第八十九話:潜入準備
ひとまず下見をしてみたけど、まあ、それなりに厳重な警備だったのかなと思う。
貴族は国が持っている騎士や兵士とは別に、自分で自由に動かせる私兵を持っているから、彼らに家を守らせていることが多いらしい。
まあ、見た目には普通の人に見えるから、もしかしたら冒険者とかに頼んでいる可能性もあるけど、爵位の高い貴族なら多分お抱えだろう。
で、そんな私兵が確認できただけで大体六人ほどいた。
玄関に二人、庭に三人、窓から見えた内部に一人。
内部はほんとにちらっと見えただけだったからもしかしたらもっといるかもしれないけど、多くても多分五人とかだろう。あんまり多くても鬱陶しいだろうしね。
彼らが夜も守っているのかどうかはわからないけど、仮に守っているとして入る経路としては、窓だろうか。
鍵がかかっているかもしれないけど、この世界の鍵ならそこまで厳重なものではないだろうし、静かにこじ開ける方法はいくつか思いつく。
後は書類がどこにあるかだけど、多分書斎か何かじゃないかね。窓からは見えなかったからどこにあるかはわからないけど、多分そう言う部屋があると思う。
結局、入ってから虱潰しに探すしかないっていうね。面倒くさい。
でも、城でも同じことをやる可能性は高いし、ここで慣れておくのもいいだろう。
「せっかくだし、何かそれらしいスキルでも取っておくの?」
俺は『レベルアップ処理』の画面を開く。
なんだかんだで、アルマさんのレベル上げをしていた結果、経験値はそれなりに溜まってきた。
これなら、【セージ】で【ホムンクルスクリエイト】を覚えつつ、別のスキルを覚えることもできるだろう。
隠密に特化したクラスもあることだし、少し確認してみるのもいいかもしれない。
「できれば欲しいのは、家の構造を確認できるスキルなの」
いくら夜に忍び込むとしても、流石に扉を開けまくっていれば気づかれる可能性が上がる。
できることなら、目的の部屋まで一直線に進みたい。そのためには、扉に入る前に中の状況が把握できればベストである。
ただ、『スターダストファンタジー』において、マップはあまり意味をなさない。
いや、意味がある時もあるけど、そう言うのはゲームマスター側が用意するものであって、何かスキルを使って把握するというものではないのだ。
なので、わざわざスキルでマップを把握する、みたいなスキルはないような気がする。あるとしたら、扉越しに中の音を探るとかかな。
「関係あるとしたら……【ノウリッジ】系のスキルなの?」
ノウリッジ、すなわち知識スキルである。
戦闘ではあまり役に立たないが、情報収集などをする場合、それらの知識が役に立つこともある。
例えば、貴族関係なら【ノーブルノウリッジ】、魔法関係なら【マジックノウリッジ】みたいなね。
今回の場合、相手は貴族なのだから【ノーブルノウリッジ】が役に立つ可能性がある。
ただ、問題があるとすれば、こういう知識系のスキルがどういう風に作用するかだ。
一応、アリスは熟練冒険者という設定があるので、いくつかの【ノウリッジ】系スキルを持っている。実際、思い浮かべればそれに関する知識は浮かんでくるので、きちんと作用しているんだろう。
ただ、【ノーブルノウリッジ】は貴族関係の知識を持っているというスキル。
果たして、これがこの世界の、それもピンポイントで盗みに入ろうとしている貴族の情報を知っていることになるかどうかは疑問だ。
『スターダストファンタジー』においては、例えば情報収集判定で貴族の情報が出た時に、判定に成功すればその貴族についてあらかじめ知っている、という風にできる。
それと同じように、俺がこの知識を得て『思い出す』ことができれば、知っているという扱いになるんだろうか?
でも、それだったらそもそもスキルは必要ない。【ノウリッジ】系のスキルは、特定の場面でそれに関する判定にプラス補正をするというスキルであって、判定自体はスキルがなくても振れるから。
それにそもそも、この世界に判定という概念があるかどうかも怪しい。
今のところ、判定に成功して事がうまく行った、という風に感じたことはない。
まあ、もしかしたら目に見えないだけで、裏では判定が行われているのかもしれないけど、だとしても今のところ自分から判定を振ったという感覚はない。
どちらかというと、スキルはフレーバーテキストの方が重要視されているようだし、あんまり関係ない気がしないでもない。
「正直、【ノウリッジ】系のスキル取るくらいなら別のスキルを取った方が有意義なの……」
これを取ることによって任務の成功率が上がるというなら取るべきだろうが、【ノウリッジ】系のスキルってホントにただのフレーバーなのだ。
それに関する知識を持っている方がそれっぽいからという理由以外で取ることはあまりない。そもそも、戦闘が主体のTRPGだから、そんなもの取っていくくらいなら少しでも戦闘系のスキルを取った方が有意義である。ただでさえ最初は取りたいスキルが多すぎて悩むしね。
ただ、他に取りたいスキルがあるかと言われたら、そこまでない気がする。
一応、ルナサさんのために【ホムンクルスクリエイト】を覚えるという目標はあるが、それ以外だったらせいぜい風呂をどこでも作れるように魔法を覚えたいってくらいだ。
それらを取った後だったら、他に欲しいスキルは特にない。戦闘系のスキルはほぼ完成状態に近いし、今の時点でも過剰火力なんだからあまり取る必要は感じられない。
であれば、知識系のスキルを取っていくのもありなのかな?
「うーん、悩むの」
今まではその場で必要なスキルを取ってきたけど、今回はそれに対応するスキルがあまりない。だったら、少しくらい遊んでもいいのではないかと思わなくもない。
いやまあ、家の構造を把握するのが難しいだけで、例えば【ニンジャ】のクラスになれば、壁を走ったり壁と同化して隠れたりかなり有利にはなりそうだけど、そっちを取るべきかな?
取りたいスキルが何でも取れるっていうのは嬉しいけど、ありすぎて悩むのは考え物かもしれない。
この他だって、NPCスキルやこの世界限定のスキルだってあるわけだし。
「とりあえず、【ホムンクルスクリエイト】は取るとして……」
なんにしても、いつまでもこうしているわけにはいかないし、確定していることくらいはやっておく。
前提スキルをいくつか取ってから、【ホムンクルスクリエイト】を取得。これで、後は材料さえ揃えばルナサさんに体を与えることができるだろう。
で、こっからだ。
「仮にお風呂を作るとして、必要になるのは何のスキルなの?」
魔法で作ればいいと思ったけど、そもそもそんなスキルあっただろうか。
なんか、イメージ的には岩を加工して湯舟を作り、水を入れて、火を使ってそれを温める、みたいな感じだったけど、まず岩を加工するというのが無理な気がする。
だって、『スターダストファンタジー』における土魔法って、攻撃に使うものだもん。【ストーンバレット】とかはあるけど、加工して特定に形にするなんてスキルなかった気がする。
他は加減すれば行けるかもしれないけど、これができなければ風呂を作るなんて無理な話だ。
「……これは難問なの」
多分、こんなこと考えている場合じゃないのかもしれないけど、お風呂は俺にとっても結構重要な問題である。
しかし、しばらく考えてみても、湯船を作り出す方法は思いつかず、結局取ることはなかった。
感想ありがとうございます。
 




