第七十九話:危なげなく終了
結果的に、危なげなくすべて狩ることができた。
慌てていたせいか、最初の一発を除いてアルマさんの攻撃はほとんど外れてしまったけど、それでも全く当たらなかったわけではない。
掠ったり、すぐ横を通ったりして多少の牽制にはなったし、まだ子供にしては魔物を恐れずに攻撃をし続けられただけましだろう。
まあ、おかげで不規則な動きを誘発させてしまい、少し狙いにくかったんだけどさ。それは言うまい。
周りに敵がいなくなったことを確認し、アルマさんのキャラシを確認する。
ホーンウルフは雑魚レベルなのでそこまで経験値は多くないと思いきや、思ったよりも入っているようだった。いや、ハウンドドッグの分の経験値が多いのか?
経験値の数値はまとめられてしまうため、どの魔物からどれほどの経験値を得たかどうかはよくわからないけど、予想よりは多かったように思える。
これなら、再びレベルアップすることも可能だろう。とりあえず最低限の目標を達成できたようで何よりだ。
「アルマ様、お疲れ様なの」
「え、ええ……ほんとに強いのね、アリスは」
「うん?」
キャラシを見ていて気付かなかったが、アルマさんは俺の方を見て少し呆れたような視線を向けていた。
なにか呆れられるようなことやったっけ? むしろ、護衛の二人が手を出す暇もないくらい圧倒的に倒したと思うんだけど。
「弓であの数を一切寄せ付けずに倒せる人なんていないわよ。逃げているのを追うのとは違うんだから」
どうやら、俺があの数を弓で倒しきったことに驚いているらしい。
確かに、ホーンウルフが大体十匹ちょい、ハウンドドッグが三匹程度だったので、最初に一匹仕留めていたとしても最低でも十匹以上を同時に相手取ったことになる。
弓には矢をつがえるための時間が必要なので、二、三匹程度ならともかく、十匹もいたら間に合わなくなるのは当然のことだろう。
だけど、それは普通にやった場合であって、俺は【ラピッドショット】という速射できるスキルを併用してやっていたからそこまで気にならなかった。
弓で矢をつがえる時間をなくせるというのはある意味でチートなのかもしれないね。
「言ったはずなの、アルマ様には指一本触れさせないって」
「それはそうだけど……」
まあ、仮に怪我をさせてしまったとしても、【ヒールライト】ですぐに治せると思うけどね。
でも、回復系のスキルもどこまで通用するかわからないし、怪我しないで済むならそっちの方がいいに決まっている。
治ったとしても、痛いのは嫌だろうしね。
「レベル55ともなるとこれくらいが普通なのかしら」
「いえ、あれは高レベルでもおかしなことだと思いますよ」
「冒険者でもあんな弓使いいません」
「そうよねぇ……」
【ラピッドショット】以外は特にスキルも乗せていなかったんだけど、そんなにおかしなことなんだろうか?
この世界の弓を使う人は、【弓術】というスキルでその熟練度がわかるようだけど、一応俺も【弓術】を持っている。しかも、そのスキルレベルは以前よりさらに上がって8に到達している。
大体、スキルレベル5くらいで熟練レベルと考えると、8は多分弓の天才とかそんな感じじゃないだろうか。
一応スキルレベルは10まであるようだけど、そこまで行ったら化け物レベルだろうな。
【弓術】のスキルはこの世界に来てから取得したものだし、必ずしもそれくらいのレベルになっているかと言われたら微妙なところだけど、熟練冒険者として弓を極めてきたアリスなら、そのうち10まで行くんじゃないかね。
まあ、仮に今のレベルが8だと考えるなら、そんなに見たことないのも納得なのかもしれない。
「アルマ様、これで多少の経験は積めたはずなの」
「あんなのでいいの? ほとんど、というか全部アリスが倒しちゃったけど」
「アルマ様が攻撃した魔物が倒されたのだから、それでいいの」
「なんか納得できないわね……」
一応、この世界でも魔物を倒せばレベルアップしやすくなるというくらいの認識はある。
国の騎士とか兵士、あるいは冒険者など、魔物などと戦う機会が多い職業の人は教会に行くとレベルアップする確率が高いらしいから、それで魔物を倒せばレベルが上がるのではないかと言われている。
だからこそ、アルマさんの両親もアルマさんに狩りをさせていたんだろうしな。
