第一話 出会い (挿絵追加)
幼いころ僕は母が神主を務める神社の境内でよく遊んでいた。
神社の境内には参拝者の他に、よく子供たちが遊んでいた。
他の子どもたちは兄弟で遊んでいることが多く、一人っ子の僕は羨ましく見ていた。
ある日親に兄弟が欲しいとねだり、困らせ、泣きじゃくりながらいつも遊んでいる
神社にある狛狐の像の元まで走り、兄弟が欲しいと祈った。
母に昔、この狐は神様の使いだと教えられていたので、神様に祈りを届けてくだろうと考えての事だった。
僕は母に習った祈り方を思い出しながら心を静かに、深く、深く、祈った。
心の奥底のある一点が微かに震えたように感じたその瞬間、目をつぶっていても分かるくらいの眩い光を感じ、目を開けると目の前に明るく光る小さな玉が宙に浮いていた。
光る玉に手を伸ばし、そっと光る玉の中に入れるとそこは暖かく、何か柔らかい感触を受けたのでその暖かい何かを握り手を引くと、大きい動物のような耳とふさふさの尻尾の生えた銀髪赤目の僕と同じくらいの背格好の少女が出てきて僕の上に覆いかぶさってきた。
僕は驚いたけど神様が願いを聞き届けてくれたのだと喜び、半覚醒状態のその子に話し掛けたが、その赤目の子は言葉が分からないようで困った表情をするだけだった。
身元も分からないので僕はその子を連れて帰ると、両親は驚いたが事情を話すと元々何事にも偏見の無い両親は快く受け入れてくれた。
こうして赤目の子は両親の協議の元、陽子と名付けられ(父は満足げだが、母はやや渋い顔をしていた)晴れて僕の義理の妹として真倉家へと迎えられる事となった。
― 14年後 ―
「つとむー、支度終わったー?」
陽子が部屋のノックも無く僕の部屋の扉を開く。
陽子は既によそ行きの恰好で耳と尻尾もきっちり隠している。
陽子は外出時には耳と尻尾を隠している(耳は折りたたんで髪を上から被せて縛り、髪飾りでカモフラージュしている。尻尾は毛を短く切りそろえてサ〇ヤ人のように腰に巻いて服の下に隠している)のだが、家の中では隠さず自然体で過ごしている。
ちなみに日本において異常に目立つ銀髪はアルビノ体質と公言して胡麻化している。
「陽子さんや、家族とはいえプライバシーは大事なのだから、部屋に入るときはノックして頂けないかね?」
「あっ、ゴメンね!」
PC電源も落としているし、別にやましいことはないのだが今後の事も想定して一応注意しておく。
「支度ならほぼ終わってるから、もうすぐ下に行くよ。」
「分かった!それじゃリビングでみんなで待ってるよ!」
そう言うとドタドタと階段を駆け下りていく。
僕、真倉 力と陽子は先日高校を卒業し、陽子は父が在籍する大学の研究室に入るために進学し、僕は勉強よりもオカルt・・・ではなく、神学に興味があったので、母の跡を継ぐために来春より神道修行に入る予定だ。
真倉 力 18歳 ♂
趣味:オカルト、都市伝説全般
真倉 陽子 18歳(仮) ♀
趣味:知的好奇心を満たす事
父、博史の研究分野は理論物理学でブラックホールの情報問題について研究しているのだが、正直理論物理学は頭のおかしな人間の学問だと思っている。
真倉 博史 48歳 ♂
いや、僕も理系はそれなりに強いし研究内容も興味深いとは思っていて一時期その道も考えて勉強をしたこともあるのだけど、深く入れば入るほど数字ばかりの、それも複雑怪奇なパズルのような計算ばかりになってきて、ここから一体何が分かるのか??父の講釈も段々理解できなくなってきて諦めたのだ。
とはいえ、中学の頃は世の中の謎はほぼ解明され、未知の探求など残されていないと考えていた僕にとって父の研究分野は衝撃を受けるのに十分で、相対性理論からブラックホールの謎や量子論をかじると、段々オカルトやスピリチュアルな世界、宗教にも学術的な意味や深淵な謎があるのではないかと興味が増してきたのだ。
