表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/677

第八十三話:シリウスの情報

「で、できたわ……」


「お嬢様、立派でしたぞ!」


「凄いの。まさか初めから治せるとは思ってなかったの」


 アルマさんは安心したように椅子にもたれかかる。

 疲れてはいる様子だが、荒い呼吸はすぐに収まって、俺の腕をまじまじと見つめていた。

 【無限の魔力】はやりすぎだっただろうか。【治癒魔法】は一度掛けるだけでも結構な量の魔力を消費するらしいけど、そのデメリットがなくなるのだから相当有利になったことだろう。

 キャラシを見てみれば、【治癒魔法】のレベルが2に上がっていたし、それだけの回数を行っていたってことになる。

 これは、日々【治癒魔法】の練習を続けていれば、あっという間に熟練レベルになれそうだね。


「私、ほんとに【治癒魔法】を習得できたのね……」


「そうなの。誇っていいの」


「全部アリスのおかげでしょ? しかも、何度もかけたのに魔力が減った感じがしないし、【無限の魔力】っていうのが悪さしてるんじゃない?」


「まあ、それはそうだけど」


「これはお礼を言わないといけないわね」


 アルマさんは居住まいを正して、俺に対して深々と頭を下げてきた。


「アリス、私に【治癒魔法】を教えてくれてありがとう。これで、シリウスに一歩近づけた気がするわ」


「まあ、約束したし、これくらいはしないと心苦しいの」


「これくらいってレベルじゃないと思うけどね。何よ、【無限の魔力】って、そんなの賢者様だって持ってないわ」


 当然ながら、この世界に【無限の魔力】なんてスキルはないらしい。

 魔力は人によって決まっていて、総量を増やすためには日々訓練を欠かさず、魔法を使い続けている必要があるらしい。

 他にも、魔石を用いて魔力を補う方法もあるらしいが、魔石もただではないのでそれを使って魔力を補う方法は、魔法の研究をしている研究職や、変わり種の魔術師くらいのものだそうだ。

 そんな苦労を一息に吹き飛ばすこのスキルは、魔法を使う者なら誰でも喉から手が出るほど欲しいスキルだろうとのこと。


「こんなスキルを知っていて、しかもそれを他人に覚えさせることができるなんて、アリスはいったい何者なのかしらね」


「わ、私はただのアリスなの」


「まあ、深くは聞かないわ。こうして教えてくれただけでも十分よ」


 アルマさんとて、俺が普通の人じゃないことには気づいただろう。

 スキルを教えるというのは簡単じゃない。教えるためにはそのスキルについての知識が必要不可欠であり、且つ教えられる相手もそれを理解しないといけない。

 以前、マリクスの兵士達に【弓術】を教えた時はそれなりに早い段階で覚えてくれたように思えるけど、あれはみんなが俺の教えに肯定的で、ちゃんと訓練してくれたからだ。

 アルマさんは覚えたくなかったわけではないだろうが、幼い頃に覚えられなかったことから覚えられるとは思っていなかっただろう。だから、普通に教えたところで覚える可能性は低かった。

 それを、レベルアップ時のスキル取得によって強引にクリアした結果、唐突に無理難題を押しのけて覚えた風になったのである。

 一応、スキル石と呼ばれる、スキルを内包した石を使うことによって瞬時に覚えられることもあるようだが、スキル石は基本的に貴重なもので、ただの冒険者が持ち歩けるようなものじゃない。

 そもそも、使った素振りすらなかったのだ、使わずに覚えさせたと考える方が自然である。

 しかも、追加で【無限の魔力】なんていうとんでもスキルまで添えて。

 ここまでくれば、俺が普通の冒険者でないことくらいは予想がつくだろう。

 本来なら、根掘り葉掘り聞きだしてきてもおかしくないところである。でも、アルマさんはそれをしなかった。

 それは恐らく、俺に恩義を感じたからだろう。聞かれたらまずいと理解しているのだ。

 その配慮はとてもありがたい。俺としても、レベルアップのことを話すわけにはいかないし、それ以外にしたって、どこでこんなスキルを覚えたのかと言われても答えられない。

 聞かないでいてくれるなら、それに越したことはない。


「このまま練習を続ければ、私もシリウスみたいになれるかしら?」


「できるかもしれないの。努力を続けていればきっと」


 ただの【治癒魔法】だったなら、たとえレベル10になったとしても【ヒールライト】の瞬時回復には及ばないだろうが、アルマさんには【無限の魔力】がある。

 これを使えば、何度も【治癒魔法】をかけることによって疑似的に素早く治すことはできるだろうし、十分シリウスに追いつくことができるだろう。

 他の魔法にしたって、訓練を続けていれば上がっていくだろうし、アルマさんが大人になる頃にはそこら辺の冒険者くらいなら相手にならないくらい強くなっているんじゃないだろうか。


