第十三話 マクラ共和国
翌日の昼頃、マクラ共和国の首都へと着いた僕たちを待っていたのは・・・万来の拍手と何かのパレードかと思うくらいの歓迎だった・・・。
「ワー!!ワー!!」
「ようこそマクラ共和国へ!!」
「な、なんだこれは・・・・?」
事態を呑み込めずに茫然としつつ迎えの車に乗る僕と陽子 (とウィル)。
すまなそうな顔をしつつ助手席に乗り込む藤枝さん。
午前中、藤枝さんは到着後の事について話をするつもりだったのだが、僕らは明け方までウィルの名付けに没頭していたせいで昼近くまで寝てしまい、ほとんど何の説明も無いまま現地に到着してしまったのだ。
僕らの到着する駅の一つ前の駅で、既にメイ達は騒ぎに巻き込まれないように汽車を降りて護送車で現地へと向かったそうだ。
「これは・・・確かにこの騒ぎの中あの強面達が出てきたらパニックになりそうだもんな・・・。」
「すみません、正直ここまでの騒ぎになっているとは思わなかったとはいえ、事前に話をしておくべきでした・・・。」
「この国の名前を聞いた時から気にはなっていたのですが・・・この国ってもしかして僕らと何か関係があるのでしょうか・・・?」
「それに関しては私から話すよりも然るべき方から聞いた方が良いかと思います。」
「然るべき方?」
「この国の語り部にして考古学の権威、吉村 直治教授です。本日はあなた方が到着する事を事前に伝えてあるため、本部にてお待ちのはずです。」
暫く走ると繁華街から外れ、オフィス街のような整然とした建物の並ぶ地区へと入った。
「このあたりはこの国の中央自治区になります。この国は共和国となるため日本やアメリカ、オセアニア諸国の代表が集まって政治を行っています。連合軍の本部もこの一角にあります。」
立ち並ぶ建物は近代的というよりは中世の建築物のようだが、電波塔のようなものも散見され、文明自体は割と進んでいそうな雰囲気だ。
「到着しました、こちらになります。」
到着した防衛軍本部はバロック調の雰囲気のある建物。
中に入ると会議室と思われる一室に案内された。
席に座り、暫くすると初老の男性と複数の青年~中年あたりの男女が入ってきて、僕を見るなり初老の男性が声を掛けてきた。
「はじめまして、考古学を生業としている吉村 直治と申します。ようこそおいで下さいました。」
「こちらこそ初めまして、真倉 力と言います。あと・・・見えないかも知れませんが、隣に妹の陽子が居ます。」
ちなみにウィルは名前を解除する事で僕の中に戻せるため、今は僕の中で大人しくしてもらっている。
「はい、お聞きしています。今日は是非お話したいと考えているため、精神体との仲介の出来る者も同席頂いています。」
おぉ、やはりそういう人もここには普通に居るのか。
「まずはこちらへと来るまで大変だったでしょう。」
「ええ、凄い人だかりで驚きました。」
「通信を傍受してスクープを掴もうとするような報道者が居て、真倉様の情報を掴んだようで一気に噂が広がってしまったようです。」
「でも、僕はそんな騒がれるような人間ではありませんよ?」
「いえいえ、皆が騒ぐのも無理はありません。神の光より人が出てきたのがそもそも数百年ぶりのこと。しかもそれがこの国の創始者の子供ですからね。」
「え、今何と仰いましたか?創始者の子供・・・?」
「はい、その通りです。」
「ちょっと待って下さい!僕の父は真倉 博史、母は真理と言います。僕らはずっと日本・・・本州で暮らしていました。この国の創始者というのは何かの間違いではないでしょうか!?」
「そうですね・・・正直確たる証拠があるわけではありません。ですが、この国の創始者が真倉 博史様と真理様であることは間違いの無い史実です。とはいえもう300年以上も前の事で、会ったことのある者すら居ませんが。」
僕は足元がぐらりとぐらつくような眩暈を覚え、椅子にどさりと座った。
・・・どういうことだ? 父さんと母さんは僕を生む前にここに住んでいて、その後日本へ来たのか・・・?でも、300年以上も前だって・・・?
「・・・伝承ではこの国にいずれ博史様と真理様の子供たちが神の光よりこの国へとやってくるだろうと記されています、そしてその子供たちは大いなる災いと共に現れ、そして福音をもたらす存在となる。その名は・・・力と陽子だ・・・と。」
「名前まで・・・」
「はい。今の伝承のうち前半は子供でも知っている伝記ですが、後半は解釈によっては混乱を呼ぶため一部の有識者以外には明かされていません。」
「・・・ウィル。」
『・・・はい。』
「!?」
僕の体から出てきたウィルに対し、霊体や精神体が見えると思われる人が驚きの表情を見せ、その様子を皆に説明している。
「今の話、真実なのか?」
『・・・確定していない未来の事も語られているため、全てが真実かどうか定かではありませんが概ね正しいかと。』
「僕の両親は僕が生まれる前にこの国に来ていた?」
『・・・いいえ。』
「だとすると、ブラックホールに巻き込まれてこの世界の過去に来ていた・・・?昔光速を超えると過去に戻るという迷信めいた話を聞いたことがあるけど、ブラックホールを超えたことでタイムスリップしたとか?」
『・・・一度拡大し始めたエントロピーは決して元には戻りません。ですが、対称性は常に保たれます。』
「ん・・・?つまりどういうことだ?」
「否定も肯定もされてない・・・ね。でもブラックホールに巻き込まれても光速を超えたりしないよ、つとむ。」
・・・さすが陽子さん、今のでウィルの言わんとしたことが分かったのね・・・。
「僕の生前に来ていないのだとすれば、理由はともあれこの世界の過去に来ていたわけか・・・ということは、父さんと母さんはもう・・・。」
「つとむ・・・。」
口を噤んでしまった僕を見かねて陽子が訊ねた。
「あの・・・私たちをここへと呼んだのは、今の伝承を教えるためだけではないですよね?」
「はい、勿論です。」
本題はここからだった。




