、かつ体外に放電出来るだけの力が無いと見つからないようにしたって意図を感じるね・・・。」
「多分そういうことなんだろうな。」
崩れが収まるのを待ち、壁の奥にある部屋へと入った。
奥の部屋は全体が薄ぼんやりと蛍光色に発光し、明かりが無くても十分見える。
「これはなんだ・・・箱?」
部屋の中央付近に大きな箱が少し間を開けて2つ置いてある。
「これ・・・棺桶じゃない?」
「え・・・」
よくよく見ると箱の上にネームプレートのようなものがある。
「ほんとだ・・・棺桶だ、これ・・・」
「こっちのは箱の蓋に薔薇の花が彫られてるよ。」
「薔薇・・・薔薇十字関係か、別の意味があるのか・・・?」
「!!つとむ、これ!!」
陽子が驚いた表情を見せる。
「どうした?」
「名前・・・」
「名前・・・? 薄暗くて見づらいけど・・・M A R I M A K U R A・・・真倉 真理!?」
薔薇の花の彫られた棺桶は母さんのものだった。
「そうするとこっちは・・・ H I R O S H I M A K U R A・・・やはり父さんか・・・。」
「・・・」
果たして本物の棺桶なのか、別の何かを意図したものなのか・・・暫く沈黙が流れた。
「そうだ・・・ピラミッドの真下はどこになるんだ・・・?」
『・・・箱と箱の丁度中央になります。』
床はレンガが敷き詰められており、中央付近も特別違いは見られない。
床を強く踏んで差が無いか確認すると、中央付近だけ少し下に空間がありそうな音の響きがある。
「この下、何かありそうだな・・・。」
レンガの隙間に指を入れ、強引に引っ張るとレンガが外れた。
「よし、外れそうだ!」
レンガを取り除くとその下に木の板があり、木の板を外すとそこには本が入っていた。
「これが"Mの書"か・・・?」
「タイトルは何て書いてあるの?」
「えっと・・・ " L i b e r M u n d u s "」




