第八十話:【治癒魔法】を取得
バーンズさんはぶっきらぼうではあるが、一応町まで護衛してくれた。
まあ、俺がいるし、何なら本職の護衛が二人もいるんだから完全に過剰戦力ではあるけど、無事に帰ってこれたんだから良しとしよう。
「もう無茶な真似すんじゃねぇぞ」って言い残し、ギルドの中へ消えていったけど、まあもう会うことはないだろう。
町長の屋敷へと戻り、まずはお風呂に入れてもらった。
外に出ていて少し汗もかいていたし、最近また入っていなかったので素直に嬉しい。
ただ、アルマさんが一緒に入ろうとか言ってくるもんだからそれを断るのに結構苦労した。
まあ、別に女性の裸を見たところで今の俺はそこまで興奮もしないんだろうけど、それでも男の俺の感情が全くないわけではない。むしろ、そっちがメインなんだから、あんまり見てはいけないものだと思ってしまう。
お風呂くらい一人でゆっくり入らせてほしいものだ。
でも、そうやって断る場面を町長の屋敷のメイドさんに目撃されてしまって、何か怒られてしまった。
俺は今はアルマさんの従者なわけで、従者としてアルマさんの身の回りのことを世話するのは当然のことということになっているらしい。
そしてそれは、お風呂の世話も当然含まれるわけで、主人をほったらかしにして自分だけ一人で入ろうとするとは何事かとお叱りを受けてしまったわけである。
いや、まあ、言いたいことはわかるけど、似た立場であるメイドからそんなことを言われるとは思わなかったので思わず目が点になってしまった。
あの人は真面目なんだろうね。だから、不真面目な従者を見て許せなかったんだろう。
その時はアルマさんが諭してくれたが、それ以降俺はそのメイドさんに目を付けられるようになってしまった。
もの凄く面倒くさい。
「ささ、料理人が腕によりをかけて作りました。どうぞお召し上がりください」
ひと悶着あったお風呂の後は晩御飯だ。
多分、町長も貴族だと思うんだけど、アルマさんにこれだけへりくだってるってことは爵位が下なのかな? 町長ってどれくらい偉いんだろう、よくわからない。
まあ、それはともかく、一緒に食べようと思っていたのだが、今は主人であるアルマさんと、町長の会食のため、従者は一緒に食べることは許されないらしい。
もちろん、晩御飯抜きというわけではなく、後できちんと食事は出されるようだけど、貴族の食事って色々面倒くさいね。
でも、おかげでアルマさんのレベルアップをしやすい状況ではある。
俺は従者としてアルマさんの背後に控えている必要があるから、暇だしちょうどいい。
そう言うわけで、さっそくレベルアップをさせることにした。
「(えーと、レベルアップして……覚えられるかな?)」
ひとまず、レベルアップして上昇させる能力は前回と同じでいいとして、お次は『スキルを取得する』を選択する。すると、いくつかの候補が出てきた。
「(これは……この世界のスキルしか選択できない?)」
本来であれば、現在のクラスである【アコライト】の中からスキルを選べるはずだが、それらが一つも候補にない。
選べるのは、【弓術】とか【水魔法】とかのこの世界で見つけてきたスキルばかり。
これは、この世界の人はクラスを与えてもそれらのスキルは取得できないということなんだろうか。
でも、その割にはNPCスキルは選択することができるようである。
NPC扱いってことか? 確かに、俺やシリウス達をプレイヤーとすると、それ以外の人物はみんなNPCになるだろうけど、生きて動いている相手なのにな。
まあでも、NPCスキルも選べるっていうのはかなりの強みだと思う。
だって、NPCスキルの中にはかなり強力なものが多く揃っている。俺が持つ【無限の魔力】とか、魔法を使う人からしたらかなりのチートだろう。
強力なNPCスキルを与えるというのも手だが、今はまず与えるべきスキルがある。
「(【治癒魔法】のスキルは……あったね)」
昔習得しようとしてもできなかったというからもしかしたら体質に合わないものは取得できないのかとも思ったが、きちんと取得できるようだ。
これで、ひとまず最低限【治癒魔法】を使うことはできるようになるはずである。
一つはこれでいいとして、残りの一つは何にしよう?
「(二つとも【治癒魔法】を選択して一気にスキルレベルを2にするのもありだけど、できればいろんなことを幅広くできるようにさせてあげたいよね)」
スキルの取り方として、特化型とバランス型の二つがある。
特化型っていうのは、特定のスキルだけを伸ばしていくやり方で、その方面には滅法強くなるが、他が点でダメになるとがった取り方だ。
で、バランス型はいろんなスキルをバランスよく取って行って、最初にできることを増やしていくという取り方。
どちらも最終的な形は同じになることが多いけど、最初にできることを増やすか、それに特化するかで変わってくるわけだ。
できることなら本人の希望を聞きたいところではあるけど、最終的に回復と攻撃を両方行える【クルセイダー】を目指すのだとしたら、バランス型の取り方の方がいいとは思う。
ただ、問題があるとすれば、俺がいなくなった後、それらの育成はすべてストップするということだ。
「(特化型の場合、やりたいことはすぐできるけど、それ以外がおろそかになっちゃうし、【治癒魔法】を2にしたところでせいぜい見習い程度。きちんとしたレベルにするんだったら5は欲しいし、最悪この世界のスキルは修行で上げることもできる。そう考えると、ここはNPCスキルの一つを上げるべきかな)」
【治癒魔法】は1でも取得しておけば後でレベルアップできる可能性がある。しかし、NPCスキルは俺が与えないと多分発現しないだろう。
なら、もう一つのスキルはNPCスキルにするべきだろう。
では何にするかだけど……候補がありすぎるんだよなぁ。
「(無難に行くなら【無限の魔力】だけど、回復系のスキルの効果を上げる【エンジェルボイス】とか魔法の威力を上げる【超魔力】なんかも捨てがたい。【連続魔】で両方に対応するというのも手だし……)」
NPCスキルはキャラの特性を強化するものが多いからいくらでも候補が上がる。
その気になれば、空を飛ぶようにもできるし、水の中でも呼吸できるようにもなれる。NPCは何でもありだ。
これこそ意見を聞きたいけど、アルマさんにそんなこと聞いてもわかるわけないし、ここは俺が選ぶしかない。
「(……まあ、ここは【無限の魔力】にしておこう。魔力が切れないっていうのはかなり便利なことだろうし、攻撃にも回復にも便利でしょ。これ以上レベルを上げられないかもしれないし、無難なのを選ぶのがいい)」
【治癒魔法】は修行によって上げる方向で行こう。
もちろん、次にレベルアップできるならそっちで上げてもいいけど、今後も【治癒魔法】を使っていくというのなら修行でやった方が本人も扱いやすいでしょう。
【無限の魔力】があれば魔力で疲れることはないだろうし、修行もしやすいと思う。うん。
そんなわけで、取得するスキル二つが決まった。
これに関しては、後でアルマさんに伝えるとしよう。
俺はほっと息を吐くと、アルマさんの食事が終わるのを待った。
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