第八十四話:王都を間近に
シリウスの足跡を追って王都へと向かっているが、そこからシリウスの情報はあまり手に入らなくなっていった。
商人の馬車に乗せてもらったという話だが、その商人は寄り道もせずにまっすぐ王都に向かっているということだろうか。だとしても、宿に泊まることもなく、補給をすることもなく進み続けるのは無理があると思うんだけど。
まあ、せいぜい一週間程度だから、シリウスの【収納】を使えば荷物の問題は何とかなりそうだけど、あまりに情報がないので不安になってくる。
無事だといいのだけど……。
「あと三日か四日すれば王都に着くと思うけど、全然シリウスの話を聞かないわね」
「あえて隠れて移動してるのかもしれないの」
シリウスを乗せたという商人が何も知らずに乗せたというのであれば、情報は少なからず出てくることだろう。しかし、シリウスのことを知りながら乗せたというのであれば、慎重に行動するのも頷ける。
なにせ、シリウスは現在賞金首なのだ。その事実は国中に広まっており、今やシリウスの隠れる場所はほとんどない。
そんないろんな意味で有名人なシリウスを商人が金目当てに連れていると知れたら、よからぬことを考える輩も出てくることだろう。
商人が賢かったのか、シリウスが助言したのかはわからないが、意図的に隠れるように進んでいると考えるのが自然だ。
「となると、すでに王都に着いてる可能性もあるってこと?」
「もしかしたらあるかもしれないの」
慎重に進んでいるというのがどの程度かはわからないけど、日数の差を考えても、多少遅れ気味で進んだとしても王都に着いている可能性は高い。
問題は、王都に着いたとして、シリウスがどうなっているかだ。
王都で爆発事故があり、それによって多くの怪我人が出ているという話を信じるなら、それを治療しているのかもしれない。
ただ、それは十中八九国の罠だ。実際には、爆発事故など起きてないだろう。
だが、事故があろうがなかろうが、どっちにしろシリウスは国に捕らわれているかもしれない。
できることなら、国に捕まる前に取り戻したかったところだけど、流石にこの速度では無理だろう。
アルマさんを見捨てていればもしかしたら間に合ったかもしれないけど、あの時はそんなこと考えられなかったし、その後もなんだかんだ心配でついてきてしまったのは仕方がないことだ。
となると、考えるべきは、どうやって国からシリウスを取り戻すかということだな。
「アルマ様、国がシリウスを捕らえているとしたら、どこにいると思うの?」
「え? そりゃあ、城だと思うけど……まさか乗り込む気なの?」
「当然なの。シリウスは私の大切な仲間なの」
「それは、かなり難しいと思うけど……」
実力至上主義のこの国は、結構好戦的らしい。
以前は俺が以前いたクリング王国とも戦争していたらしく、その影響は今でも少し残っているようだ。
そんな国だからか、軍事には結構力を入れているようで、城も強固な造りになっているらしい。
一般人が入るには許可証が必要で、それには貴族などのコネが必要不可欠。たまに重要な話がある時には庭までは入れることもあるようだけど、よほどのことがなければそのようなことは起こらないらしい。
入り込むだけでもほぼ不可能だし、仮に入り込めたとしても、シリウスの能力は王様が高く買っている。ほぼ確実に、護衛というか監視がいることだろう。
それらをかいくぐってシリウスを連れ出せる可能性は、限りなく零に近いとのことだった。
「それに、うまく連れ出せたとしても、ばれたら追われることになるわよ? シリウスの顔は国中に知れ渡っているだろうし、国境を抜けるのは至難の業だわ」
「まあ、国境を抜けるのは考えがあるから大丈夫なの。問題は、シリウスの状態なの」
ただ単に軟禁されているだけだったら、普通に連れ出せばいいだけだ。
俺の姿はアリスとなってしまっているが、それはシリウスも同じことだし、顔を見ればすぐに俺だと察してくれるはずである。
であれば、夜にでも忍び込んで、闇夜に紛れて移動することは可能だろう。
問題は、シリウスが拘束されている場合だ。
シリウスは一度国の申し出を断り、逃亡している。であれば、二度と逃げられないように何かしらの策を講じている可能性はある。
例えば、地下牢に閉じ込めているとか、鎖に繋いでいるとか、あるいは洗脳されているとかね。