「ふふ、それじゃあ頑張らないとね」


「王都に着くまでは私も協力するの。だから頑張るの」


「ええ、お願いね、アリス」


 それにしても、【無限の魔力】を取るなら精神力に振る必要はなかっただろうか。

 まあ、一応精神力にはMPの量以外にも精神異常系の状態異常への耐性を上げるとかそういう役割もあるけど、それはおまけでしかない。

 そもそも、この世界にそう言う洗脳系のものがあるかわからないし、出番はそうそうない気がするしね。

 あ、でも、もしかしたら【無限の魔力】が失われる可能性もあるし、きちんと上げておくに越したことはないのかな?

 スキルが失われるなんてギミック聞いたことがないけど、何しろ世界が違うのだからもしかしたらあるかもしれない。

 そう考えると、俺もその対策をしておいた方がいいかもしれないな。そんな対策できるスキルがあるかはわからないけど。


「それにしても、シリウスは大丈夫かしら」


「お嬢様、それに関してですが、少し小耳にはさんだことがございます」


 アルマさんがシリウスの話題を出すと、ジョンさんがそんなことを言ってきた。

 元々、アルマさん達がこうして旅に出ていたのは、シリウスと出会うためだった。

 国に追われる立場となったシリウスがどこに逃げるかを考え、亡命するために辺境へと逃げ込んでいるのではないかと考え、こうして追ってきたらしいので、結構勘は鋭い方なのかもしれない。

 それで、肝心のシリウスのことだが、ジョンさんは俺達が魔物退治に行っている間、色々と話を聞きに回っていったようだ。

 そして、その中に一つ、シリウスに関する情報があったとのことである。


「どうやら、シリウス様はあの町にも寄られたようです。急いでいたらしく、どうやら馬車を探していた様子だったようです」


「馬車を探してたってことは、馬車宿に行ったの?」


「はい。ですが、お金を持っていなかったようで、門前払いされたようですね」


「急いでいたのは、やっぱり王都の件で?」


「恐らくは」


 シリウスはどうやらこの町まで徒歩でやってきたらしい。しかし、そのままではいつまで経っても王都に辿り着けないと踏んで、馬車を探したようだ。

 それなりに大きな町ならば、馬車宿と言って馬車を借りられる場所がある。ただ、当然ながら借りるにはお金が必要で、シリウスはその料金を払えなかったようだ。

 馬車の代金はそれなりに高額だから、逃亡中の身であるシリウスでは借りるのは難しいだろうな。


「その後はどうなったの?」


「馬車宿は断ったようですが、ちょうど近くにいた商人が連れて行ってやると名乗り出たようで、その馬車に乗って町を発ったようです」


 そうなると、きちんと足は手に入れたのか。これは、もう王都に着いていてもおかしくなさそうな雰囲気である。

 それにしても、よくその商人はシリウスを乗せたものだ。シリウスには懸賞金がかかっているから、下手をしたら横取りしに来た奴らに襲われる可能性もあるのに。

 単に賞金に目がくらんだのか、それともシリウスのことを知らなかったのか、どちらにしても、シリウスの足取りを掴めたのはよかったか。

 王都に着いていたとして、シリウスがどうなっているかはわからないけど、とにかく今は無事を祈ることしかできない。

 俺は胸に手を当てながらシリウスがいるであろう王都の方を見つめていた。

 感想ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] HP自動回復で治っただけなのでは……… ま、まぁ練習にはなるしイメージを掴むのは大事だよね
[良い点]  ジョンさんから有益な情報ゲット! [気になる点]  シリウスを王都まで相乗りさせてくれた商人(´Д` )悪人とかじゃないといいんだけどなー、もしかしてヘスティア王国の御用商人とか裏で王国…
[一言] 無事だと良いけどねぇ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