第二十五話 事情聴取 (挿絵追加)
「何とか助かったけど足止めを食らってしまった・・・。陽子を探さないと。」
『・・・半径1km圏外へと出たようです。消息不明です。』
「仕方ない、とりあえず車が向かったと思われる方面を探そう。」
僕と竜となったウィルは空から街の様子を伺いつつ車の行方を探る。
「さっきの爆発の影響で街全体がかなり混乱してるな・・・。」
街路樹は倒れ、崩壊した建物の瓦礫が散乱し、道行く人も戸惑っている様子が見えた。
「奴らの目的は何なんだ、僕を殺し、陽子を誘拐して成そうとしている事って・・・。」
『・・・発見しました、あの建物の中に居るようです。』
「あれは・・・」
ウィルの示す先を見ると、屋根がガラスで出来たモダンな雰囲気の教会があった。
「珍しいデザインの教会だけど、何だか既視感があるな・・・。」
到着しウィルの名前を解除して教会内へ入ると、目の前にあるオブジェに驚いた。
「!!」
「これって・・・見た事あるぞ・・・。」
そこには天井から吊り下がった逆三角錐のガラスと、その下に高さ1mほどのピラミッド型の三角錐の石が置かれていた。
「ようこそシオン聖堂へ。当教会はこの国の創始者 真倉 博史様が設計された非常に珍しいデザインが特徴となっております。」
オブジェにくぎ付けになっていると、シスターと思われる人から声を掛けられた。
「えっ、父さんが!?」
「父さん・・・?まぁ、あなたが今噂の真倉 力さんですね!お会いできて光栄です。
はい、このオブジェは真倉 博史様の出身地にある有名な建築物をモチーフに、666枚のガラスを張り合わせて作られたと言われています。」
「これって映画にも使われてたルーブル美術館のオブジェだよな・・・しかも666枚?獣の数字?どう考えても何かを示唆してるよな・・・。」
このオブジェも気になるけど、今はそれどころではない・・・!
「あの、先ほどここへと来た人が居ませんか?」
「え?関係者以外の方は来ていないかと思いますが・・・。」
『・・・移動しています、恐らく私たちに気付いて裏口から出たと思われます。』
「なんだって?逃がすか!」
急いで外へと出て裏口へと回るがそれらしき人影は見られない。
『・・・下の方ですね。地下道か何かがあるようです。』
「あまり街に危害は加えたくないが仕方ない!ウィル頼む、穴を開けてくれ!」
『・・・了解しました。』
ウィルは僕の体の主導権を取り、手の先に巨大な真空の渦を作り出し下方向へと放った。
<< ボゴーーン!! >>
激しい土煙が上がり、地面に大きな穴が開く。
「ぐわっ!」
下に居たと思われる人の叫び声が聞こえた。
「陽子!そこに居るのか!?」
「!!つとむ!?」
穴を降りて見ると、陽子と3人の男性の姿が見えた。
そのうちの一人は・・・藤枝さんだ。
だが、陽子と藤枝さんは後ろ手を縛られているようだ。
「くそっ!」
2人の男性が懐に手を入れた瞬間、ウィルが再び体の制御を奪い2人の男性に向けて衝撃波を放った。
「ぐはっ!」
一瞬で片は付いた。
「流石ウィルさんだ。
さて・・・藤枝さん、僕はあなたが首謀者の一人かと思ってたのですが、どういうことでしょうか?」
「・・・」
藤枝さんは罰の悪そうな顔で目を背けている。
「待って、つとむ!藤枝さんは私を・・・いえ、つとむも助けようとしてくれたんだよ!」
「・・・どういうことだ?」
陽子も3人の男たちの話を断片的にしか聞いていないが、理解した範囲だと僕と陽子の居場所を薔薇十字団に知らせたのは藤枝さんで間違いなさそうで、かつ、犯行声明のような薔薇十字の紙を現場に置いたのも藤枝さんのようだ。
けど、その紙を置くのは彼らの思惑外だったようで仲間割れのような状態になっていたそうだ。
「・・・確かに、あんな物を残したら警戒されて当然で、奴らにとって何の利益も無いもんな。しかもわざわざ犯人の正体を明かすようなものだし。」
とはいえ・・・
「でも、本当に僕らを助けるつもりなら初めから居場所を伝えなければ良かっただけなんじゃないか?」
ずっとうつむいたままだった藤枝さんが少しづつ話し始めた。
「・・・初めは助けるつもりはありませんでした。
・・・私には弟が居ます。弟は・・・忌み子でした。」
藤原さんの弟は忌み子として生まれ、家族諸共近隣地域から疎まれ人里離れた場所で暮らしていたが、藤枝さん自身は家族を養うために出稼ぎに防衛隊に入隊。
そこで薔薇十字団の噂を聞きつけたらしい。
薔薇十字団はアトランティス大陸に根付いた集団であるため忌み子に対して寛容で、家族を薔薇十字団で匿ってくれたことに恩義を感じて日本防衛隊に所属しつつも薔薇十字団の方針には従っていたようだ。
「薔薇十字団が真倉さんを探しているのを知っていたため、隊に志願して南鳥島の監視任務をしていたのですが、何故探しているのかまでは知りませんでした。」
「僕らが命を狙われていると知ったのはいつからですか?」
「・・・マクラ共和国に着いてからです。それでも、薔薇十字団の方針に背くつもりはなかったのですが・・・気持ちが揺れ動いたのは、陽子さんの姿を見てからです・・・。」
「会議での模擬戦の時か・・・。」
「はい、真倉さんが陽子さんを守っている事は分かっていましたが、陽子さんが忌み子であることはその時初めて知って・・・自分と同じ境遇である真倉さん達を黙って見ていられなくなりました・・・。」
なるほど、道理としては通っていそうな話だ・・・。
対応が何かと中途半端なのは気持ちの揺らぎからだったのだろう。
それでもやはり不可解な点は多い。
藤枝さんに対する事情聴取は続く・・・。