そんな中にあって、母が神主をしている環境の僕が神道へと進むのは必然であったように思う、うん。
ちなみに母、真理は神主で神に仕える神人であるのだが、宗教全般に詳しく、自らより効率よく解脱するための修行方法を開発している僕からすればかなりマニアックな人だ。
真倉 真理 45歳♀
とはいえそんな人だからこそ、マニアックな研究をしている父と息が合ったのだと思う。
一方、陽子の方は好奇心旺盛でどんな事にも手を出し、勉強や運動は勿論、家事や趣味も何でもござれ状態で、父の研究に興味を持ったのも自分が何者でどこから来たのか、何故陽子が僕と出会ったのかの必然性についてのヒントがあると考えての事のようだ。
(ちなみに神学にも興味があり時々僕と一緒に修行の真似事をしたり、母の手伝いで巫女のボランティアをしたりしているのだが、その時の巫女服姿が物凄く可愛いのだ・・・!)
「さて、支度も出来たし行きますか!」
リビングへ行くと父が興奮した面持ちで何やら力説している・・・。
「今回の研究は、世界各国から遅れていた日本が遂に世界の表舞台に返り咲く重要なものなのだ!この研究が成功すれば、ノーベル賞は元よりこの世界の謎の解明、更には無限の記憶容量が手に入るのかも知れないのだ!」
「ほんと、よくこんなプロジェクトに資金が集まったものね、物凄い額が必要なんでしょう?」
と、母が問い返す。
「ふっふっふっ。今回のプロジェクトはこれまでの産業的に役に立ち辛いただの真理の究明だけではなく、未知の技術の入手、無限の記憶容量によるストレージのコスト削減及び拡大の可能性、更には採掘によるレアアースの大量入手など、直接カネに結びつくようなネタが盛り沢山!世界中の大企業も続々スポンサーについて資金は潤沢にあるのだよ!」
何の話をしているのか?
父は今、巨大陽子衝突型加速器による超微小ブラックホール生成の研究を計画しており、そこからブラックホールの謎を究明しようとしているのだ。
この研究分野はスイスにあるCERNのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を始め、中国も複数機導入し(※実際はまだ計画中)様々な功績を残しているのだが、日本においては資金の問題と土地の問題でこれまで大規模なものが出来ないでいた。(※実際には日本ではILCという衝突器の建造が東北の山地で計画中)
資金は先ほど父が説明していた通り目処は立ったのだが、超微小とはいえ積極的にブラックホールを生成するとなると、近隣住民の反発は勿論、国の認可も降りないため、日本最東端にある孤島、南鳥島の地下に建造したらしい。
南鳥島は住民がおらず、自衛隊や気象庁の職員が各10名前後、そして先行実験を行っている研究所の職員数名しか駐在していない島だが、それでも自衛隊の空港があるため船便しかない他の離島よりも交通の便は割と良い。
今回この研究所が完成し、開所祝いに家族帯同で見学出来るということで、丁度卒業から新生活の合間の時期になるため家族4人で行く事にしたのだ。
尚、今回の見学会は施設の見学も興味は勿論あるのだが、3月とはいえ平均気温約26度の温暖な南の島!人のほとんど居ない貸切状態のプライベートビーチ!これには僕よりも陽子が喜んでいた。
陽子は耳と尻尾を隠して普段生活しているので、学校のプールは理由をつけていつも見学。海水浴も勿論行ったことがないので今回生まれて初めて人目を気にせず思いっきり泳げるのだ。それだけに今回の旅行?には並々ならぬ気合が入っている。
こうして僕たち家族は南鳥島へとと飛び立つのであった。