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Over the Holizon ‐ 力の意思 ‐  作者: 天沼 観影
第一章
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第十六話 戦う意思

「ところで・・・(つとむ)殿は自らの運命に向き合い、戦う意思はあるのでしょうか?」


 唐突にミシェルさんから問われはっとした。


「戦う意思・・・ですか。確かに・・・僕はここまで何もわからず、流されるまま来てしまいました・・・。」


 ブラックホールに巻き込まれ、この世界に辿り着き、偶然会った藤枝さん・・・いや向こうからすれば待ちに待ったのだろうけど、何もわからず、何をすれば良いのかも分からず、ムー大陸に来たという浮かれた観光気分もあったのは確かだけど、陽子が狐の化け物になり、精神体として分離し、このままだと消えてしまうと知った。

 他大陸で起こっている事や狐の化け物の脅威も無視出来ないけど、やっぱり・・・僕としては陽子が消えるのは絶対に嫌だ・・・!

その為であればどんな運命にでも立ち向かい、戦ってやる!!


「状況を聞く限り、かなり危険な戦いになりそうなので、意思が無いのであれば無理に戦うことは無いかと思います。」


「いえ!戦います!!」


 この瞬間、僕の中で何かが吹っ切れた。


「・・・良い目です。」


 ミシェルさんはにっこりと微笑んだ。


「他の方はどうでしょうか?」

「わたしも・・・いえ、私はやっぱり私と同じように妖憑きによって苦しんでいる人達を放っておけません!!」

「陽子・・・!」

「あっ・・・」


 失言だった。


「同じように・・・とはどういう事でしょうか?妖に憑りつかれた方は理性を失ってしまうと聞いていますが・・・。」


 仕方ない、最小限の情報は話すか・・・。

 僕はここの辿り着いた時の事、陽子が妖に憑りつかれたが、僕の黒い力によって霊体だけを引き剥がすことができた事を話した。


「そうですか、そんな経緯があって精神体になっているのですね。でも、何故隠していたのですか?このことは妖憑きから人々を救う大きなヒントになりそうなのに。」

「すみません、僕のこの力はまだ制御不能かつ、恐ろしい力を秘めていそうなので口外するのを躊躇っていました。」

「そうでしたか、分かりました。その力の制御に関しては、私も協力できることがあれば尽力しましょう。」

「ありがとうございます。」


 ふぅ・・・何とか陽子と世界を滅ぼし得る化け物との関連性は誤魔化せたか・・・?


「それで、ウィル殿は如何でしょうか?」

『・・・私と(つとむ)は一心同体。力が戦うのであれば、私もまた戦うのみです・・・。』


 なんだか白々しい事を言ってるな・・・。僕を利用しようとしているくせに。


「わかりました。それでは皆さんの意思も確認できたので、無余涅槃流武術の根幹についてお話します。

 まず、初歩的な話として人間は電気信号で動いている事はご存じでしょうか?」

「はい。」

「では、例えば私がこの壁を殴ったとします。では、この時発生する力は何でしょうか?」

「えっ、力・・・?反力・・・か?」

「電磁気力です。」


 回答にもたついている僕を他所にさらっと答える陽子さん・・・。でも、あれ?聞いたことあるような気もするけどそうだっけ・・・?


「ご名答。」


 正解なのか・・・。


「この世に存在する力は大雑把に分類すれば電磁気力と重力だけです。重力に関しては特殊で、時空の歪によって生じる高低差のような物だとか、電磁気力によって生じる副産物のような物だとか言われていますが、正確な所は分かっていないので、ここでは電磁気力について話します。」


 むむ、僕の黒い力はブラックホールに由来するから重力が重要そうだが・・・。


「人間に限らず万物は限られた分子、原子で出来、原子は陽子と中性子から成る原子核と、その周りを回っている電子との組み合わせで出来ています。その原子核の大きさは、この地球の大きさが原子全体だとすると・・・これだけです。」


 そういうとミシェルさんは指でOKサインのような輪を作った。


「つまり、物質は全てミクロの世界で見ればスカスカの状態で、正電荷を持った電子と負電荷を持った原子とが引き合い、原子の周りを回る事で一定のバランスを保って存在しているのです。」


 んん?今の話言い間違いか・・・?電荷の説明が逆のような・・・?

