表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/677

第八十六話:アルマの家

 三日後、俺達はようやく王都へと辿り着いた。

 王都というだけあって、かなり大きな町のようだ。

 門には長い行列ができていて、入るには結構時間がかかるかとも思ったが、貴族は別に入口があるらしく、特に待つこともなく町に入ることができた。

 さて、ここにシリウスを攫った王様がいるはずだが、果たして。


「なんだか、町の人達がざわついているように見えるの」


「やっぱり、シリウスのニュースは気になるのかしら」


 活気がある町だからそう見えているのかもしれないけど、そこかしこから話声が聞こえてくる。

 内容を聞いてみる限り、やはりシリウスの話題が多いようだ。

 シリウスが宮廷治癒術師となって喜んでいるのかと思いきや、それ以外の意見もちらほらある。

 というのも、今回の爆発事故の件、やはりデマだったようだ。

 そもそもの話、爆発事故が起こるような設備は王都にはない。あるとしたら、魔術師が魔法を暴発させてというくらいだ。

 ただ、その程度だったら怪我人が出たとしてもそれはその魔術師かその周りにいた一部の人だけだろうし、わざわざ遠くの町から治癒術師や医者を呼び寄せる必要はない。

 一応、国側は噂を信じ込ませるために芝居を打っていたようだけど、それを見ても大抵の人はシリウスのための芝居なんだなと理解していた様子だった。

 なので、無理矢理連れてこられてシリウスも可哀そうにと思っている人が結構いるようである。

 ただ、それでも優秀な治癒術師が加わることは国にとってプラスだし、王都はもしかしたらその恩恵にあずかれる可能性もあるので、シリウスが宮廷治癒術師になること自体は肯定している様子である。

 過激な人では、手間をかけさせやがってと憤っている人もいるようだから、シリウスが宮廷治癒術師になるのは必然と思っている人もいるようだ。

 なんというか、完全にシリウスが悪いと思われているわけではなさそうで少し安心する。

 でも、そこはやはり実力至上主義の国の王都。強い人は相応の地位を与えられる代わりに役目を果たさなければならないという考えが強いようで、シリウスがなぜ宮廷治癒術師の話を断ったのかわからないと思っている人も多いようだ。

 お国柄と言えばそうなのかもしれないけど、それを明らかに別の国の人に押し付けないでほしいものだ。


「ひとまず、私の家に行きましょ。アリスのことも紹介したいしね」


「わかったの」


 一時的とはいえ、隠れ家の場所だ。把握しておくのは大事である。

 まだ時刻は昼前だし、仮に今日忍び込むとしてもまだ早い。

 俺はアルマさんに案内されるがまま、アルマさんの自宅へと向かった。


 王都には貴族が多く住んでいるようだが、流石にそれだけでは町は成り立たない。しかし、平民と一緒に暮らしたのでは不満が出るとのことで、貴族と平民は住む区画が違うようだ。

