第二十二話 大嘘
「どういうことだ?真倉 博史様は歴史上の人物では・・・?」
「でも、顔は肖像画や写真と同じだぞ・・・」
報道陣が戸惑いつつ、それぞれの思考を巡らせている。
「降霊術をご存じでしょうか?霊体や精神体は死後天界へと召されますが、一部の名声を得た魂は輪廻の輪から外れ、降霊術によって一時的に現世に戻ることが可能です。」
勿論、 大 嘘 だ。
昔読んだ漫画の占い師のばーさんが言っていた事をそれっぽく言い直しただけだ。父さんは勿論ウィルが化けている。
「僕は霊体や精神体との交信が出来ます。昨日の会議でもその力の一片はお見せしたのでご存じの方も居るかと思います。」
「そういえば、昨日精神体となったという妹を我々に見えるようにしていたな・・・」
日本防衛隊の幹部の一人が漏らす。
しめしめ敵を騙すにはまず味方から、こういう本当の事をそれっぽく漏らしてもらえると俄然信憑性が増す。
『あー、私が真倉 博史だ。息子から紹介があったように一時的に現世に降りて来た。今騒動になっている私が残した伝承だが・・・あれは真っ赤な嘘だ!』
「えっ・・・嘘・・・?」
報道陣が尚一層ざわつく。
『嘘というと語弊があるな。大いなる災いから救うという内容は伝えたが、後世に残したものが内容を少し間違って伝えたようだな。』
「大いなる災いから救うというのは、具体的にどうやって?」
「僕には降霊や精神体の可視化の他に、物質体から精神体を抜き取る力があります。現に僕の妹はこの世界にやってきた際に妖憑きや悪魔憑きと呼ばれる病に罹ったのですが、僕の力で精神体を抜き取り、無力化した物質体を葬っています。」
「おぉ・・・」
「おかげで僕の妹は御覧の通り・・・」
ここで僕は陽子に触れ、ウィルを通じて可視化する。
(ちなみにウィルもこっそり僕の背に触れている。)
「精神体とはなってしまいましたが、今も健在です。」
心は痛むが・・・今はこの嘘が重要だ。
そしてここからは本当のこと、というか僕の決意声明だ・・・!
「僕はこの力を使って、世界を滅ぼし得る化け物を倒し、妖憑きから世界を解放します!そのためにも、軍や皆さまのお力添えをどうぞ宜しくお願いします!!」
『そういうことだ。どうか、この愚息を宜しく頼む。』
報道陣のカメラフラッシュが激しく瞬く。
反応は上々!やれることはやれたはずだ。
そしてウィルの名前を解除し、皆の前から父さんの姿が消えた瞬間・・・
<< バリーーーーン!! >>
「何だ!?」
突如窓ガラスが割れた。
「弾痕があるぞ!狙撃だ!!」
警備についていた隊の人が何人か、狙撃元と思われる場所に向かって走って出て行った。
「えっ!?」
気付くとウィルが体のコントロール権を奪い、弾丸を受け止めていた。
『・・・2発発砲されています、狙われたのは力と博史殿の二人。』
その後記者会見は騒然としたまま終了し、僕たちは厳重な警備の元宿舎へと帰る事となった。
その後知らされた事としては発砲した犯人は逃走して捕まらず、発砲現場と思われる場所には十字型の茎のついた薔薇の絵と"主ニ不従ナ者共に裁キヲ"という文字が書かれた紙が落ちていたそうだ。
結局その日の報道は発砲事件が大々的に報じられ、僕たちの記者会見の様子は隅に追いやられてしまい、結果陽子の精神体寿命に関しては25日まで回復したものの、思うような効果は得られなかった。
「くそっ、一世一代の芝居を打ったのにこの程度か・・・!」
「でもつとむ、ありがとう。おかげでかなり気持ち的には落ち着いたし・・・何より、つとむ格好良かったよ。」
「な、なんだよ、当然の事したまでだって・・・」
なんだかむず痒い空気に包まれたが・・・それにしても僕と父さんを狙ったのは何者なんだ・・・?十字型の茎に薔薇・・・どこかで見たような気もするんだよな・・・。
「あ・・・薔薇に十字って・・・秘密結社の薔薇十字団か?」
「ん?何?オカルト関係?」
「あ・・・いや、秘密結社自体は存在が秘密主義で謎めいているだけであって実在している組織なんだけど、この薔薇十字団は少しオカルトめいた話もあるのは事実かな。」
「というと?」
「薔薇十字団は人類の救済を掲げているんだけど、その設立を神が行っていてそもそもの目的が古代アトランティスの叡智を残すためのもの・・・という一説があるんだ。」
「ということは・・・つとむとお父さんを狙ったのはアトランティス関係者ってこと?」
「うーん・・・どうだろう、僕らを殺す事だけが目的であれば薔薇十字の絵を残す理由が無い。」
「自己顕示欲の強い犯人とか?」
「まぁ・・・僕らある意味有名人だからその可能性も無いわけではないけど、いずれにせよ薔薇十字団は何かしら関係がありそうだから調べる必要はありそうかな。」
「え~・・・事件に関わるの?軍や警察の人達に任せた方が良くない?危ないよ。」
「まぁ、こっちにはウィルも居るし、何よりここで事件解決に導けば民衆の支持も得られて陽子の精神体寿命を延ばせるんじゃないかな。」
「うーん・・・」
陽子は今一つ乗り気ではないが、自分の命も狙われているのだから無関係じゃない。僕らは事件解決に向けて調査を始めることにした。




