真っ逆さまの少女
夜、無数のビルと無数の光が
真っ逆さまに落ちていった。
足がふわりと浮かんで、
とても気持ちよかった。
何もかもから 解放されたような
すべての苦しみから 解放されたような
月がとても、キレイだった。
光り輝いた看板、
洋服の飾られたウインドウ、
うごめく たくさんの人たち、
今まで当たり前にあって、
つまらなく見ていたどうでもいいものたちが、
すごく すごく愛しいものに見えた。
本当はきっと
色んなことが 当たり前じゃなかった。
涙が出てきた。
どうして 最期にだけ 美しく見えるのか。
どうして 普段から 美しく見えなかったのか。
何もかも 通り過ぎてから 気がついてしまう。
大嫌いだった 人混みも、
こう見ると 悪いものではなかった。
ぜんぶ ぜんぶ 真っ逆さまに落ちていくけど、
ぜんぶ ぜんぶと サヨナラだけど、
ようやく 最期になって
愛を知った 気がした。
月がとてもキレイで、
美しくて、でも もう 落ちていった。
すべてが消えて、もう何も見えない。
逆さまに なる前に
気づきたかった 月の綺麗さも
都会のビルの美しさも 人々の 愛しさも
光も 闇も ぜんぶ もう見えない。
真っ逆さまに 墜ちた人生
割れたガラスみたいに パリンと砕けた。