しかし、基本的な経験値の稼ぎ方は日々の修業であり、それを欠かしては上がりにくくなると思われているようだ。
確かに、レベルがすべてというわけでもないだろうし、ある程度の体の動かし方を把握しておくのは重要だろう。
同じレベルだったとしても、いきなりレベルが上がった人と日々訓練をしている人だったら後者の方が強い気がするし。
だから修行するのは間違っていない。ただ、それが主な手段となっているのは間違いだと思う。
魔物が強いから、できるだけ強くなってから戦いたいのはよくわかるけど、ホーンウルフ程度だったらレベル1でも普通に倒せると思うし、まずはそこら辺を倒して手早く強くなった方がいいと思うんだけどな。
「再度確認するの。アルマ様はレベルアップしたいの?」
「そりゃしたいけど、レベルアップには教会に行く必要があるわ。いくら魔物を倒したと言っても、ほとんどアリスが倒したようなものだし、これくらいじゃ上がらないと思うんだけど」
「確かに、レベルが上がるほどレベルは上がりにくくなるけど、アルマ様のレベルならまだ上がりやすい方なの」
「あれ、私自分のレベルなんて言ったかしら?」
「……10歳ならそこまでレベルは高くないはずなの」
「まあ、確かにまだレベルは4だけど」
危ない危ない。キャラシでレベルは把握できるとはいえ、本来はちゃんと鑑定石を使わないとわからないんだった。
そう言えば、鑑定石って教会にしかないのかな? イメージ的には冒険者ギルドとかにもありそうだけど。
まあ、それは今はいいや。
「とりあえず、今は戻るの。そろそろ日が暮れるの」
「そうね、早く戻りましょう」
今すぐにでもレベルアップしたいが、流石にここでレベルアップさせてもいきなり【治癒魔法】の確認はできない。
というか、自分以外の人にスキルを覚えさせること自体初めてだし、うまく行くわからないからね。
ひとまずは、戻って夕食の時にでもレベルを上げてあげよう。同意はさっきの会話ですでに貰ったしな。
「やっぱりここにいやがったか!」
さて帰ろうと思った時、不意に大きな声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには背中に大きな剣を背負ったスキンヘッドの大男が走ってきているのが見えた。
確か、バーンズさんだっけ? なんだってこんなところにいるんだろうか。
「てめぇなら絶対ここに来ると思ったぜ」
「なんでわかったの?」
「てめぇが持ってた依頼書の場所はここだからな。冒険者になれなかったことを悔しがって、鼻を明かしてやろうと考えるのは目に見えてる」
ああ、なるほど。つまり俺が悔しがって無茶な冒険に出かけたと思ったわけか。
確かに、冒険者になると言って結局なれなくて、大勢の前で恥をかいたのだから、それを悔しがって自分で倒してやると無謀な挑戦をしようとしても不思議はない。
まあ、俺にとっては無謀でも何でもない楽な依頼だったんだけども。
「……アリス、この方は?」
「バーンズっていうBランク冒険者なの。お昼にギルドに行った時に会ったの」
「おめぇはこのガキの友達か? 一応護衛は連れてきたようだが、こんな馬鹿に付き合ってこんなところまでくるこたぁねぇぜ?」
「何を言ってるのかしらこの人」
アルマさんがバーンズさんのことを可哀そうなものを見るような目で見ている。
まあ、この現状を見ればどうなったかなんて一目瞭然だもんね。
そういえば、せっかく倒したのに回収してなかったな。売れるかはわからないけど、一応回収しておいた方がいいかもしれない。
「ほら、送ってってやるから、ついてこい。帰り道の護衛くらいしてやる」
そう言って、背を向けて歩き出すバーンズさん。
口調は乱暴だけど、一応心配してきてくれたのだから、いい人ではあるんだろう。
ただ、その心配は俺にとっては不要なものだ。
Bランク冒険者がどんなものかは知らないけど、自慢してたってことはそれなりに高いんだろうし、自分の依頼を受けたらいいんじゃないかな。
「アリス、どうするの? なんか勘違いしてるみたいだけど」
「別に、勘違いさせておけばいいの。それであの人の気が晴れるのなら」
俺はアルマさんを抱き上げると、後に続く。
今はそれよりも、アルマさんのレベルアップの方が気になっていた。
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