第七十八話:経験値稼ぎ
「はぁ……」
「あら、アリス、お帰りなさい。依頼は受けられた?」
「だめだったの」
屋敷へ帰ると、アルマさんが迎えてくれた。
意気揚々と出て行ったのに依頼を受けられなかったとか申し訳なさすぎる。
というか、さっきから俺なにもできてなくね?
道中ではただ話してただけだし、【治癒魔法】の取得もさせられてないし、依頼も受けられてないし、まじで何もできてない。
実力自体はあるのかもしれないけど、実戦にならないと役に立たないのではいずれ必要とされなくなってしまう。
ここは何としてでもアルマさんのレベルを上げて、株を上げなければ。
「アリスって、どこか抜けてるわよね」
「ぐぬぬ……」
「でも、全く案がないってわけでもないんでしょう?」
「まあ……」
ギルドでも考えたことだが、一応できることはある。
ただ魔物と戦えばいいだけなのだから、依頼を受ける必要はぶっちゃけない。
ただ、依頼を受けた方がお金とかも貰えて一石二鳥を狙えるのと、単純に冒険者なのだから依頼を受けなければと思っただけであって、必ずしも依頼を受ける必要はないのだ。
幸いにして、あの時見た依頼に書かれていた場所は覚えている。そこへ行って魔物を討伐してしまえば、本来の目的は達成できるだろう。
まあ、ギルドとしてはちょっと迷惑かもしれないけどね。
「今から行くの?」
「まあ、行くなら早い方がいいの。準備はできてるの?」
「ええ、もちろん。ダグラズ達にも声をかけているわ」
「準備がいいの」
アルマさんとしても早く【治癒魔法】を覚えたい気持ちはあるらしい。
果たしてうまく行くかはわからないが、できることなら覚えてほしいな。
「それじゃ、さっそく行くの」
「おー」
ギルドで多少時間を潰してしまったが、日はまだ高い。
話を通していたこともあって、ダグラズさんもエイドさんもすぐに準備を整えてついてきてくれた。
先程会ったばかりの門番に挨拶して、魔物の巣穴があるという場所へと向かう。
「アルマさん、ちょっとこっちに来るの」
「どうしたの?」
「よっと」
「きゃっ……!」
私はアルマさんを抱き上げる。
馬車を使っていくというのも手だけど、巣穴までは別に道があるわけではないので馬車ではかなりガタガタすることだろう。
それにそこまで距離があるわけでもないので、わざわざ馬車を使うメリットはない。
でも、そのまま歩いていくだけではアルマさんの体力が心配だし、だったら抱え上げてしまおうという結論に至った。
アリスの筋力が高いというのもあるけど、アルマさんはかなり軽かった。
ちゃんと食べているんだろうか。いや、貴族なんだしそれなりに食べてはいるはずだけど、あんまり太ってないよね。
ちょっと心配だけど、そこはアルマさんの努力の賜物ということにしておこう。
「それじゃ、行くの」
「あ、アリス、重くないの?」
「全然大丈夫なの」
「そ、そう……」
急に雇い主が抱え上げられて顔を見合わせていたダグラズさんとエイドさんだったが、特に何か言うことはなくついてくる。
日は高いとは言っても、現在は秋も終盤。うかうかしているとすぐに日は落ちてしまうだろうし、早めに行くに越したことはない。
俺は少し小走り気味になりながら、魔物の巣穴がある場所へと向かった。
しばらくして、前方に巣穴らしきものが見えてくる。
【イーグルアイ】で強化してみると、一応目に見える範囲で巣穴が二つあるようである。
それぞれの近くにはホーンウルフとハウンドドッグがいて、それぞれを威嚇しあっているようである。
ホーンウルフはともかく、ハウンドドッグは雑魚の中ではそれなりの強さだった気がするけど、なんでホーンウルフなんかと敵対してるんだろうか。
『スターダストファンタジー』と同じなら、ホーンウルフぐらい簡単に倒せそうなものだけど。