 まあ、そりゃそうだよね。王都の平民達は少し肩身が狭そうだ。

 そう言うわけで、貴族街へとやってきた。

 町の印象として、門から入ったタイミングからそれなりに綺麗な町だなと思ってはいたが、貴族街はさらに清掃が行き届いているようで、さらに綺麗な印象を受ける。

 家も立派なものが多く、それぞれが競い合うように大きな家を建てたのかなって感じがする。

 張り合う場所が違う気もするけど、まあ、貴族は見栄を張りたがるものだし、仕方ないことなのかもしれないね。

 そんな立派な家が立ち並ぶ貴族街を進むこと数分、ようやく馬車が止まった。

 そこにあったのはそこそこの大きさの家だった。

 いや、そこそこと言っても普通の家と比べれば豪邸レベルだけど、ここ貴族街の家々と比べるとちょっと大きいかなという程度である。

 城以外だと、ここまで大きな家は初めてかな? シュテファンさんの家もここまで大きくはなかった気がする。


「みんな、帰ったわよ!」


「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」


 玄関を抜けると、広いエントランスに数人のメイドが待ち構えていた。

 いつ先触れを出したのか知らないが、アルマさんが帰ってくることはあらかじめわかっていた様子である。

 俺はアルマさんに手を引かれつつ、その中を通っていく。ちらりとメイドさんの表情を見てみたが、微動だにしていない。

 きちんと訓練されているようで凄い。俺だったら「誰だあれ」って絶対顔に出るだろうな。


「お帰りなさい、アルマ。長旅お疲れ様」


「お帰り、アルマ。そちらの子は誰だい?」


 メイドさんが先にある扉を開けると、そこから二人の男女がやってくる。

 女性の方は柔和な笑みを浮かべる優しそうな人だ。男性の方は、少し筋肉質の腕が特徴的で、かなり背も高い。

 恐らく、アルマさんの両親かな? 俺は居住まいを正した。


「ただいま、お父様、お母様。紹介するわね。こちらはアリス。旅の途中で魔物に襲われていたところを助けてもらったの」


「どうも、アリスなの」


「へぇ、そんなに小さいのに凄いな」


 お父さんの方は俺の方を値踏みするようにじろじろと見てくる。

 その様子に、思わず顔を赤らめてしまった。

 ……うん、アリスのイケメンセンサーに引っかかったらしい。

 いや、奥さんがいるんだから色目を使うことはないけどさ、こう、ただ見られているだけなのに心臓がバクバクしてくるのはどうにかしてほしい。

 恥ずかしいからそんなに見つめないで……。


「魔物に襲われるなんて不運だったわね。ダグラズとエイドは大丈夫だった?」


「危なかったけど、アリスが治してくれたわ。アリスは【治癒魔法】が使えるの」


「あら、シリウスと一緒ね。もしかして、あなたも瞬時に傷が癒せたりするのかしら?」


「えっと、そ、それなりには……」


「あらあら。素敵な人と知り合ったわね、アルマ」


 あんまり傷を瞬時に治せることは言わないほうがいいのかもしれないけど、お母さんの圧に負けてしまった。

 なんか、目が怖い。笑っているはずなのに、心の中を覗かれているようなそんな感覚がする。

 見た目はただの優しそうなお姉さんって感じだけど、侮れないかもしれない。


「危ないところを助けていただいたようだね。アリスと言ったかな? 娘を助けてくれてありがとう」


「い、いえ、なりゆきだったからなの」


「それでも、見捨てずに助けてくれただけでもありがたいことだ。これは何かお礼をしないといけないね」


 何がいいか、と口元に手を当てながら考え込む仕草をするお父さん。

 これは結構好意的に見られているということでいいのだろうか。

 貴族って基本的に傲慢な人が多いイメージだから、こういう人がいるのは新鮮だな。


「それならちょうどいいわ。お父様、アリスに力を貸してくれないかしら」


「どういうことだい?」


「実はね……」


 アルマさんは俺がシリウスを助け出そうとしていることを伝える。

 助け出すというか、盗み出すと言った方がいいかな?

 国にとってはシリウスを失うことは凄い損失になりそうだけど、俺にはそんなこと知ったこっちゃない。でも、仮にもこの国の貴族であるアルマさんのお父さんはそうはいかないかもしれない。

 果たして本当に協力してくれるだろうか。俺は心配しながら成り行きを見守った。

 感想ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 色目は使ってないけど顔赤らめてたからちょっとにらまれたのかな?
[気になる点]  これまで30代既婚青年領主(シュテファン)にトキメキ若い王子(エミリオ)にはときめかなかった、そして今回アルマパパがド•ストライク!( ̄∀ ̄)ははーん、ここから導かれるアリスの好みは…
[一言] アリスちゃんのセンサーが反応する相手って結婚している率が高いですね お礼は可愛い服でお願いします!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