閉じ込められているだけだったら助け出すのはそう難しくなさそうだけど、洗脳とかされていたとしたらかなりやばいことである。
助け出せたとしても、元のシリウスでないなら意味がない。その場合は、どうにかして洗脳を解除する方法を探さないだね。
「シリウスの【治癒魔法】はこの国の誰よりも素晴らしいものだわ。だから、そこまで手荒な真似はされないと思うのだけど……でも心配よね」
「陛下は以前と違って現在は戦争推進派です。瞬時に傷を癒せる【治癒魔法】など手に入ったら、間違いなく利用しようとすることでしょう。言うことを聞かせるためなら、多少手荒な真似をすることもあるかもしれません」
「大抵の傷ならシリウスが自分で治せると思うけど……」
でも、いくら怪我を治せたとしても、怪我をすれば痛いのは当たり前だ。
例えばだけど、拷問でも受けたなら、シリウスは早々に音を上げてしまうと思う。
なにせ、元がただの高校生なのだから、拷問なんて耐えられるはずもない。体の傷を治せたとしても、心の傷は治せないのだから。
「とにかく、私も協力するわ。何かできることがあったら言ってちょうだい」
「僭越ながら、私もお力添えさせていただきます」
「ありがとうなの、アルマ様、ジョンさん」
まあ、実際は俺が一人でやることになりそうだけどね。
でも、アルマさんもこの一週間くらいで結構強くなった。
急ぐために魔物が多く出現してあまり使われていない道を通ったりした結果、魔物と戦う機会がそれなりにあったというのがでかい。
おかげでアルマさんのレベルはさらに二つ上がり、レベル7となった。
レベルアップで覚えさせたのは【エンジェルボイス】、【超魔力】、【連続魔】、そして【危機察知】の四つ。
【エンジェルボイス】は回復系のスキルの効果にプラス補正を加えるスキル。フレーバーとしては、天使のような声で癒しの力を上げるということだけど、そのせいかアルマさんの声はかなり綺麗に聞こえるようになった。
気のせいかもしれないけど、上げてないはずの魅力が上がったようにも見える。
やっぱり声がいいと魅力も上がるってことなのかな。
まあ、それは置いておいて。
【超魔力】は生まれながらに強力な魔力を持っていて、それにより魔法の威力を上げるというスキル。
本来は攻撃系の魔法スキルのダメージ量を上げるだけのスキルだが、強力な魔力というのが質のいい魔力という意味にもなっているのか、なぜか【治癒魔法】にも効果が乗っているようである。
おかげで【治癒魔法】の効果も上がり、【ヒールライト】と遜色ないくらいの回復力を見せている。
で、それをさらに後押ししているのが【連続魔】だ。
【連続魔】は、一ラウンドに魔法を二つまで使用できるというスキルだが、フレーバーテキスト的には高速で詠唱することによって複数の魔法を同時に展開できる、というものだった。
そのおかげで、【治癒魔法】の重ねがけが可能になり、さらに回復速度が上がっている。
多分、今ならシリウスと同じくらい優秀な【アコライト】になっていることだろう。
で、最後に【危機察知】だが、これはそのシーンに敵が隠れている場合、それを察知できる。あるいは、不意打ちに気づき先制できるというものである。要は、自分を攻撃しようとしているものを見分ける力が身に着くということで、今後必要になるだろうと思って入れたものだ。
今のアルマさんは明らかにこの世界の人と比べたらオーバースペックである。
シリウスが国から追われるようになったように、今後アルマさんが狙われる可能性もあるだろう。
そんな時、身を守る術の一つや二つ持っていないと安心できない。
攻撃スキルは【水魔法】や【火魔法】があることだし、だったら悪意を探知できた方が便利かなということで、このスキルを入れた。
どこまで効果があるかはわからないけど、これでどうにかしてほしいと思う。
ほんとはもっとレベルを上げてスキルを増やしたいけど、流石に王都も迫ってきたこの地域では魔物が多い場所も少なくなってきた。なので、経験値稼ぎができない。
恐らく、俺がレベル上げしてあげられるのはここまでだろう。後は、アルマさんの努力次第かな。
アルマさんも心配ではあるけど、そろそろシリウスのことを本格的に考えなければならない。
俺はシリウスが無事であれと祈った。
感想ありがとうございます。
 