「……いや、多分あれ子供なの」
ハウンドドッグをよく見てみると、かなり小さいようだった。つまり、多分子供なんだと思う。
親はどこへ行ったんだろうか。巣穴の中にいるってわけでないだろう。いるんだったら、たとえ手負いでも子供の前に出てくるはずだし。
となると、討伐されたと考えるのが自然かな。今までにも、何度か町に現れたことがあると言っていたし、その際に討伐されてしまったと考えるのが自然な気がする。
まあ、餌を取りに別の場所に行ってるという可能性もないことはないけど、こんな近くに敵がいるのに子供だけ残していくわけないだろうしなぁ。
子供とはいえ、ハウンドドッグ自体がそれなりの強さだ。ホーンウルフとは比べるべくもないので、何とか拮抗できてるってことなんだろう。
さて、数はそれなり。経験値稼ぎにはもってこいだとは思うけど……。
「……アルマ様、あそこのホーンウルフに狙いを定めるの。【火魔法】よりは【水魔法】の方がいいと思うの」
「わかったわ。失敗したらフォローお願いね」
「任せるの」
「ダグラズとエイドも、お願いね」
「もちろんです」
「今度は失敗しません」
位置関係としては、ハウンドドッグがこちらに背を向けていて、ホーンウルフがその奥にいる形である。
だから、狙いやすさで言えばハウンドドッグなんだけど、まあ、攻撃すればどちらもすぐにこちらに気づくだろうし、どちらを狙っても同じことだろう。子供のハウンドドッグなら迂闊には近寄ってこないだろうし、それなら襲い掛かってくる可能性の高いホーンウルフを狙った方がいいと思う。
……子供を狙うのがちょっと心苦しかったっていうのもあるけど、アリスは全く気にしていないようだ。ほんとに、この感覚は慣れない。
「それじゃあ……ウォーターボール!」
アルマさんの掛け声とともに、小さな水球が飛んでいく。
結構距離は離れていたが、特に狙いがずれることもなく、ホーンウルフの一体に直撃する。
きゃん、と悲鳴が聞こえ、倒れ伏すホーンウルフ。
あれで倒したわけではないだろうけど、スキルレベルが高いからそれなりにダメージは与えられたようだ。
しかし、それに気づいた他のホーンウルフがこちらに狙いを定める。
少し遅れて、ハウンドドッグもこちらに気づいたようで、警戒するようにぐるると唸り声を上げる。
どちらのタゲもとってしまったか。まあ、これは想定内なので問題はない。
「き、気づかれたみたいよ」
「落ち着くの。アルマ様はとにかく向かってくる奴に魔法を撃ちこみ続けるの。ある程度近づいた奴は私が撃ち落とすの」
「そ、そんな早く撃てるの?」
「大丈夫、私を信じるの」
ひとまず、アルマさんにはとにかく攻撃してもらわないと話にならない。
多分、一緒に行動しているからパーティ扱いだとは思うけど、正式に組んだわけではないし、攻撃していなかったら入らない可能性もあるから攻撃することは重要だ。
アルマさんは指示通りに【水魔法】を放ち続ける。ただ、最初の魔法と違って、精度はかなり落ちていた。
まあ、迫ってきているわけだし、当てなきゃと焦る気持ちはわかる。
だけど、焦りは戦いにおいてかなり邪魔な存在だ。
いつも通りにする。それができれば一番だけど、それができないことも多い。
だからこそ、常に落ち着くことが重要だ。まあ、これはアリスの考えみたいだけど。
「さて、アルマ様には指一本触れさせないの」
俺は背負っていた弓を構えて、矢をつがえる。
うち漏らしは許されない。けど、それを気にして焦るほどアリスは心構えができていないわけではないようだ。
冷静に相手を見定めながら、近い順に撃ち落としていった。
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