 僕がちらりと陽子を見ると、陽子もちらりとこちらを見た。やはり同じ疑問を持ったようだ。


「しかも、原子も電子も実際には確率によって存在するのみで確定してそこに存在しているわけではないのです。従って、そこに存在しているはずの物質は実は存在していないのと同義なのです。では、何故物質は存在していると感じるのか分かりますか?」

「え・・・確率とはいえそこに存在するから、ではないのですか・・・?」

「半分正解、半分不正解です。」

「そこに存在すると確定させるには、意思の力が必要となります。」

「え?意思??」

「それは人が発する意思の他にも、"何者か"の意思が介在しています。その"何者か"が何なのかは置いておいて、"何者か"の意思に打ち勝てる意思を己が発せられれば・・・確定する事実を変えることが可能となります。」


 その話を聞いた瞬間、ぞわっと鳥肌が立った。


「今の話はかなり階位の高い話になってきますが、最初に話した壁を殴ると何故スカスカである物質同士がぶつかるのかというと、原子の外殻を成す電子同士が同電荷であるため磁石のプラス同士のように反発する事でぶつかるのです。

 また少し話が戻りますが、まずは低段位で身につける見えない物を見るためには何が必要なのかになりますが、先程話した人の意思がどこから発せられているか分かりますか?」

「頭・・・脳ですか?」

「正解は全身です。全身から意思は発せられ、脳がその意思を集約して最終決定を下すので最も強い意思を発するのは確かに脳ですが、全身から意思は発せられるのです。

 また、意思という漠然とした表現をしましたが正確には電磁波が発せられます。その電磁波はそのほとんどが体内だけに留まるのですが、極々僅かに外に漏れ出しています。脳は元々全身の電磁波を受け取る能力を有しているため、その感覚を磨けば、他者の意思、発する電磁波もまた分かるようになります。」


 あ、これって前にウィルに言われたことと同じだな・・・。


「そしてその感覚を更に磨くと、脳が目に映像として映し出し、声を受け取るようになるのです。」

「僕はそんな感覚を磨いた覚えは無いのですが、陽子の姿も見え、声も聞こえます。」

「それはきっと(つとむ)殿が強い意思で陽子さんの意思を受け取ろうと、無意識に感覚が働いているのだと思います。」


 な、なんだか恥ずかしい事を言われた気がするぞ・・・。

 心なしか陽子も委縮した様子に見える・・・。


「いずれにせよ、一人の精神体の姿が見える域まで達しているのであれば、他の意思も容易に感じ取れるようになると思いますよ。」

「あぁ・・・確かにウィルも見えてるしな・・・ってウィルは元々自分と同一体だから別か?」

「少し話が脱線しますが、人の意思を発している発信源こそが精神体となるため、通常は精神体と肉体は同一の形状をしています。」

「ん?そういえば、陽子は精神体になったと同時に服装も変わったけど・・・これって?」

「本人か、それに近しい人の強い意思で顕現しているのでしょうね。」


 うっ、、、それって僕の欲求の可能性もあるのか・・・。陽子自身気に入っているようではあったけど・・・。

 ウィルの姿が名前で変化するのも、その名前に込められたイメージが反映していそうだな・・・。


「20段に達すると脳のリミッターを外せるというのも、結局脳の感受体をコントロール出来るようになった副産物として可能となるわけです。

 そして30段以降の周囲をコントロール出来るというのは、これは言葉で説明してもイメージし辛いかも知れませんが、例えば体から発する電磁波を強力にして体外に発するとどうなるか。周囲の物質が電磁波を受けて激しく振動し、温度が上昇します。」

「あぁ、電子レンジの原理か。ってこの世界に電子レンジってあるのかな?」

「ありますよ。原理としては確かに同じです。また、電磁波の波長をコントロールすると可視光線にも出来るので、周囲を照らすような事も出来るようになります。

 ここから先の世界は本当に奥深く、それこそ先ほど話した確定する事実を変える事で無限の可能性が広がります。

 では、論より証拠で一つ実演をお見せします。」


 そう言うとミシェルさんは武器棚から木刀を持ち出した。


「これを使ってそこにある案山子(かかし)を斬ります。」


 案山子と言ってもかなり太い木に丹念に藁が巻かれた、真剣であっても果たして斬れるのか怪しい案山子だ。


「ちなみに私の段位は32段になります。」


 そう言うとミシェルさんは木刀を構えた。


「はぁっ!!!」


 掛け声と同時にミシェルさんの半そでから見える腕が明らかに2倍以上に膨れ上がった。


<< ズバッ!!! >>


 見事案山子は真っ二つに斬られた。


「おぉ・・・、確かにこれは常人にはどう考えても出来ない芸当だ・・・。」

「これは脳のリミッターカットに加え、先ほど話した電磁波の波長を調整し、木刀に超微細な振動を与えて切断能力を上げています。」

「なるほど、超音波カッターの原理か・・・」

「これが段位が上がれば上がるほど出来ることが広がります。では、次に皆さんの段位を確認させて頂きます。」

内容のまとまりがイマイチなので後で修正するかも知れません。

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